第69話 〜傷ついた命の苦悩〜 13
「ごめんごめん。やっぱり、好きな人が女の人とキスしてるのって、何かもやもやしちゃうんだよねー」
もし、先輩が別の誰かとキスしてるのを見せられたらと思うと・・・うん、ヤバイ。拷問かも・・・
「あっ、健・・・・」
俺は何も言えず、力の入らない先輩を地面へと優しく座らせる。
「もう、だからそんな風にしなくても・・・・」
「萌先輩は・・・俺だけのお姫様ですから。それじゃあ、今度こそ行ってきます」
「・・・どこに行くっていうの?」
声の主を見れば、禍々しい色を強くし、この世の全てを憎んでいるかのような目で見下ろしてきた。その目には、光の欠片すら見えなかった。
「北条さんがいる空にだよ。『飛べ』」
光の守りから抜け出し、俺も同じ場所へと昇る。
空中戦とかやったことないが、今回は別に戦う気はなかったから、そこはどうでもよかった。
「じゃあ、アタシとずっと一緒に居てくれるの? あの女を捨てて、アタシと・・・・」
「いや、俺が好きなのは萌先輩だ。悪いが北条さんに俺は重荷だろ? 俺は甘えたがりだから、先輩のような甘やかせてくれる人じゃないと駄目なんだ。俺はまだまだガキだから・・・」
「そんなことないっ! 健君は格好いい男の子だよ?! だから、アタシは好きになったのっ!」
「それは幻想だよ。俺の本性を見たら、すぐに幻滅する」
「そんなの、どうせアタシと付き合いたくない嘘でしょ?!」
「じゃあ、視てみるか? 『動くなよ?』」
相手を拘束する。
先輩の力ではなく、俺の力で。
これは試金石でもあった。
「・・・・・っ! 何でっ?! 動けな・・・」
やっぱり、純粋な力のレベルは俺の方が上だった。
大体召喚系の奴って、本体が弱い事もあるからな。だから、大型がヤラれた時点で、北条には力による勝ち目は消えていた。
動こうともがく北条へと近づく。
「安心しろ。お前を滅ぼしたりはしない。ただ、昨日の放課後の、俺の情けない姿を『見せてやる』だけだ」
目の前にまで移動し、手を頭にかざして、イメージしたあの時の映像を送り込む。
先輩が俺を癒やすときに見てるであろうことを、先輩の力を使って逆に相手に見せてみる。きっと、できるはずだ。
「えっ?! 嘘っ!? 何でこんな映像が視えるのよ?!」
先輩の胸の中で涙を流し、鼻水を垂らしながら、泣き声を上げる俺を見せていく。
「やめてっ!! 健君はこんなんじゃないっ! こんなの健君じゃないっ! こんな・・・幼児な健君は嘘よっ!! いやぁあああああっっっ!!??」
自分の中の理想が崩れて、北条が発狂する。誰しも理想には裏切られるもんだ。
「分かったか? 俺はそんな人間なんだよ。それでも俺を好きだと言えるか?」
「・・なんで、なんで最期まで騙してくれなかったの!? どうせアタシを倒すくせに・・・どうして残酷な真実なんかを見せるのよぉぉおおおおっっっ?!」
泣きながら叫ばれる。もうヤケクソなのか、俺に倒される事すら疑っていなかった。
「・・・倒す気はないさ」
「じゃあ、どうするっていうのよ?!」
「好きなだけ暴れろ。『解除』」
北条の拘束を解き、自由にさせる。
動けることを確認した北条は、もう感情のままに俺へと言葉を投げつけてくる。
「『ばかっ! ばかっ! ばかぁあああああっっっ!!!』」
怒りの矢が俺へと放たれる。
それを避けることはせず、そのまま大人しく突き刺される。
「健っ?!」
先輩の驚く声が聞こえるが、それでも俺はされるがままにやられていく。
「嘘つき! よくも騙したわね! 男なんて皆嘘つきぃっ! 『死んじゃえっ! 死ねっ! 消えろっ!』」
「〜〜〜〜っ! 健・・・っ!」
必死の矢に射たれた俺を見て、先輩が悲痛な声を上げる。
先輩の気が気でないような声に胸が痛いが、俺は大丈夫だ。
「なんで・・・何で死なないのよ?! だったら、直接・・・!」
創造した槍を握り締め、真っ直ぐに突っ込んでくる。狙いは俺の心臓だった。
「『死ねっ!』」
でも、その槍が俺を貫くことはなかった。胸に当たったまま、俺を貫けずにいた。
「どうして?! どうして貫けないのよ!?」
「俺を本当に殺す気がないからだろ?」
この北条は戦う前に、俺を殺す気はないと言っていた。当然だろう。俺に固執する事がこの北条の存在理由なのだから、俺を殺せば存在できなくなるのは自明の理だ。
「そんな事ないっ! アタシは健君を・・・殺してアタシも死ぬの!」
一見筋が通っているが・・・
「じゃあ、何で『最期まで騙して欲しかった』なんて言葉が出るんだよ?」
槍の柄を掴み、そのまま目の前まで引き寄せる。
「殺される前提で話をするのは、そう望んでいるからだろ?」
「それは健君が強くて、アタシじゃ勝てないからでしょ!?」
絶望で光を失った瞳からは、涙が止まることなく流れていて、戦意など微塵も感じなかった。そこには深い哀しみしか見えなかった。
ただ、どうしようもないから、暴れているだけだ。世界の理不尽に何も出来ない自分が嫌で、自暴自棄に振る舞うしかなかった。もう、それしかできなかった。
「ほら、それなら俺を殺して死ぬことはできない。だから、殺されたいんだろ?」
「〜〜〜〜っ! うるさいっ!」
胸を殴られる。まるで小さな子供のようだった。
「もう・・・嫌なんだろう? 辛いんだろう?」
「うるさいっ! うるさいっ! 知ったような口を聞くなっ! アタシじゃなく、先輩を選んだくせに優しくするなっ! 殺すならさっさと殺せっ!」
何度も何度も、泣きながら胸を殴られる。悲痛に叫びながら殴りつけてくる。
俺はただ黙って彼女の叫びを聞く。傷だらけの命の苦悩を。
「どうせアタシなんか何の意味もないんだっ! 誰もアタシなんか見てないんだっ! こんな感情のアタシなんて、誰にも見向きなんてされないんだっ!!」
頭をドンとぶつけて、服を力の限り握りしめ、その状態から顔を見上げられる。
「どうして・・・アタシは幸せになっちゃいけないのよぉ・・・っ?!」
枯れる事のない涙が、雨のように地上へと落ちていく。
「なれる可能性はあるさ」
「どこでっ?! 誰がっ?!」
「池崎の奴が、現実でしてくれるかもな」
「・・・えっ?」
突然の名前に驚かれるが、そのまま話を続ける。




