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傷だらけのこの世の中で ~link of tears~ 克服  作者: 偽穢
傷だらけのこの世の中で ~link of tears~ 1.告白
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第55話 〜寄り添う者達〜 18

 小さいけれど、頬を赤らめて、声に感情がこめられる。今の先輩はどう見ても普通の女の子だった。それも、とびきりの美少女からの告白に、夢でも見ているかのような気分だ。

「あ・・・えっ? その・・・・えと、なんでまた・・・・?」

 改めて言葉にされ、本当に先輩が俺を好きだということを思い知らされる。

 これが演技なんだとしても、騙されてもいいと思えるほど先輩が愛らしい。

「思えば私は、貴方に『好き』と明確に伝えた事がありませんでした。だから、健に勘違いをさせてしまったんです」

「・・・・その、普通ならそうだと思いますが、俺は多分信じられなかったと思います。俺なんか誰かに好かれるような人間じゃないですから」

 感情は熱に浮かされていたが、理性はすぐに冷静になっていた。

 我ながら最低な言葉に苦笑を浮かべてしまう。そんな俺の頬にまた手が添えられ、今度は慈しむように撫でてくれる。


 『貴方はそんな存在じゃないですよ』

 『それでも私は貴方が好きですよ』


 言葉ではなく、先輩の優しい手で、熱い眼差しで伝えてくれる。

「・・・『今の』俺なんかが、先輩に好かれていいんですか? チビでクソガキで、情けなくて何の力もない『今の』俺が・・・・? そんな事が・・・許されるんですか?」

 涙が浮かんでくるのは、どうしようもなかった。だって、一生手に入らないと思っていたモノが、こんな簡単に貰えるとは思っていなかった。

「いつだって『今しか』ありませんよ? 私はいつでも『今の』健が好きです」

 最早慣れた手つきで、先輩がハンカチで涙を拭いてくれる。拭きながら言葉を続けてくれる。

「自分に絶望していながら、諦めずに生き続けていてくれる健を。自分の力を信じられなくても、私を守りきってくださる健を。傷だらけで激痛の中でも、私を優先してくださる健を。光の視えない暗闇の中、私に救いを見せようと、懸命に頑張ってくださる。そんな健が好きです。こんなによくしていただいたら、誰でも好きになってしまいますよ?」

 先輩の感謝するような声音からの、一つ一つの言葉に、涙が次から次へと溢れ出した。止めることができなかった。

 嗚咽を漏らす俺を面倒くさがる事も、鬱陶しがる事も、怒鳴る事もなく、先輩はただ愛おしそうに背中をさすって、涙を拭ってくれた。


 『弱虫!』

 『泣くなっ!』

 『男のくせに涙を見せるなっ!』


 そう言われ、切り捨てられ続けて来た涙の一粒一粒までもが受け入れられる。存在が赦される。

「・・・すい、ま・・せん・・・・泣き・・虫で・・・・」

 情けない声を出しながらも、泣き止もうと自らの手で涙を拭う。今はそんな時間はない。

「こんな・・場合じゃ・・・今夜・・を・・・はや、く・・・・・」

 どうにかして涙を止めようとすると、先輩の胸の中へと抱きよせられる。

「・・・あ」

 ぎゅっと包み込まれる優しさが、胸の中まで温かさを染み渡らせていく。そのせいで、また涙が湧き出してしまう。

「そのままでいいんですよ。健」

「せん・・ぱい? よごれ・・ますよ・・・・」

 俺の涙で、先輩のシャツが濡れていく。

「それが何だと言うのですか?」

 濡れる冷たさを意に介さず、先輩は包み込んだ頭を撫でてくれる。

「ふく・・・・きた・・なく、なって・・・・」

「好きなだけ汚してください」

「でも・・・・」

「服なんて洗えばいいんです。だから、たくさん泣いてください。たくさん、私に甘えてきてください。今までずっと我慢して生きて来たんですから、私にくらい我がままになっていいんですよ」

 昨夜の記憶と同じで、先輩が頬を頭に擦り付けてくる。柔らかさと芳香な香りで、世界が満たされる。

「健・・・タケルっ・・・・たけるぅっ♪」

 じゃれ合おうとするかのような動きで、柔らかな声音で、愛おしさを曝け出しながら名前を呟かれる。その声に、その行為に誘われて、俺も先輩の胸の中で頬を擦り付けていく。何度も何度も、親に甘える動物のように。

「・・・そうですよ。そのまま、いっぱい甘えてください」

 すりすりと、ふくよかな胸の感触を味わう。服越しであっても、柔らかくて暖かな胸は心地良くて、幼児の様に甘えていく。

「ふふっ、かわいい・・・っ♪ たけるは本当にかわいい子ですね♪」

 胸の中で甘える俺を見て、先輩が嬉しそうに声を漏らす。

 受け入れられている安心感から、気づけば腕を背中に回して、遠慮なく先輩を味わっていた。


 離さない、離れたくない。


 甘えたい、甘え続けていたい。


 このままずっとこうしていたい。

 初めて知る暖かさに、涙がとめどなく流れ落ちる。


 もしも誰かがいてくれたのなら。


 もしも、たった一人でも自分の側にいて、慰めてくれたのなら・・・・


 こんな自分を受け入れてくれて、愛情を注いで貰えたのなら・・・・


 もし、俺なんかを大切にしてくれる誰かがいたのなら・・・・・・それはどれだけ幸せなんだろう?


 かつて独り泣きながら思っていた事を・・・・・・求めて諦めきったモノが、今になって与えられる。

 萌先輩が、それを惜しむことなく与えてくれる。

「せん・・ぱい・・・・めぐ、み・・・・せんぱい・・・・・・」

 そんな幸せをくれる、唯一の人の名を呼んでしまう。勝手に声が出て、甘えてしまう。抱き留められて、あやされているから、もっともっとと貪欲に求めてしまう。

「・・・なぁ〜にぃ〜っ? たけるぅ〜♪」

 どんな我がままでも許してくれそうな声を出され、それに甘えていく。

「いい子いい子・・・して、欲しいです・・・・・・」

 幼い甘え方だというのに、先輩は笑うこともなく、それが当然のように対応してくれる。

「はい、いい子いい子〜」

 萌先輩の母性は本当の母親以上で、誰よりも優しく褒めて、頭を撫でてくれる。その気持ちのいい触り方は、触れて貰える嬉しさを教えてくれる。先輩の優しさで脳が慰められていく。

「たけるはいつもいい子で、やさしい子。だからいっぱい、い〜っぱい。なでなでしてあげますね〜♪」

 愛しい対象として、愛でられる喜びを味わう。自分が自分であるからこそ、愛されるのだと教えてくれる。

 頭に注がれる愛情が胸から四肢へと、全身へと行き渡り包まれ、心までも満たしてくれる。

 本来なら赤子の頃、母親から学ぶはずだった事を萌先輩が教えてくれる。愛しさを以って伝え続けてくれる。

「〜〜〜〜っ!」

 声を押し殺しながら、身体を震わせて本格的に泣き出してしまう。夜の世界でもここまで泣くことはなかった。

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