第37話 ~星の輝きなき夜の闇間~ 9 萌視点
話を聞き終えると、私はまた健の傷を癒す事に専念しました。
次の朝に備え、できる限りの癒しを施してあげたい。なるべく万全な状態で健が動けるようにと、丹念に時間をかけたことで、どうにか『救済』程の癒しにはなったと思います。とはいえ、確認するまでは分かりませんので、健にお尋ねしないといけません。
「健、今でどれほ・・・・健?」
どうやら、そうしている間に健は眠りに落ちてしまったようですね。
下から顔を窺うと、目を閉じていました。
「・・・・かわいい」
話をされていた時の健はとても精悍な顔つきをされていて、思わず胸が高鳴る程の素敵な男性でしたね。
今は年相応な子どもの顔を見せてくれていますが、大人になられたら、あのような姿になるのでしょう? 私を女にさせる、そんな殿方に。
「・・・・健」
寝ている健を抱き寄せる。これはきっと、私が安心したいのもあります。
呼吸は穏やかで、苦しげな様子もみられませんね。こうして無事に眠れているのなら、恐らく朝の体も安全だと思ってもよいでしょう。
「それと・・・・こうされても目を覚まさないのは、熟睡できるほどの安全圏ということですね。健は謙遜されますが、貴方の勘や感覚は、とても素晴らしいのですよ?」
胸の中で眠り続ける健の頭を撫でる。もしもここが本当に危なければ、私の守りもない状況でこんな風に寝顔を晒さない。
どんなに満身創痍であっても、絶対に私を守ろうとして休もうとしない。そんな貴方がこうして無防備を晒すこと、それがここは安全地帯だという証拠。
「よかった。これなら健の眠りも安心ですね」
そうはいっても、やはり横になった方がいいのではと思ってしまう。けれど、健は抱きしめ続けていたい。
「・・・・なら、こうしましょうか」
抱きしめたままゆっくり、背中から地面へと寝ていく。そうなると、抱きしめた健は私の上に乗ることになる。
きっと健が起きていたら『先輩、気を抜きすぎですよ』と言って、こうさせてはくれないのでしょうね。
「でも、今は私に全身を預けてくれている」
それが甘えてくれているようで嬉しい。
私はこの子をたくさん甘えさせたい。
今までずっと頑張ってきて、今も頑張り続けているこの子を。これまで甘えられなかった以上に甘えて欲しい。
今はまだ子どものまま、私に甘えてきて欲しい。
「・・・・なのに、今回は私が健に甘えてしまいましたね」
健の語ってくれた可能性を思い出す。そこには希望がありました。私の苦肉の策よりも遥かに、救いがあります。まず、私を救ってくれました。北条さんを滅ぼして欲しくないという、私の気持ちを・・・・
「ありがとうございます、健」
飽きることなく、頭を撫でていく。必死に考えて、疲れている頭が少しでも癒されますようにと、そう祈りを込めながら。
とはいえ、健はどうしてもこの事に自信を持てないようですが・・・私には不安などありません。それは————
「健・・・・貴方は、貴方が思っている以上に凄いんですよ? そんな貴方が、誰かの為に行動するんです。なら、失敗するはずなどないでしょう? 大丈夫、大丈夫です。健だから————」
言葉が強い力を持つこの世界で、眠る健にプラスになりそうな言葉をかける。この子には曇るような言葉はありません。
私では見いだせなかった光を、北条さんにも見せられるのは健だけです。
健は認めないでしょうけど、北條さんを救おうとするそれは、必ず彼女に届きます。
「それと、好意を寄せる殿方からの優しさに、反応しない女の子はいませんからね」
私だってそうなのですから、北条さんもそうでしょう。
「・・・・しかし、私もまだまだですね。北条さんが、本当に健を慕っている事に気づけずにいたのですから・・・・・・」
いえ、むしろ健以外を見ていなかったのかもしれません。
「・・・・『恋は盲目』ですね」
普段の健はまだ幼いですが、ここでは大人びた顔を見せることが多い。先程はそれをより強く見せられました。お陰で、自分はとっくに健に恋をしていたのだと、気付かされましたね。
そんな恋する私ですし、残りの時間は寝ている健を愛でさせて頂いてもよろしいでしょう? まだ子どもであるうちの貴方を。
「ねっ? た〜け〜るぅ〜っ♪」
頬を擦り寄せ、お気に入りのぬいぐるみのように健を抱きしめる。
同じ時間を過ごすのなら、暗い時よりも明るい時が好き。そんな開き直りな感情でもありました。




