第61話 〜傷ついた命の苦悩〜 5
「実は・・・」
どうせ朝になったらまた夢だと思い、記憶も曖昧になるだろうからと、昨日のことを赤裸々に話していく。
「へ〜、成る程成る程。急に池崎君がアプローチを仕掛けてきたのは、そういう訳なのね?」
「あ、ああ・・・」
「つまり健君は、あたしのアフターケアまで考えてくれてたのね?」
「いや、それは先輩のお陰だよ」
「先輩が・・・? へー・・・・・」
人が変わったような低音だとまだ怖いな。
こうやって会話してる間も、先輩の周辺には気を使ってるんだけど、まだ気を抜く事はできないな。
「その、先輩が北条さんを救って欲しいと思ってたから、俺はそうしただけなんだ」
「健・・・どうしてそう愚直なのですか・・・・・・」
「いや、だって・・・そうじゃないですか。先輩が北条さんを救おうとしていたから、俺はそれを叶えたくて・・・・・」
「ですが、その為に働いたのは健でしょう? そのまま素直にご自分がされた事にすればよいのです」
「んー、何か複雑ね・・・嬉しいんだけど、嬉しく思いにくいわ」
「でも、先輩は・・・・」
「あ、ごめんごめん! その、あたしまだ先輩に対しての反応が複雑で、理屈では分かるのに、感情は許してくれないみたいな感じなの。なんか、先輩には絶対に癒されるな! みたいな感情を出されてる感じ。だからその好意も素直に受け取れないのよ」
「そっか・・・じゃあ、俺が祓おうか? そういうのって、異心って言うんだろ?」
「へっ? 健君の家って神職か何かなの?」
「違うけど・・・『Blessing』みたいなのならできるよ?」
多分。やったことないから絶対とは言えないが、まあこの世界でならできるだろ。
「あ〜、アレね。刀使って切り祓うシーン。でも、刀はどうするの?」
「『刀よ来い!』」
イメージは完全にソウハだが、それでも手の中に想像した通りの物が現れる。
「あっ! それってネウスが使った剣じゃん! でも、刀って片刃だよね? 剣は両刃だから違うんじゃ・・・・?」
「・・・えっ? あっ! だ、大丈夫だから! 剣でも刃物だから行けるよ、きっと! だから大丈夫だよ!」
慌てて弁解する俺を、北条さんは何故か身体を震わせながら見ていた。
「〜〜〜〜っ!! や〜んっ! 健君かわいい〜っ♪」
そうして感情のままに抱きついてこられる。
「・・・へっ?」
「そのギャップはダメだよ〜。そんなのお姉さんには耐えられないよ〜」
先輩以上にぎゅうぎゅうしてきて、頬もスリスリとしてくる。
「いや、え・・・っ? 何で今ので?」
「普段が大人びてるのに、不意に子どもの顔を見せられたら、そりゃかわいいと思うわよ〜♪」
ほんと、こっちの世界が感覚薄くてよかった。これがリアルだと、匂いと柔らかさで頭おかしくなるからな。
「あ〜、何か先輩が健君を甘やかせるの、同じ女の子として分かる気がするわ〜♪ ねっねっ? たまにはあたしも健君の事甘やかしてもいい? それくらいならいいでしょ? ね・・・っ?」
「ダメです」
北条さんを刺激しないように離れて見守っていた先輩が、割って入ってくる。
どこにそんな力があるのか、北条さんから俺を引き剥がして、そのまま胸の中へと抱きしめられる。
「健は私の彼氏です。私の彼氏ですから、私が甘やかします。そうですよね? 健」
「・・・は、はい」
逆らうなと本能が告げていた。今の先輩に逆らうと、明日が怖いぞと。
「流石に池崎と付き合った後で、それをするとアイツも嫌がると思いますしね」
「んー・・・でも、付き合うまでなら言い訳よね?」
「良くありません。私の健をとらないで下さい。この子は私の子です」
「いや、あの・・・先輩? なんか、その言い方だと母親っぽいんですけど・・・?」
「・・・そうですか? 健のお母様代わりですか・・・・・それも悪くないかもしれませんね」
「え・・・っ? まさか萌え先輩って、そういうプレイが好きとか? だから健君を狙ったとか?」
「私は純粋に、人として健が好きなだけです。そういうプレイとは何なのですか?」
「そんなの赤ち————」
「いや、そんな事より先に祓っていいですか?」
「・・・そうですね。お願いします」
腕から解放され、俺は剣を鞘から引き抜き刃を確認する。黒い刀身は闇夜の中であっても、その存在を主張していた。黒には決して何色にも染まらずという意味があると聞いたが、この世界の闇にも染まらぬ黒さはどこか頼もしかった。
「じゃあ、祓うけどいい?」
何回か素振りして馴染み具合を確認する。まあ、この世界でそんなのやっても意味はないが、気持ちの問題だった。
「オッケー、オッケー〜! ちゃっちゃっとやっちゃて〜!」
先輩が俺の後ろへと下がったのを見てから、剣先を北条さん側へと向ける。一応、ズラしてはいる。
「うっ・・・切られないと分かってても、剣先がこっちに向いてるのは嫌な気分ね・・・」
刃物を向けられて嫌な気分にならない奴はいないだろう。
「ごめん、直ぐ終わらせるから」
じっと北条さんを視て、異心との繋がりを探す。凝視すれば、北条さんの身体の周囲に境界線のような物が感じ取れ、ソレに沿って剣先を動かしていく。
「・・・あっ、何か楽になってきた・・・・・かも?」
全身をざっとなぞり終え、最後に口上を述べて、刀を一振りすれば終わる。
「『真心を惑わす異心、それを今切り祓う。去れ、本心ではなき幻の心よっ!』」
下から上へと剣を振り上げる。
天へと返し、そこで浄化される事を願う時に『Blessing』の主人公はそうしていたからだ。
後は、このまま異心が離れて切り祓いは終わる。
「あ・・・凄い、本当に気持ちが楽になってく・・・・・」
北条さんの身体から、黒きモヤが立ち昇っていく度に、彼女に輝きが戻る。錆びついた煌めきが、かつての光を取り戻すように、北条さんの身体が幻想的な光を帯びていく。
「・・・綺麗ですね」
その光景を見ていた先輩から感想が漏れる。
「そうですね。人の真心ってこうも光るのかと、思い知らされますね」
漫画でも表現されていたけど、実際にその輝きを見ると全然違っていた。ただ綺麗なだけじゃなく、何とも言えない味わいがあった。
これは身近で見るからこそ知れる物で、決してその場にいない限りは分からない物だ。それくらい表現の仕様がなかった。
「人はただ生きているだけで、輝けるんですよ・・・・きっと、誰もが・・・・・・」




