第66話 〜傷ついた命の苦悩〜 10
ファーストキスだというのに、俺は容赦なく先輩を求めていた。
くちゅくちゅと、水音を立たせながら先輩の力と自分の力が混じり合っていくのが分かる。それが俺の胸の辺りで大きくなっていくのを感じる。
胸は動悸を起こし、身体が熱を帯びてくる。頭も熱に浸され、自分が溶けて生まれ変わるような感覚に酔っていく。
先輩も同じように感じているのか、身体をじっとできず微かに揺らしながら、俺との行為を続けてくれる。
「・・健君って、見た目と違ってオオカミさんなんだ・・・うわ、うわわ〜・・・・っ! 舌まで絡ませあってるとか、これもうヤってるじゃんっ! これもしかして、このまま最後まで・・・・」
「させるわけ無いでしょ!? こんな時にふざけてんじゃ・・・ないわっ、よぉおおおおおおおっっ!!!」
猛烈な勢いで近づいてくる殺意が、熱中している状態から、冷静さを取り戻させてくれた。
俺は直ぐに行き過ぎていた行為を止め、脱力して持たれて来た先輩を抱きしめる。その状態で、先輩の力と混じり合わせた力を解放させる。
「『爆ぜろ』」
瞬間、目の前が真っ白になるが直ぐに視界は戻った。
背後を見れば、北条の突進攻撃により、先輩の光の守りに無数のヒビが入った状況になっていた。ギリギリのところで守りが持ちこたえてくれていた。
「耐えたの・・・? アタシの全力の・・攻撃を?」
北条は驚いていたが、俺はそうなることが視えていたから、馬鹿みたいにこの場に留まったんだ。そうじゃなきゃ、先輩を抱き上げてこの場から退避していた。
「でも、これならもう少しで・・・」
「『吹き飛べっ!』」
先輩の優しさを壊されてたまるか。
行動を起こす前に、北条を風の力で吹き飛ばす。
「な・・・っ?! んでぇぇええええっ!?」
予想外の暴風に弾き飛ばされていく声を聞きながら、俺は行動を開始する。
先ずはこの光を・・・傷つけられた先輩の優しさを、癒やしたかった。
「『光よ・・・再び輝きを放て』」
ひび割れ曇っていた金色の光が、再び見事な煌めきを放ってくれる。
これなら先輩をここに寝かせていても大丈夫だろう。
「・・・先輩、直ぐに大型を片づけてきますから・・・少しだけここで待っていてください」
「たけ・・・る・・?」
目を閉じて、息を荒くしていた先輩がうっすらとその瞳を開いて、こっちを見てくる。
「・・・・っ!」
俺を見て息を呑む萌先輩。そして、顔が赤くなっていくのは、さっきのキスを思い出してだろう。
「・・・先程は急にすみませんでした。成果は今お見せします」
「あっ・・・健・・・・」
それだけ言って、直ぐに北条さんの元へと行く。軽く地面を蹴るだけで、弾丸の様な早さで距離を詰められ、瞬時に北条さんの居場所へと行けた。
幸い、大型は本当にギリギリのところで、まだ動けずにいた。
「へ・・・っ? うわ、うわ、うわぁあああ〜〜〜っ!!! た、たた・・・健君っ?! 本当に健君なのっ?!」
急に目の前に人が現れたら驚くのはわかるが・・・驚きすぎじゃないか?
「もうすぐ大型が動き出す。光の中に戻るぞ」
端的に言って、有無を言わさずに北条さんを抱き上げ、また光の中へと戻る。
「降ろすぞ」
「ちょ、ちょっとだけ待って! 本当にちょっとでいいから・・・!! このまま健君を見させてっ!」
「・・・?」
顔を赤くしながら、何で俺の顔を見てたいんだ?
「今の健にそうして貰うのはダメです!」
「少しくらい良いじゃないですか! これから先輩はずっと見られるでしょ?!」
「いけませんっ! 健は私の彼氏ですっ!」
「・・・先輩がそう言うなら」
北条さんを大人しく下ろして立たせる。
「あっ!?」
「先輩にそう言われたら、何時までもできないよ」
俺を見上げてくる北条さんを見下ろして————
んっ? 見下ろす? ああ、そういうことか・・・
「とにかく、今はアイツらを倒してくるよ」
少し時間をロスしたが、特に問題はなかった。
少し駆けるだけで、今の俺なら一瞬で距離を詰められる。
手放した剣を回収したが、それでも僅かな時間で大型の所へと辿り着き、動き出そうとしていた一体へと、攻撃を仕掛けることすら可能だった。
「『燃え尽きろ』」
黒き炎を纏いし黒剣が相手を切り裂くと、そのまま大型は黒炎に飲まれ、すぐにその形が燃え尽きる。あの大型を一撃で屠る、圧倒的な火力だった。
この間に残りの二体が動き出し、俺へと突進を仕掛けてくる。
ここで回避して、後ろの先輩を狙われるのは嫌だった。だから、正面から迎え撃つ。
「『光の壁よ』」
先輩から受け取った(実際は奪い取ったに近い)力で、守りの壁を出現させる。とはいえ、俺には萌先輩程の力はなく、せいぜい足止めが限界だろう。だが、それで十分だ。
進路上に現れた壁にぶつかり、簡単に光は霧散するが奴らも脚を止める。そこを見逃すことなく襲いかかる。
「お前も『燃え尽きろ』」
素早く背後へと回り、後ろから斬りつけ、また一つ大型が灰も残らず燃え尽きた。
残るは一つ!
仮にここで昨夜のように逃げたとしても、今の俺ならその前に追いついて背中から斬り伏せることができた。大型が一体なら、それが可能だ。もし、さっきのように二体いたら、一体を取り逃がしてしまう。だから、わざわざ力を使ってまで確実に仕留めにいったんだ。
そうなると、独りになった大型にできることは————
「がぁああああああっっっ!」
九死に一生を得るため、俺へと攻撃を仕掛けて来ることだけだった。
どれだけ力やスピードがあっても、こいつの動きも単調だ。だから、タイミングさえ合えば簡単に避けられる。
「馬鹿の一つ覚えみたいに、同じことばかりしてんじゃねーよっ!」
止まることなく殴りつけてくる大きな拳を避ける。無駄な動きが多いから、目で見てからでも十分に避けられた。
こいつの厄介なのはタフさであって、攻撃をした時に倒しきれないと、そこを狙われる危険性にあった。でも、今はそれは無い。一撃で倒せるだけの火力があれば、こんなやつ隙を見せたら————
「・・・そこだっ! 『燃え尽きろぉおおおっ!』」
俺の回避行動に着いてこれず、僅かにバランスを崩して、動きがブレたところを攻め込む。
アイツの修正する動きよりも、普段の俺のほうが元々の時点で早い。今ならばさらにだ。
こいつに苦戦させられた経験から、もはや体感で察する事ができるようになっていた。
「ぐっ・・・ぎゃあああああっっ!?!」
案の定、俺の方が速く相手を斬ることに成功する。後は、先に逝った二体のように燃え尽きる事が、こいつに出来る最期の仕事だった。
黒い火柱が消えたのを見届けて、直ぐに先輩の元へと戻る。




