第68話 〜傷ついた命の苦悩〜 12
「へっ?! な、なに!?」
「『自業自得』って、どういう意味なんだ? 普通なら『落ち込んでうつだから』とか『振られてむしゃくしゃした』じゃないか?」
「あ〜・・・普通そんなとこ気づく? まあ、健君が戦ってる間に萌先輩にも軽く言ったんだけど・・・あたし中学時代に男に騙されてさ・・・・その、かわいいから付き合って欲しいって言われたんだけど、その相手が最低で・・・・・うん、もう最低だったっ! 最低最悪っ!!」
声を震わせる程、かなり嫌な記憶なんだろう。本来なら根掘り葉掘り聞きたくないんだが、今は考えられる原因は全て聞かなければいけなかった。
俺はただ黙って、北条さんが話すまで待つ。それくらいしかできなかった。
少しして、感情を落ち着かせた北条さんが続きを話し始める。
「・・・初めてのデートでね・・・・初めてできた彼氏だったから、お洒落も頑張って・・・・待ち合わせの場所まで行ったんだ・・・・・そしたら、そいつね・・・何て言ったと思う?」
「・・・・っ!」
萌先輩は二度と聞きたくないのか、耳を手で抑えていた。
先輩がこうするって・・・一体何を言いやがったんだ?
「・・・用事ができたから無理になった?」
質問されたので、回答はする。でも、少しズラした・・・間抜けな回答だ。ここで当てに行く必要はなかった。
「うん、意味としてはそれが正しいよ? でもね・・・あいつはね・・・・っ!」
涙を流しながら、震える声で、精一杯続きの言葉を繋げる。
「『いま一番の彼女からの予定が入ったから、三番目の君とはまた今度にしよ』って、そう言ったのよっ!」
極まった感情を発散するように、大声で叫ぶ。そうなるのも当然だった。
死ね。その男は苦しむだけ苦しんで、絶望の果てで死ね! 平気で人の心を傷つける奴なんか、死んでしまえばいい。
「あたし以外の女の子と先に付き合っていながら、あたしと付き合おうとしていたのっ! それであたし頭にきちゃって、そいつにビンタして振ってやったのっ! だから、ひょっとして健君も・・・って、萌先輩と付き合ってるって言われた時、そう思っちゃったの」
だから図書室から帰るあの日、あんなに必死に自分と付き合ったほうがいいと言っていたのか・・・
「それで、必死に先輩と離れさせようとしたんだけど・・・・昨日の夜の二人を見たら、本当に萌先輩は健君が好きで・・・・そうなると、あたしには勝ち目はないし・・・あんなに必死になってたのは馬鹿で・・凄く惨めになって・・・・・それで先輩が居なければ・・・健君があたしに優しくしなければって、そう思ったら感情が抑えきれなくなっちゃったの・・・・・・本当にごめんなさいっ!」
今度は北条さんが、さっきの先輩みたいに涙を流しながら頭を下げる。
「だから、あたしが今後誰かを好きになれなくなるのは、仕方のない事だと思うの・・・」
「・・・北条さんも悪くない。誰も、悪くなんてないんだ」
自然とそう呟いていた。
「・・・どうして・・そんなに優しいの・・・・? 好きだと言って、結局は健君を困らせてるのに・・・?」
「それだけ本気だったんだろ?」
「・・・・っ!」
「そうじゃなきゃ、そんなに苦しむことすらしないはずだ」
「で、でも・・・あたしは・・・・二人に酷いことを!」
「人間誰しも誰かに酷いことはしちまうもんだろ? 例え傷つけるつもりがなくても、傷つけてしまうことがある。いわゆる『罪を憎んで人を憎まず』だ」
「〜〜〜〜っ! も、もうっ! どうしてそう・・・健君は格好いいのかな・・・・」
「いや、別に普通だろ?」
何で顔を赤くするのかは分からないが、とりあえず少しは感情が落ち着いたかな?
それより、あの北条の原因はこれだと思えたし、そろそろ————
「健・・・行かれるのですか?」
先輩も涙が止まったようで、腕の中から心配そうに俺を見上げてくる。
離れたくなさそうと感じるのは・・・・・・俺の自惚れかな?
「いえ、あの北条が来るまでに、もう少しだけ先輩の力を強く貸して貰えませんか? 俺の予想が正しければ救えるかもしれません」
いや、弱気になるな。この世界での弱気は敗北に繋がる。だからこそ、成功だけを宣言する。
「いえ、救ってみせます。傷ついて孤独な心を滅ぼすなんて、俺はそんな選択はしたくない。俺の切り祓いが不完全だったのは、恐らく『救済』の力がなかったから・・・・だったら、先輩の力を俺が使えばいい」
「・・・健君」
先輩の目を見ながら覚悟を伝え、手を頬に添える。
「健・・・」
二つの力を使い続ける事が不安なのか、先輩はどこか消極的だった。それでも、俺は先輩の揺れる瞳を見つめ続ける。意志を、覚悟を伝え続ける。
俺の視線に負けたかのように、先輩は瞳を閉じて顎を上げてくれた。
「・・・んっ」
恥ずかしげに声を漏らしながらも、俺に唇を差し出してくれる。
「萌先輩」
今度はそっと、優しく先輩へと触れた。
「ん・・・っ!」
重なり合った瞬間、先輩がピクリと身体を震わせた。背中に回っていた手に、服を握り締められる。
「・・・うわ〜っ、本当にラブシーンだ・・・・・・」
「・・・う、んっ」
北条さんに見られる恥ずかしさからか、先輩が逃げようとするが、まだ離すには早かった。
申し訳ないと思いながら、腰に手を回して、キスをさらに深くしていく。
「ふっ・・・う、うん・・・・っ」
俺へと流れ込んでくる力が早くなる。もう少し、もう少しだけ繋がりを強くしないと・・・間に合わないかもしれない。時間的有余を考えると、またこれしかなかった。
「・・・んっ?!」
舌先で先輩にノックする。
思わず目を開く先輩に、俺は視線で訴える。
それに意を決した先輩は瞳を閉じて————
「・・・ちゅ、る・・っ」
俺の舌を吸い込み、自ら絡ませて来る。コレには俺が驚かされた。
だが、すぐに先輩との交わりに意識を切り替え、文字通り互いに互いを味わっていく。
「はぁ、んぁっ・・・・・・んぷっ・・・ちゅっ、くちゅ・・・・・」
今度は優しくしていく。
さっきは慌てていたせいで興奮してしまったが、今度は優しく・・・・・慈しむように愛でる。
「・・・ベロチューって、こんなに凄いんだ・・・・」
やってるこっちからしたら、割りとマジでヤバイ。
息が荒くなってくるし、頭が溶けそうだし、何より単純に気持ちいいから、理性をしっかり保たないと、このまま襲いかねなかった。
「は・・・っ! あ、ぁぁんん・・っ! むっ・・・・・ふ、ゃ・・・ぁっ!」
先輩も同じようで、声に色がつき始める。
このままヤっちまえ。そう頭によぎるが、今はそれは抑え込む。
もういいだろうと、俺は先輩の口内から舌を戻して唇を離す。俺がもう保たなかった。
「は、あ・・・っ! はぁ、はぁっ・・・うっ、んっ・・・たけ・・る・・・・?」
「・・・大丈夫ですか? 先輩」
「・・・だいじょうぶなわけ・・ありま・・・せん・・・・」
腕の中で脱力して、ぐったりとされる。どうやら足が立たないようだった。
「それ・・より・・・できそう、ですか?」
「いや、でも・・・今は・・・・」
ピンク色に染まった脳が、言葉にしてから失言に気づいたので、何事もなかったかのように言い直す。
「・・・はい、やり遂げてみせます」
「・・・健の、えっち・・・・」
耳まで赤くした先輩に、消え去りそうな声音でそう言われる。
・・・やっぱりバレるよな。俺が完全に、そっち方向の意味で言ってしまったことに。
「健君、さいてー」
北条さんにも、棒読みでそんなことを言われてしまう。
「・・・それについて言い訳はしない。でも、これで準備は整った。やれます」
「・・・えっちを?」
「〜〜〜〜っ!」
堂々とそう言われ、先輩に顔を背けられてしまう。なのに、視線だけは俺に向けていて、そんなのはダメですよと言っていた。
「ほ、北条さん・・・あんまり虐めないでくれると助かる」
先輩からの視線が痛かった。




