第67話 〜傷ついた命の苦悩〜 11
「健っ!」
光の中へ戻ると、萌先輩が俺の名を呼んで抱きついてきた。
「あのような戦い方をして、大丈夫なのですか?!」
心配そうに見上げてくるが、先輩も頭では大丈夫だと理解しているはずだ。ただ、以前と比べて余りにも派手に倒したので、見た目に驚いて心配しているだけだ。
「先輩の力を借りたお陰で、見た通り傷もなく平気ですよ。でも、そんなに心配なら————」
何時もと違って、今は抱きついてる先輩を見下ろす事ができた。そこから見る萌先輩は大人びた姿が消えていて、女の子としての愛らしさを溢れさせていた。だから、少し意地悪をしたくなってしまった。今だからできる意地悪を。
「さっきみたいに、キスしてもいいですか?」
「〜〜〜〜っ!」
ぱっと、両手で口を隠されてしまう。貪られていた時の事を思い出してか、顔も真っ赤だ。
その姿に俺の中の欲望が燃え上がる。
「・・・萌先輩、俺・・・今度こそちゃんと先輩とキスしたいです」
先輩の肩を掴み、目を見つめてそう言っていた。
「あっ・・・それは、私も・・そう・・・です・・・・・いきなりではなく・・きちんと、心の準備をしてから・・・・されたい・・です・・・・」
もじもじと、漫画のヒロインがする仕草をして、恥ずかしさで顔を俯かせる。最もその姿が似合う人に、そんなことをされて、俺の中で理性が飛びそうになっていた。
「・・でも、今はまだダメです・・・・・北条さんがいますから・・・」
ちらりと、横目に北条さんを確認する。
「あ〜・・・あたしなら気にせず、したいならどうぞ・・・・今のお二人凄く絵になるんで、ドラマのラブシーンと思えば何とか耐えられますし」
当の彼女は、コレまでの事を見てきたのもあってか、対して気にしてはいなかった。
「私が気にします! 人前でそんなはしたないことを、する訳にはいきません!」
「えっ? ええ〜っ??! あたし的には健君を寝かせて、開けた胸をキスして舐めていた時も、ヤバイと思ったんですけど?」
「・・・? アレは治療行為ですよ?」
「ん〜、じゃあ・・・そこからのキスは???」
「アレは生き残るのに必要な事でしたから、仕方がありません」
「んっ? んん〜っ??」
まあ、萌先輩ならそういうよな。キスのやり直しをしたいのも、アレはノーカウントだと考えているからだし。
「萌先輩。邪魔をされない内に、北条さんを癒やした方がいいのでは?」
二人のやり取りを見ていて、上手く毒気が抜けたので話を戻す。
先輩の肩からも手を離し、距離をとって変な気を起こさないようにする。
「あ、ひょっとして・・・先輩と早くキスがしたくて、あたしを帰したいんでしょ?」
否定はできないので、それにはノーコメントとして、先輩の返事を待つ。
「その事ですが・・・実は健が戦っている間に、そうしようとしたのです」
「でも、上手くいかなかった・・・?」
「・・・ええ。恐らく、あちらの北条さんが在り続ける限りは、無理なのだと思われます」
「そうなると・・・あの北条をどうにかしないと行けないわけか・・・・」
倒すなら簡単に出来るが、本当にそれでいいのか? 切り祓いの儀式で別れた存在を倒した場合、元々の本体に影響はないのか?
そう考えを伝え、自分の事を一番分かっているであろう北条さんに考えを尋ねる。
「・・・正直あのアタシを倒しても、あたしは死なないと思う。でも・・・」
「・・・心が欠けるんだな?」
元々は穢れを離して、それを浄化して元に戻す感じだったから、敵を倒してはいないんだよな。むしろ、清めた事で本来の自分に戻るというものだ。
それを倒すというのはつまり。
「うん・・・きっと、あたしはこれから・・・・誰かを好きになることはなくなると思う」
「そんな・・・それでは池崎さんとは・・・」
「・・・あ〜、うんっ! 何も恋愛だけが人生じゃないんだから、大丈夫ですよ! 大丈夫!」
努めて明るく振る舞う姿が痛々しく、先輩は顔を背けてしまった。
「・・・ごめんなさい。私が北条さんに嫌われなければ・・・・普通に癒やせたのに・・・本当にごめんなさい・・・・」
涙を流しながら、頭を下げて謝る。
雫がポロポロと、地面へと落ちていく。
「ちょっ?! 何で先輩が謝るんですか? あたしが勝手に勘違いして、それで暴走したんだから、自業自得ですよ! だから先輩は悪くありませんって!」
「けれど・・・」
泣いている先輩を慰めようとするが、先輩は素直にそれを受け取れない。きっと、自分だけは好きという感情を持ってしまう事に、後ろめたさを感じている。
同じ人間を好きになって、自分はその相手からも好かれたのに、北条さんはそれが叶わないどころか、もう二度と誰かを好きになれなくなることに・・・心を痛めている。
「あ〜、もうっ! 先輩も人が良すぎですよ! 普通は自分は幸せでラッキーくらいに思えばいいんです!」
「でも、それでは公平ではありません・・・・・」
泣きながらそう訴える。
先輩の涙は止まらない。
この涙は絶対に止めないといけなかった。止められないと、先輩の一生の傷になる。先輩がずっと苦しんでしまう。
そんなのは嫌だ。萌先輩が心を痛める世界なんて、俺は求めない。そんなものを俺は望んでなどいない!
「・・・大丈夫です。まだやれる事はあります」
だからまた希望に縋る。都合のいい未来を考える。
さっきの北条さんの言葉で、引っかかったものがあった。そこが今ある希望だ。
「「・・・えっ?」」
「結果があるのなら、原因だってあるはずなんだ。だから、あの北条さんが何で生じてしまったのかさえ分かれば・・・・解決できるはずだ。いや、俺が解決してみせます! だから、萌先輩・・・泣かないでください」
放課後してもらったように、今度は俺が先輩を抱きしめた。
「必ず、俺が何とかします」
「・・・健」
先輩が服を掴み、そのまま胸に顔を埋める。涙が止まるのは、もう少し時間がかかるようだ。
「北条さん、さっき言ってたことだけど・・・」
そのままの状態で、俺は北条さんに引っかかっていた言葉を確認する。




