第40話 〜寄り添う者達〜 3
「えっ・・いや、俺朝は・・・・あっ?!」
しまった! 昨日、先輩に三食食べてるかと聞かれた時、心配させたくないから嘘ついてたんだった!
「昨日のは嘘だったんですね? 別に、責めるつもりはありませんよ? それも貴方なりの優しさだというのは、理解しているつもりです。ですが知ってしまった以上、私が見逃すと思いますか?」
無表情で淡々と、抑揚のない声で言われる。これ先輩は怒ってないんだけど、変な怒り方よりも怖く思われるんだよな。
「あの〜、お先に飯取って席に着いときますね・・・・」
案の定、居ても立っても居られない明が逃げ出そうとする。
「いえ、ご一緒させていただきます。早く健に朝ごはんを食べて欲しいので。さあ、行きますよ?」
今度は俺が手を引かれて連れて行かれる。
「わ、分かりましたから・・・・先輩は先に席で待っていて下さい! トレイを使うには両手が必要ですので」
「・・・・そうですね、分かりました。では食券はお渡しいたします。それで、どちらでお待ちいたしましょう?」
「えっと、あそこの隅とか目立ちにくいので、お願いできますか?」
「あそこですね? では、お待ちしております。健、手を・・・・」
明の指さした場所を見て、先輩は俺の手から鞄を取って席へと向かう。
「何か恋人ってのも大変そうだな。あ、おはようございます〜」
先輩が側から去り、いつもの口調に戻る。そして、俺も食堂のスタッフにあいさつをしながら食券を渡し、食べ物をトレイへと乗せていく。
「いや、でもそれ以上に良いこともあるぞ?」
ここでコイツに『面倒だから、やっぱいいや』と言われたら詰む。だから前向きに検討するような話題をふる。
「へ〜、どんな?」
よし、食いついてきた! 後は先輩が俺にしてくれた事を言えば・・・・
「・・・・膝枕とか?」
これが無難だよな? 添い寝とか抱き合うとかはやばそうだから言わないが。
「はあっ?! あの萌え先輩がそんなことしてくれんのかっ?! 嘘じゃないだろうな?」
「いや、嘘だと思うなら先輩に聞けよ」
「そうだな。そもそも先輩に異性の気持ちを聞くわけだから、そういうのも有りだよな」
最後の牛乳を取って(俺だけ別にコップにお湯も入れたが)先輩の待つ席へと向かう。よくある四人用の四角のテーブルだ。俺は先輩の隣に、明は俺の正面に座った。
「すみません、お待たせしました」
「健が朝食を摂ってくれるのであれば、構いませんよ?」
「えっと、食べながらの話で大丈夫ですかね? 俺、朝から空腹感を味わうのキツイので・・・・」
「ええ、大丈夫ですよ」
「有難うございます! それじゃあ、頂きます!」
「・・・・頂きます」
明は目の前で勢い良く食べだすが・・・・正直、俺は朝は食欲ないからキツイんだよな~。それと、どうしてもまだ筋肉痛が抜けない。
とりあえず、まずはトレイから食べ物を除け、お湯の入ったコップだけにする。
「先輩良ければこれをどうぞ。熱いので冷めるまではアレですけど、お湯です」
湯気のたつ熱いコップを、トレイごと先輩の前へと置く。コップ自体を持とうとして、熱さで溢すとかシャレにならない。だから、こうするのが確実だった。
「コップ自体も割と熱いので、掴めるぐらいが飲み頃かと思います」
そんなのを渡すか普通? といった視線を明から受けるがスルーする。こっちは藤塚先生の話を聞いているから、先輩は身体を冷やさない方が良いことを知っているんだ。
「・・・・覚えててくださってるんですね。有難うございます」
先輩はそっと、たおやかな手をコップに近づけて熱さを感じとる。
「確かにこれは熱いですね。でも、これは貴方からの暖かさでもあります」
「・・・・熱くて飲めないなら、水入れて温度低くするとかじゃ駄目なのか?」
「それだと量が増えるだろ? それに、加減を間違えたら台無しだし、捨てるなんて勿体ないだろ?」
「あー、なるほどな〜。流石は彼氏くん」
「ええ、自慢の彼氏です」
「ところで、健は食わねーのか?」
「・・・・これから食うよ」
とりあえず、ゆで卵の殻でもむくか。
いつものように卵を叩いて————
「〜〜〜〜っ?!」
叩いた衝撃で予想外の痛みを味わい悶える。不意打ちの痛みは芯にまで響いてきたせいで、全身に痛みが甦る。
「やはり、無茶をしているんですね?」
まあ、こんな姿を見て察しない先輩ではない。
直ぐに昨日のダメージが残っていることに気づかれてしまう。
「すみません・・・・上手く動けてたから大丈夫かと思ったんですけど、どうも筋肉痛みたいです・・・」
「何だ? そんなに痛いのか?」
「力加減をミスると、全身が攣る感じ」
「うへぇ・・・・お前そんなんで良く学校来られ・・・・えっ?」
「・・・・痛いの痛いの飛んでいけ。痛いの痛いの飛んでいけ・・・・・・」
何の前触れもなく、先輩は抱きしめてきてそう囁く。手は優しく、痛みを起こさないようにと、身体を労るように撫でてくれる。
そんな行為に俺も少しは慣れてきたが、明は驚いてしまう。
「せ、先輩・・・・流石に無理がありますよ?」
『救済』の力が発動しないかということだろうが、こっちでは何の効果もないだろう。先輩もそれが分かっているから、直ぐに身体を離してくる。
「だめ・・・ですか・・・・」
「まあ、今のは予想外のに驚いて連鎖した感じですので、気をつけて食べれば大丈夫かと・・・・」
「いや、普通気をつけては食わんだろ?」
「為せば成るとかいうだろ? ・・・・っと」
うん、痛みと身体の固さで面倒すぎるな。文字通り悪戦苦闘といったところだ。
「・・・・見ていられません。貸して下さい、健」
有無を言わせず先輩が卵をとり、丁寧に手際良く剥いていく。殻は卵の小皿に捨て、剥き終わった卵はパンの皿へ置くと、フォークとナイフで6分割にする。その一つをナイフでフォークに乗せ、俺へと向けてくる。
「あーん、して下さい」




