第71話 〜傷ついた命の苦悩〜 15
やがて、俺の力は尽きて地上へと下降し始める。
その瞬間、世界は再び暗闇へと包まれた。
「健っ!」
そんな真っ暗な地上では、先輩が手を伸ばして待ってくれていて
「・・・健っ!」
降りてきた俺を抱きしめてくれた。
「・・・先輩、北条さんは・・・・・俺・・・?」
限界まで力を使った反動か、頭がぼんやりとしていた。
本当に俺はやれたのか? アレは俺が見た幻ではなかったのか?
ソレを先輩に確認したかった。
「大丈夫です。健は本当に良くやってくれました・・・・・・お陰で北条さんだけではなく、他の傷ついた夜の存在も、殆どその全てが救われました。私が出来ない事を、貴方はやり遂げたんですよ」
俺の姿を見て、その言葉を聞いて察してくれた先輩が、膝枕をして少し興奮しながらも詳細を教えてくれた。
よく見れば、先輩は涙を浮かべていた。悲しみのそれではないが、その涙を拭いたくて、俺は先輩へと顔を近づける。
・・・・・・ちゅっ。
「た、たけ・・・るっ!?」
本来ならしょっぱいはずのそれが、何故だかとても甘く感じた。
「・・・まだ、全部拭えてないから・・・じっとして・・・・・」
「ん・・・っ?!」
普段よりも低音の声に、先輩が身体を震わせる。どうも俺はまだ大きくなった状態のようだ。だからだろう、気も大きくなっていた。
普段なら絶対にできないことを・・・・・・先輩の涙をキスで拭っていく。
「やぁ・・・んっ・・・・ひゃぁ・・・っ!」
唇に吸われる度に身体を震わせ、女の子の声を上げる。
「・・・萌先輩」
「も、もう・・・終わりましたか・・・・・?」
少しだけ距離を取って、先輩の顔を見る。真っ赤に染まった先輩は普通の女の子の顔をしていた。
そんな愛らしい顔を見せられて、俺は我慢ができなかった。一応、それを求める理由はあったが、それよりも感情的に先輩が欲しかった。
身を起こして先輩を抱きしめ、頬へと手を添える。
「また、キス・・・してもいいですか?」
「・・・ま、まだここが安全と決まった訳では・・・・・・」
「今までで一番暴れたから、今夜はもう安全だと思います」
「そ、それなら・・・治療の方が優先されるべきで・・・・・」
「それって、キスの方が効率良いですよね? 俺には分かりますからね?」
「そ・・・れは・・・・・」
「頑張ったご褒美に・・・ダメですか?」
「・・・・・・っ! そ、そんな顔をするのはズルいです・・・っ!」
弱ったような顔をして、俯かれてしまう。
「・・・・・ご褒美になんていわれたら・・・断れないじゃないですか・・・・・・」
それを許しと捉え、先輩の顎へと手を滑らせて顔を上げさせる。
「・・・萌先輩」
どこからどう見ても、今の先輩は普通の女の子だった。
比べようもない程の美少女が、普通に恥じらい、普通に戸惑っていた。
「た、健・・・その・・どう・・・ぞ・・・・・・」
瞳を閉じて、耳どころか首筋まで赤みを帯びさせる。それでも、キス顔をして俺を受け入れてくれる。
その嬉しさを噛み締めながら、三度目のキスをする。
「・・・んっ」
今度は力を借りるのではなく、癒やしてもらう。
初めはついばむように軽く、息を整える為に顔が離れた際には互いに見つめあい、またついばんで行く。
「ふっ、あ・・・っ! んんっ」
その内、重ねる時間は自然と伸びていく。
重ねた唇から、暖かくて優しい癒やしが、萌先輩から俺へと流れ込んでくる。胸が先輩からの愛情に満たされて熱くなる。
「んっ、うんっ・・・んぁ・・っ?」
その感情のままに、先輩を地面へと押し倒してしまう。今はもう敵意を気にする必要はなかった。
少なくとも、誰かに見られているような視線を除いては・・・・・・だが。
現状敵意はなく、観察をしているようだが・・・・・万が一に備えて、先輩とこうして交じり合っておきたかった。
「ふっ、んっ、うんん・・・っ!」
そう自分に言い訳をして、俺は先輩を貪っていく。
襲うならば、降りてきた瞬間にしているはずだからだ。もしも今襲ってきても、先輩に少しでも癒された状態で戦えた。そんな頭の悪い事をすることは絶対にない。
「はあ、はあ・・・た・・ける? これは・・・大丈夫なの・・・ですか・・・・・・? もし、今襲われたら・・・・・」
息を落ち着けようと、一旦顔を離したところで確認される。やっぱり、先輩もこの視線には気づいていたみたいだった。
「大丈夫だと思っているから、降りてきた時に先輩は膝枕をしたんですよね?」
「・・・そう、ですね・・・・・恐らく・・・逃げても意味はないと思いましたし、それなら開き直って・・・そのようにさせていただきました・・・・・・」
見下ろす先輩の言葉は、顔の赤さとは反対で冷静だった。だからこそ、俺は言葉にしないといけなかった。
「先輩とこうしているのは、本音はキスがしたいだけです」
「・・・そんなに、したいのですか?」
「先輩は嫌ですか?」
「その聞き方はいじわるです・・・・・」
伸ばした腕を背中に回され、身体を抱き寄せられる。
「・・・わかるでしょ?」
困ったような顔で、とろけるような瞳で見つめられて、俺はもう我慢ができなかった。
「・・・・っ! 萌先輩っ!」
感情を爆発させ、俺はまた先輩を求める。
舌を絡ませ、また強く交わっていく。
「ん、ちゅっ・・・くぷっ、ふぁ・・・ああ・・・・・・っ!」
悩まし気な声に、俺はますます夢中になっていく。
ここまでくれば襲っているようなものなのに、それでも先輩は俺を受け入れてくれていた。抱きしめて、好きなようにさせてくれる。
その優しさが、その温もりが、その圧倒的な母性に・・・俺はどんどん甘えていく。
こうして俺は一晩中、萌先輩とキスをし続けてしまった。




