第70話 〜傷ついた命の苦悩〜 14
「あいつな、北条さんが俺に告白した事で、北条さんの事を好きなんだと思ったらしい。誰かに告白されてから、自分の気持ちに気づけたと、そう言ってたよ。そうなったのも、お前が持つその感情があったからだろ?」
「うそ・・・」
「嘘じゃないのは分かってるだろ? 切り祓う前に北条さんに言って、納得してたんだから、お前も否定しようがないだろ?」
少し冷静になり、記憶を思い出していた。
「でも、それで幸せになるのはあそこのあたしでしょ?! このアタシじゃないわっ!」
うーん、本当に俺も言いそうな事を言うな。この北条さんは。だが、だからこそやりやすい。
「いや、お前の感情が北条さんに戻らない限り、多分無理だ。何せ、お前が人を好きになる感情なんだから、それを滅ぼしたら好きになれないだろ?」
「・・・あっ」
俺の言葉に反応して、瞳に僅かな光が生まれる。
「切り祓いが上手くいかず、別れた存在になったから、そう思い込んでいただけだ。今度こそきちんと祓うよ。だから、現実で幸せな感情を味わえよ」
「でも・・・・そんな簡単に・・・別の人を好きになるなんて・・・・・・そんなの、本当に・・・いいの・・・・?」
心が揺らいでいる。
このまま押し切る。
「いいんだよ。そもそも、簡単に好きになんてならないだろ? 誰に遠慮する必要がある? 好きになってもらえない相手より、好きでいてくれる相手を好きになった方が幸せだろ? それを否定するなんて、誰にもできないさ」
「・・・でも、もし池崎君が実はあたしを騙そうとしてたら?」
「その時は池崎の奴を二人でボコろうぜ。よくも騙したなと、騙された者同士で好きなだけ殴りに行こう。赤信号 皆で渡れば 怖くない だ」
「・・・ぷっ、あははっ! 健君は特待生なんだから、暴力はダメだよ〜っ!」
ようやく明るい表情を見せてくれた。
「・・・・・でも、そっか・・・・池崎君は、このアタシの感情があったから・・・・・・好きだって気づいたんだね?」
「恋愛漫画とかの『誰かの恋人になった瞬間、自分はあいつが好きだったと気づく』やつに近いな」
「それに・・・健君も、アタシに向き合ってくれたもんね・・・・・・」
「俺はただ、自分のしたいようにしただけだ」
「ネウス様もそんな事を言って、何だかんだヒト助けをしてたわよ? やっぱり、健君はネウス様に似てるわ・・・・でも、まだ子どもだから・・・・・・お姉さんである『リーベ』じゃなきゃダメなんだね・・・・・」
諦めがついたように、言葉を吐き切る。
・・・それは確かに、そうかもしれない。
実の母親から愛されなかったから、甘えさせてくれる先輩に・・・・・萌先輩だけがくれる、母性的な愛情で・・・それを埋めようとしているのかもしれない。
「・・・じゃあ、お願いしても・・・いい? 今更、調子のいい事言ってアレだけど・・・・・・」
「人間なんてそんなもんだろ? 俺だって、都合の良いときには先輩に甘えてるしな」
「・・・そうだよね。誰だって『甘えたい』よね。アタシは健君に、甘えさせてあげることを考えてあげられなかった・・・」
「でもさ・・・」
「?」
「誰よりも先に、俺を好きになってくれただろ? だから、ありがとう。こんな俺なんかを好きになってくれて・・・その感情は素直に嬉しいよ」
「・・・そっか、嬉しいんだ。アタシからの告白でも・・・喜んでくれるんだ・・・・・・えへへ・・・っ! ・・・・うれ・・しい・・・な〜・・・・・」
また涙を溢れさせるが、今度のそれは温もりを感じられた。
「・・・誰からも好かれなかった人間だからな。純粋に女の子に好かれて、嫌なわけがない。ただそれを、素直に受け取れなかった俺が馬鹿なだけで、その尻拭いをするだけだ。だから————」
「『————北条さんは何も気にしなくていい』でしょ?」
困った。先の言葉を読まれてしまった。
「あはは・・・っ! 何となく、健君がどういった子かようやく分かってきたわ」
全てを振り切れた笑顔を見せてくれる。これなら、もう大丈夫だと思えた。
「優しいね・・・凄く、とっても・・・・悲しいくらいに優しいよ・・・・そんな健君は、きっと誰よりも・・・・・・だから、先輩なんだね・・・・・」
ちらりと、光の中から心配そうにこちらを見上げ続ける先輩を見て、何かを確認してまた俺へと視線を戻す。
「・・・うん、先輩以外の人に・・・健君は無理ね・・・・・・誰も健君に釣り合わないわ・・・今なら分かる」
一体何が視えたのかは分からないが、感情的にも完全に納得できたようだ。
「長々とごめんね。それじゃあ、お願いします・・・・・・萌先輩の・・・健君?」
涙を流しながら、綺麗な笑顔で先輩との関係を認めてくれた。
辛くないはずがないだろうが、それでも先輩への感情を引っ込めてくれた。ならば、俺はそれに全力で応える。
「『剣よ、カミナリの剣と成りて我が手に戻れ!』」
武器として使っていた剣を、別の剣へと変化させる。
白き雷のような刀身へ、その身を転化させた剣を握りしめて構える。そして、俺は言葉を紡いでいく。
「『時空を切り裂く空の支配者よ!』」
目の前の命が救われるように、先輩から借りた力と、俺自身の力を合わせて、ハッピー・エンドへと続く未来へと切り開いて行く。
「『今、その力を持って救いの世界への扉を開かん! 傷ついた異心が癒やされ、救われる世界を!』」
強き輝きを発する剣を、天空へと勢い良く振り上げる。
剣先から白き稲妻が空を割らんばかりに走り回り、傷だらけのこの世界を切り裂いて行く。
暗闇に支配された天空が、今は白き閃光によって、輝きへと支配権を移していた。その空へと昇れば、そこには救いがあった。
先輩の力が必要なのはここからだ。
今はこの世界を割って、救いの世界を開いたに過ぎない。だが、まだ道は出来ていない。そこへと至る道が。
ここから先輩の力を—————放つ。
「『救済の願いに応え、救いの道を示せっ! 神鳴りの剣!』」
手にする剣に全ての先輩の力を載せ、槍のようにして天空へと投げる。光の軌跡を描き、救いの世界へとその剣は飲み込まれていく。
天空が点滅し、雷が落ちるかのように一際光ったと思ったら、目の前には光の柱が出現していた。それも、何十本もの数が至る所に————世界が反転でもしたかのように、光に満たされていた。
「「健君、ありがとう・・・・・・」」
北条さんの声が二つ聞こえてくる。
声の主達を見れば、光の柱に吸い上げられるようにして、二人が空へとゆっくりと上がって行く。いや、二人だけじゃなく・・・・・・何人もの傷ついた夜の存在達もだ。その数は数え切れなかった。
「あたしを助けてくれて・・・」「アタシを見てくれて・・・・・」
『本当にありがとう』
二人の北条さんが一人になる。元に戻った北条さんは、そのままやわらかく微笑みながら、空へと消えていった。
俺はその場で傷ついた命たちが昇れるようにと、ただひたすら救いの世界の維持に努めた。




