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傷だらけのこの世の中で ~link of tears~ 克服  作者: 偽穢
傷だらけのこの世の中で ~link of tears~ 1.告白
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第59話 〜傷ついた命の苦悩〜 3

「『我は救済を守る剣なり』」

 先輩の向こう側から声が聞こえた瞬間、先輩を抱き寄せて後方へと飛びながら言葉を紡ぐ。

 今回は前回のような間違いはしない。

 これで先輩への攻撃に介入できるはずだ。

「酷いな〜。別に取って食べる気はないのに・・・」

「悪いな。先輩を守ろうとするのは、俺の本能のようなもんだ」

「あの・・・健? これだと戦いにくいでしょ?」

「今離します」

 目は十字路の真ん中に立つ北条さんから逸らさず、腕を広げて先輩を開放する。

 腕から抜け出た先輩は俺の後ろへと下がり待機する。

「・・・やっぱり、敵わないな〜」

 俺たちのやり取りを見ていた北条さんが、ため息をつきながらそう言う。

「敵わない?」

「ええ、そうです萌先輩。だって、健君はどう見ても先輩命ですし、先輩だって健君大好きなんですもん」

「・・・つまり? どういうことかハッキリ言ってくれないか?」

 何だ? この都合の良い流れは・・・怪し過ぎるだろ。

「大人しく先輩に癒やされますよ〜。あたしの入り込む隙もないみたいだし、何だかんだここって居心地悪いですから。昨日は感情的になり過ぎていました」

 素直なその言葉に、嘘は感じられなかった。でもどこか無責任な発言で、普通ならある悲しみ的なモノが、そこには含まれていなかった。

「本当ですか? でしたら今すぐしますね」

 先輩もそれが本音だと感じられたからこそ、北条さんへと近づこうとする。

「は〜い。お願いしま〜す」

 お気楽な返事にも違和感はない。どこか開き直って、もう仕方ないからという感情からだ。

 でも俺は、後ろから進もうとする先輩の手を掴んで引き止めてしまう。

「健?」

 不思議そうに俺を見てくる先輩。だが俺は、北条さんから視線を逸らすつもりはなかった。

「それなら北条さんがこっちに来てくれないか?」

「えっ? どうして?」

「漫画とかだと、こういう時に前に出て行くと、十字路の左右から狙い打たれたり、敵が出てくるってのが相場だろ?」

「・・・私の言葉に嘘があると思ったの?」

「健、それはないです。癒やされようとする北条さんの心に、嘘の影はありません」

 先輩が言い切るのなら、それは間違いない。北条さんが癒やされたがっているのは事実だろう。

「俺もそうだと思います。でも、冷静になってください。敵意が否定された訳じゃないんですよ。人間って、あれだけの感情を・・・そんな簡単に割り切れますか?」 

「・・・あっ」

 俺の考えている事に先輩が気づく。普段の先輩なら、言われる前に気づいただろう。今の先輩は希望に縋りたくて、視野が狭くなっていた。

「救われたいのは本当だけど、萌先輩を消さないとは・・・言ってないよな?」

「・・・・・」

「北条・・・さん?」

 沈黙した相手に、先輩はそれが本当なのかという意味で名前を呼ぶ。勿論返事はなかった。

「だから、先輩に手を出さないと言うのならこっちに来てくれないか? そうでないなら・・・・・」

「・・・どうするの?」

 本当なら滅ぼすと言いたいが、それができないのなら———

「行き場のない感情は俺にぶつけろ」

 感情の問題ならば、それを発散させて冷静にさせてやればいい。例えどれほどの感情であったとしても、急性的なものならばガスを抜いてやれば落ち着くはずだ。かなり希望的で、正直部の悪い賭けだとは思っているが、それに賭けるしかなかった。まずはそこからだ。

「・・・ふーん、本当に健君は優しいね。あたしの気が済むまで付き合ってくれるんだ?」

「殺す気がないならそうかな? まあ、仮にそうでも先輩を悲しませたくないから、死ぬ気はないけどさ」

 この会話の間に、先輩の腕を引いて後ろに下げる。先輩は大人しく俺の背中に隠れてくれる。

「流石に健君を殺そうなんて思ってないよ? ただ先輩は・・・『消えて?』」

 直線的な殺意が飛んでくるのが視える。が、それはなんの捻りもない攻撃で、先輩を守る俺には問題なく対処できた。

 片腕を横に振って、切り払う素振りをすればそれは散り散りになる。普通ならどうしようもないが、今の俺は先輩を守るためなら何でもできる。そう願いを込めて、さっき言葉を紡いだ。

「健? 何故守るのですか・・・?」

 声を潜めながら、確認をするかのように先輩が話しかけてくる。

 言葉に対する耐性を得ている先輩に、守りが不要なのは頭では分かる。でも、気持ちとしては、好きな人に殺意を飛ばされるのは嫌だった。それが否合理的だとしても、俺は先輩を守れる限りは守りたかった。

「・・・守れるうちは守るだけです。今の俺は先輩を守護する剣ですから」

「どうして・・・? どうして先輩が消えないのよ!? 健君がしてるみたいに、言葉で命じたらそうなるんじゃないのっ?!」

 言葉通りの現実とならず、見るからに苛立ちを見せる。

「俺が先輩を守ってるからな。だから、先輩の前にまずは俺を無力化するんだな」

 戦いで始めから手の内を晒してやる必要はない。少しでも相手をミスリードさせて————俺を倒さない限り、萌先輩には手を出せないという————精神的優位性を確保する。

 こうなれば嫌でも俺を標的として、萌先輩の危険性は低くなる。 

「・・・そういうことですか」

 先輩もそれに気づいたからこそ、それ以上俺の行いを問うことはしなかった。

「・・・どうして? どうしてあたしの邪魔するのよっ!」

「大切な人を守っただけだ。それに、本当にそれでいいのか? 先輩がいなくなったら、北条さんはずっとこの世界にいることになるんだぞ? それで本当にいいのか?」

 ダメで元々な問いかけをする。一応、どれだけ感情的なのかを見る質問でもある。

「うるさいっ! そんなことわかってるわよっ!」

 まあ、当然こう返ってくるよな・・・

 こうなるとある程度暴れさせて、少しでも冷静にさせないとな。

「でも、仕方ないじゃないっ! 頭ではわかっていても、感情が落ち着かないのよっ!」

「・・・だろうな。だから気が済むまで暴れろよ。付き合ってやる」

「そんな優しいこと言って、本音は先輩を守りたいだけのくせにっ!」

「本音も何も・・・そりゃそうだろ?」

「〜〜〜〜っ!! もう! もうっ! もぉおおお〜〜っっ!!!」

 えっ? 何で腕ブンブン振り回しながら、ブチ切れてんだ??

 だって嘘じゃないし。先輩を守るためにしてると言われたら、そんなの当然だろ? そもそもの優先順位が違う。

「健・・・今のは酷いですよ?」

「そうはいっても、俺は先輩が一番ですから。嘘は嫌です」

「こういう時にも貴方は・・・もう・・・・・」

 同じ言葉を言ってるのに、感情は正反対だった。

 方や憎しげで、方や愛しげ・・・

 ここまで色が変わるのだから、この感情を上手く処理してやらないとどうしようもない。

 こんな真っ暗な感情じゃ、何色にも染まらないもんな。

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