第46話 〜寄り添う者達〜 9
「なあ、明。北条さんはどうだったんだ?」
明が帰ってきて、1限目が終わった休憩時間。できる限り昼休憩までに、何でもいいから情報が欲しかった。だから珍しく、俺から明へと話しかけることになる。
「ん〜、どうも悪夢でも見て、最悪の気分らしい」
「悪夢・・・・ね」
そりゃ、夜の世界で力を使えば疲れもするだろ。俺だってそうだし、先輩だってキツイはずだ。
「内容は覚えてないらしいんだが、とにかく最悪の内容だったとかで、今は保健室で寝てる。保健室の先生が『眠りが悪くて、良質な睡眠がとれていないのかも? とにかく、昼まで寝なさい』だとさ。で、俺は授業に戻りなさいと言われたとさ」
覚えてないなら、まだあっちの世界に馴染んでいないということか? そもそも、何で北条さんが昨夜になって現れたのかが謎だが、原因はどうでもいい。今の問題は、北条さんの意識を俺から明へと向けることだ。
「だったら、次の休み時間にでも北条さんの鞄を持っていったらどうだ? 保健室で弁当を食べる方が、今は気も楽だろ」
「あー・・・・そうだな。女子連中のエサにされるのも嫌だし、次の休憩にでも届けに行くか」
ちらっと、教室の隅でたむろしている女子を見て言う。内容までは分からないが、大体察しはつく。
「どうせ『年下に振られたショックで体調崩すとかうける』といった内容だぜ。それで北条が戻ってきたら、ニヤニヤするんだろうよ」
「だろうな。人の不幸は蜜の味だからな」
だから俺は人間が嫌いだ。こんな生き物は滅べばいいし、存在する価値なんかない。神が人を創ったというのなら、最大の失敗作を創ったもんだ。
「・・・・」
「んっ? 明、急に黙ってどうした?」
「いや、何かお前の言葉がイヤに重く感じてな・・・・お前ホントに俺より年下か? 実は転生してるとか、人生二度目とかじゃないだろうな?」
「それ二次元だけだろ?」
「だが、ロマンはあるだろ?」
「・・・・まあな」
そんなことを言いながら休憩時間は終わり2限目へ。
次の休憩時間に、明に言わないといけないものを、ノートに文字を書きながら考える。その気になって、簡単にできそうな事と言えば、やっぱアレしかないよな?
そして2限目が終わると、俺が声をかける前に、明は鞄を届けに行ってしまった。ギリギリに帰ってきたら3限目の後になるかと思っていたが、意外と早く帰ってきた。しかも、何か上機嫌だし。
「届けて来たぞー♪」
「一体どんな良いことがあったんだ? 普通荷物届けただけで、そんな機嫌良くはならんだろ?」
「いやー、保健室の先生が『北条さんが嫌でなければ、彼と一緒に保健室で食べるのはどう?』と言ってくれたんだ」
そういえば昨日、先輩があの先生は相談や恋愛事にも長けていると、帰り道にそう教えてくれたな。つまり、明が北条さんを好きなのを見抜いた上での発言になる。後は、北条さんの状態を察して、誰か側に居た方がいいと思ったとか?
「それで、北条さんもいいよと言ったわけか?」
本当なら俺が昼飯一緒に食えよと言うつもりだったが、静流先生が先手を打ってくれたのは正直助かる。しかし、あの先生人の色恋沙汰に、首突っ込み過ぎじゃないか?
「まあ、始めは消極的にだがな」
「どういうことだ?」
最終的には積極的になったというわけか?
「『あたしと食べても・・・・楽しくないけどいいの?』って始めは言われた」
何か俺みたいな事言うんだな。北条さん。
「それで? お前のことだから何か言ったんだろ?」
「ああ。実は北条の鞄に付いてたキーホルダーが『創破神世』っていうキャラの・・・・」
「ネウスだろ」
図書室を出て、待っていた北条さんの鞄にそれが見えたから、あの日の寝る前つい読み返してしまったんだよな。
「なんだ、お前も『ソウハ』知ってんの?」
「あの作者の本だけは今も集めてる」
「じゃあ、お前本当なら北条と普通に話せるネタがあったわけだな」
例えそうだとしても、先輩が好きだから関係ないけどな。
「つまり、北条さんもあの作品が好きと?」
「多分、オタクだと思うぞ。指摘した時の反応がまさにそれだった。俺も好きな作品だし、それで会話できるなら楽しめるんじゃないのかと言ったら『そうだね』と、少し前向きになってくれたってわけだ」
「そうか。興味持って貰えた辺り、一歩前進だな」
「おう、この調子でフラグを立てていくぜ!」
少なくとも、北条さんの中で『気にかけてくれる存在』にはなってくれ。それくらいになってくれたら、救いがあるかもしれないんだ。
この昼飯が分かれ道か・・・・んっ? 昼飯? ちょっと待て、こいつ確か・・・・
「ところで明、一つ聞いていいか?」
「んっ? なんだ〜?」
頭の中では昼飯の会話でも考えているのか、かなりご機嫌な返事だった。だがそれも、次の俺の言葉で止まるんだろうな。
「お前、いつも昼は学食だよな? 昼飯どうすんだ?」
「あ・・・・っ」
「いや、忘れるなよ」
「・・・・まあまあ、大丈夫だ。お前が指摘してくれたお陰で、次の休み時間に売店で適当に買ってくるわ。サンキューな」
売店のはあまり好きじゃないと言っていた奴が買うとか、こいつ本当に北条さん狙ってんだな。
「・・・・おう、頑張ってくれ」
先輩が悲しむ未来を避けるためにも、今は明の行動に全てがかかっていた。
そして、4限目の終わりを告げるチャイムがなり、クラスメイトは各々昼食へと移る。食堂組とクラス組が分かれて行くなか、明は少し落ち着かない様子で俺に一声かけてきた。
「なあ、始めに話す言葉って何がいい?」
「緊張せずに普段のお前通りに話せよ。先輩もそう言ってただろ?」
「うーん、普段の俺だと今の北条の地雷踏まね? 例えば、ついお前を悪く言ったりとかして、北条が切れるとか・・・・ないか? ほら、よくあるだろ。好きな娘が振られて、慰める時にその好きな奴の悪口を言うと、その娘が『彼を悪く言わないで! 彼のことを何も知らないくせにっ!』とかいう展開」
どうしてそこまで知っていながら、わざわざ俺の話を持ち出そうとするんだこいつは?
「大人しく『ソウハ』の話だけしてろ。その為にキーホルダーを指摘したんだろ? 本人が触れない限り、俺の話題は避けとけ」
俺の指摘に、そりゃそうだという顔をして、納得する。やっぱ緊張すると、頭が上手く回らないのは、人類の共通事項だよな。
「あー・・・・りょーかい。因みに、萌え先輩とはいつもどんな話してるんだ?」
「基本的には、先輩が話すのを待っているつもりだけど・・・・まあ、その場その場の流れで話してるかな?」
「それで数々のプレイをしてるとか、凄いなお前ら」
「プレイとかいうな。先輩あれ全部、素でやってるんだぞ?」
「・・・・やっぱ萌え先輩って、二次元から出てきたキャラじゃね? しかも際どいやつの」
言いたいことは分かるが、何か認めたくないので話を戻すことにする。
「いいからお前は早く北条さんのとこ行けよ! あまり人を待たせると、その分だけ話す時間も減るぞ」
「確かにそれはやだな・・・・よし、じゃあ気合い入れて行ってくるわ! それじゃあな〜!」
両手で自らの顔をパンと叩き、速歩きで保健室へと向かって行った。そこから、入れ違うようにしてお弁当と水筒を抱えた萌先輩が姿を現す。




