第42話 〜寄り添う者達〜 5
いや、先輩には何を言っても無駄だと、この短時間に悟ったのか?
「・・・・もしかして、健はそういうのを気にしてしまいますか?」
「それは、その・・・・」
「申し訳ありません。直接、手で食べ物に触れるのは汚かったですよね・・・・」
「いや、先輩の手は綺麗ですよ」
「・・・・じゃあ、あーんしてください。健が嫌でなければ、私も食べていいですからね?」
これには隣で牛乳を飲んでいた明が盛大にむせ返る。
そのお陰で俺は冷静でいられた。本当に心臓に悪いことを言う人だ。
「はー、はー・・・ヤバ、過ぎだろ・・・・萌え先輩」
「お時間がですか?」
「いえ・・・時間はまだ大丈夫ですが・・・・これが天然か」
「? それより、お体はご無事ですか? 誤嚥は肺炎の原因にもなりますから、お気をつけください」
「有難うございます。それで話の続きですが・・・・正直、先輩は告白されるのってどうなんですか? 今まで散々言い寄られてるって聞きますけど、やっぱりどうでもいい奴からだと嫌ですよね?」
「・・・初めての時は嬉しかったですね」
先輩の初めてという言葉に、どこか気分が不愉快になる。
これって、男特有の感情なんだろうな〜。先輩に初めて告白したのが、自分じゃないから嫌だっていうのは。
「けれど、少しお話して直ぐに虚しくなりました。上辺だけで、中身のない言葉に」
「え〜っと・・・・つまり語彙力ですか?」
「池崎さんはそのようなことは気になさらず、北条さんに素直に告白すればいいんですよ? それが嬉しいと思います」
「う〜んっ? そうですか・・・・同じ女子である先輩がそう言ってくださるのなら、自信を持ってそうします」
「ええ、そうしてください」
二人の会話を聞きながら、一つ目のパンを食べ終わる。
「次はジャムですね・・・・はい、健。後少しですよ」
二つ目のパンにジャムをつけて食べさせてくれる。
「因みに参考ながら、健はどんな告白をしたんだ?」
「・・うんっ?」
話を振られたので先輩を見ると、食べさせてくれる手を止めた。俺に見本をさせたいらしい。
「どんなって、さっきも言ったが普通に好きですって言っただけだ」
「はあっ? じゃあ何で好きなんだよ?」
「自分の事よりも誰かを優先する、そんな優しい人を好きになるなって言う方が無理だろ」
「優しいやつとか探せばいるだろ?」
「自分が苦しい時でも、誰かに優しくできる奴が先輩以外に誰がいるんだ?」
先輩の優しさを軽く扱われているようで、声に苛立ちが混じる。
「いやいや、それが健にだけとは限らないだろ? 勘違いの可能性とか考えなかったのか?」
「・・・・だったら、何で先輩は独りでいたんだよ? その優しさが理解されているっていうのなら、何で先輩の側には誰も居なかったんだ? 誰が先輩の側にいたんだ?」
本気でキレると大声ではなく、低く小さな声になるというが、今の俺がそうだった。
「話していて分かったが、俺は誰にも理解されなくても、優しさを枯らさない萌先輩が好きなんだ」
「・・・・」
俺の言葉に明は黙る。黙って、何かを考えている。そして、口を開く。
「・・・・お前の好きって重いな。それでもいいんですか、先輩?」
「少なくとも、北条さんであれば大丈夫ではないでしょうか?」
「あー・・・・健を好きなヤツですもんね・・・・そうなると・・・・・」
納得気な声を上げ、また考え込む。
あー、なるほど。この為の見本か。本当に先輩は頭が回る人だ。
「それと健、有難うございます」
先輩が手を動かしながら話すが、俺は食べることを優先させられるので、必然的に口を閉ざすことになる。だから、首を傾げる事を返事の代わりにする。
「やっぱり、貴方は私を見てくれているんですね」
「・・・・先輩が好きですから」
「ふふっ・・・・有難うございます」
僅かだけど、先輩が笑みを浮かべる。
やっぱり、先輩が感情を見せないのって、側に誰もいなかったからじゃないのか? そんなことを思っていると、パンを向けられたのでまた食べていく。
明は真剣に悩んでいるようで、暫く無言のまま時間は流れる。
「はい、コレで最後ですよ」
最後の欠片を口に入れるその時、指先にジャムが少しついているのが見えた。だから、その指ごと口に含んでジャムを舐め取っていく。
「ひゃ・・ぁっ?!」
ぴくんと身体を震わせ、普段なら絶対に聞けない先輩の声で、やってしまった事に気づく。
「えっ? 今の声って、おいおい・・・・健」
当然、明も気づく。
「す、すみませんでした。先輩! つい、自分の指のようにしてしまいました!」
食べてる途中に話すのは行儀的に良くないが、ここで行儀を通すのは無理だった。
「構いません。むしろ、嬉しかったですよ?」
舐められた指先を見つめながら、そんなことを言う。
「・・・・萌え先輩?」
いや、これ絶対違うの俺は分かるけど、明は絶対に勘違いしてる。
次の言葉を聞いて机に突っ伏す。
「健に食欲があってなによりです」
「〜〜〜〜っ!」
どうせ邪なことでも考えてたんだろう。うるさくならないよう、軽い地団駄を踏んでいる。
先輩の言葉は時々?何か抜けるからな〜。分からない時は、大人しく先輩に詳しく聞くのが一番なんだよな。
「まだ少し残っていますね。どうですか?」
「い、いえ! そんな意地汚いことは流石に・・・・」
「何が意地汚いのですか? 必要な食事ならば、最後の一つまで食べ切ることは汚くなんてありません。それにですね、健」
この流れ、先輩は喜んでるけど俺にはあまり嬉しくないやつだ。
「始めこそ驚きましたが、指を咥えた貴方を愛しいとも思いましたよ? ですから、嫌でなければどうぞ」
そんなことを言って、当たり前のように指を差し出してくる。
「唾液で汚れるので止めた方が・・・・」
「私のここは、もうとっくに濡れています」
「んな・・・・っ?!」
倒れてる明が、思春期特有の反応をする。こいつ、絶対そういう系で考えてるだろ。
これ以上先輩で変なこと考えられるのは嫌だから、さっさと終わらせよう。
「・・・・じゃあ、失礼します」
意を決して、先輩の指先を咥えてジャムの残りを回収する。今度は予測できていたので、先輩も声を上げることはなかった。
「・・・やっぱり、かわいい・・・・」
そんな俺の姿を見て、小さく声が漏れる。先輩のこういう感覚は俺には分からない。でも、喜んでくれるのならそれでいい。そう思っている間に綺麗に舐め終わる。




