第63話 〜傷ついた命の苦悩〜 7
「うん、そうね。アタシは健君が好きだから、その健君を殺しちゃうなんて本末転倒だもの。でも、だからって諦めないよ? その為にコイツラを呼び寄せたんだもの」
「ひえっ?! こいつらって、昨日健君が戦ってた化け物じゃない!」
それだけじゃなく、通常の奴らもいるが・・・・眼の前の光景は大型三に通常五、六十といった具合か・・・大型が三つは冷静にヤバイ。
まさか夜の存在を呼び寄せる事ができるとか、完全に想定外だ。これはこれでチートだろ。
「萌え先輩の用心深さなら、どうせ守りを固めてるでしょ? だったら、じわじわと消耗させて行って・・・力尽きた所で殺させてもらうね? あ、健君にはお仕置きね? アタシを邪魔したんだから、分からせてあげないとね?」
くすくすと嬉しそうに、楽しそうに笑う。こんな状況でなければ、普通にかわいい笑顔になるんだろうが・・・今は悪魔の笑顔になる。
「・・・健」
弱気な声音に、思わず先輩を見てしまう。そこには青ざめた顔をした先輩の姿があった。恐らく、全て倒せたとしても俺への負担を考えると、恐ろしくなったのだろう。
「あははっ! あの萌え先輩でも、そんな顔されるんですね? いつもはムカつくくらい無表情なのに、自分が死ぬと感じたら、それはそうなりますか〜。いい気味ねっ!」
「・・・先輩、大丈夫です。俺は絶対に約束を守りますから・・・だから、北条さんと一緒に守りの中に居てください。片付けて来ます」
先輩は俺を信じて頷いてくれるが、北条さんは初めての事態に絶望しきっていた。
「そんな・・・あんな数無理だよ・・・・ここであたし達はおしまいよ・・・・・・だって、あの大きいの一つで昨日健君はボロボロだったじゃない。だから、もうおしまいよ・・・」
普通なら北条さんのその感覚が正しい。でも、俺は諦めたくはなかった。先輩と交わした約束を守るために、明日を迎える為にもここで潰える訳にはいかない。
正しいからという感覚だけで、全てを捨て去れるほど、俺は人間ができちゃいない。
「終わりと思いたいなら思えばいいさ。ただ、俺は最後まで足掻くけどな」
後ろにそう言葉を残して、俺は敵陣へと突っ込んだ。
攻められる前に、先に先手を打ちたかった。
「もうお話は終わったみたいね。じゃあ、皆やっちゃって♪ 待っててあげたんだから、好きに暴れなさいっ!」
上空からの指示に、夜の存在が一斉に動き出す。そこで俺は足を止め、剣を横に大きく一振りして先制攻撃を行う。普通なら絶対に届かない距離だ。だが、実際の刀身よりも遥かに長く、見えない刃が夜の存在を切り払う。
「なっ?! 何よそれ〜! チートじゃない!」
前へと進もうとしていたから、回避もできず、先頭を纏めて屠ることには成功する。
視界に映るものを薙ぎ払うイメージだったのに、先頭だけの撃破になってしまったのは・・・前のやつが壁になったからか? 通常の奴は全て消し去りたかったが、消えたのは十くらいか?
「〜〜〜〜!!!!」
一方的に攻撃されてムカついたのか、俺目がけて一斉に通常の奴らが突進してくる。
単純な思考で助かる。だったら俺が採る手段は一つ。手にある剣を地面へと突き刺し、それを補助具として言葉を紡ぐ。
「『風よ! 我が身を守り、迫りくる愚か者に死を与えよ!』」
突き刺した剣から風が吹き荒れ、その風が夜の存在へと触れると、切り刻まれて細切れとなり消えていく。
形のない風に抗うことも出来ず、突っ込んできた奴らは全員が消滅した。
これで通常の奴らは半減したが・・・正直こっちの消耗も大型に備えて抑えたいから、油断はできない。
「・・・・・・」
予想外の出来事に、奴らの脚も指示も止まってる今がチャンスと思い、剣を引き抜き近くのやつ等に切りかかる。これが一番消耗の少ない戦い方だった。
どうしても範囲系の技や、距離を伸ばす切り方というのは、普通に戦うよりも疲れやすい。元々、そんな風に起きるわけがないと思っている現象を、イメージで無理矢理引き起こしているから、脳の負担が半端じゃないんだろうと思っている。
一つ、また一つと斬っていく。何の技も術もなく、単純に振り回すだけで良かった。
剣の威力は抜群で、一撃で奴らを消していく。奴らがとっさに防御の構えをとっても、その上から容赦なく切り捨てられる。流石は作中最強のニンゲンであるネウスの武器だと思わされる。
想定外の連続で、奴らも為す術もなくやられて行くが、それも長くは持たない。
「・・・何やってんのよ! 健君よりも先に、あの女を殺りなさいよ! そこの木偶の坊は健君を抑えなさいっ!」
再び出された指示に、大型も本格的に動き出す。
残り二十程の通常の奴らは、先輩達に狙いを変えて突撃し始める。
そうはさせまいと追いかけようとするが、大型が素早く進路上に入ってくる。
「・・・くそっ! 邪魔だっ!」
横に大きく飛んで迂回しようとするも、ぴったりとマークをされて抜け出す事が出来ない。寧ろ、無駄な動きをした事で大型に囲まれる。
「健君は死なない程度に痛めつけなさい。でも、萌え先輩だけは苦しめながら殺しなさい!」
「ふざけるなっ! 先輩を殺したら俺はお前を殺すっ!」
「はんっ! せいぜい吠えてなさい! そいつ一体で手こずった健君に勝ち目はないわ! それと、よそ見してる場合じゃないでしょ?」
その言葉通りで、俺は回避に専念していた。回避と言っても見えている訳じゃない、ただ何となく動いているだけで、実際は運に頼っていた。
くるくると回転しながらの回避行動で、三体の動きを見ていく。その動きから次の攻撃を直感的に予測して、身体が動くままに任せる。
打開するためにも、何処かに穴はないかと観察するしかなかった。でも、穴があるようには見えなかった。
そうこうしている間にも、通常の奴らが先輩達を襲っているのが見えた。先輩が光の球体という守りに入ったので、奴らはまずその守りを壊そうとしていた。その後に、中にいる先輩を・・・・
「・・・・っ! 萌先輩っ!」
「あははっ! いい気味ね! ほらほら、アタシからも攻撃よ! 『死ね、死ね、死ねっ!』」
黒き殺意の矢が先輩に降り注ぐ。それは奴らの攻撃よりも威力があるようで、投げつけられる殺意で光りの球体が激しく形を変えていた。
「早くしないと、健君の大好きな萌え先輩が死んじゃうわねっ! 『死ね! 死ね! 死ねぇえええっ!!!』」
このまま続くとヤバイっ!
早く先輩を助けに行かないと!
考えろ、考えろ俺・・・あの北条は俺を殺す気はないといっていた。だったら————
一か八かの賭けに出る。
俺はある一体の大型に、大きく飛びながら斬りかかる。大型の身長よりも高く飛んだそれは、空中に身を投げる事となり、無防備でしかなかった。当然、目の前の大型は大きく拳を振りかぶって、俺を殴りに来て・・・・・・落下してくる俺に、拳を突き出してくれた。
「ぐ・・・っ?! うっ!!」
剣を盾にして、正面からそれを受ける。そうなれば、俺は野球の球のように吹っ飛ばされる。その勢いを利用して、包囲から抜け出す
「・・・・っ!」
衝撃に一瞬息を奪われるが、直ぐに言葉を放つ。
「『先輩の所に落ちろ!』」
無理矢理飛んでいく軌道を修正し、光の側へと落ちていく。すると、視界の先には群れながら攻撃している奴らがいて
「健っ!?」
「健君っ?!」
北条からの殺意で傷つく光が見えた。
それに対し、がむしゃらに剣を振り回しながら、感情的に言葉を叫ぶ。
「『これ以上させるかよぉっ!!』」
剣先から飛び出る刃で殺意からの矢は切り飛ばし、地上の奴らは斬り捨てられる光景をイメージする。
「・・・嘘でしょっ?! 何でそんなデタラメができるのよっ!」
イメージ通り、先輩を攻撃する矢は全て防がれ、地上の奴等も次々と斬り殺されていく。
このまま全部狩りつくす。そう考えて夢中になって剣を振るう。
「・・・こいつで、最後だ!」
最後の一つまで消し去ったところで、地面が近い事に気づくが遅かった。
「しま・・・っ!」
受け身なんてとれず、精々が腕をクッションにして落ちるのが限界だった。




