第34話 ~星の輝きなき夜の闇間~ 6
「え・・・っ?!」
さすがの先輩もこれには驚いてしまい、思わず飛ぶことを中断してしまう。というよりも、集中を切られたという方が正しいのかもしれない。
「あ・・・健っ!」
着地できるほどの力すらない俺は、地面へと倒れないよう先輩に支えられてどうにか倒れずに済んだ。
「大丈夫です。先輩が支えてくれたおかげで、どうにか立っていられます」
「・・・それほどまでに、ぼろぼろなんですね」
先輩の悲しげな声に胸が痛い。少しでも安心感を持ってしまったせいで、今の俺は完全に無防備で無力になっていた。
それでも無理やり気力を振り絞って、先輩を守るために動く。
「そんなことよりも先輩、今の声って・・・・」
声のした方へと振り向きながら、先輩の前へと出る。正直立っているだけでふらついてしまうが、そんなことは関係ない。
声の主が先輩に対して良い感情を持っているわけがないことが、分かり切っているからだ。
「そんなにフラフラなのに女の子を守ろうとするなんて、かっこいいね。健君は」
「北条・・・さん?」
信じられないといった声を先輩は出す。
俺自身も信じられないが、しかし、実際に目の前にいる存在は確かで事実だ。
「でも、びっくりしたよね~。寝てたはずなのに目が覚めたら外にいて、何かあるな~と思って騒がしい方に来たら、まさか健君が化物から先輩を守っていたんだもの。それに、あの萌え先輩が泣きながら必死になって健君を手当てするなんて・・・・本当に付き合っていないと出来ないことだよね」
先輩を茶化すような言い方が頭に来るが、窮地な状態かもしれない中で思考は冷静に働いていた。
「・・・北条さんはここまで大丈夫だったのか?」
俺たちに襲ってくる<<夜の存在>>は何故か同じ存在で襲い合うことをせず、必ず先輩か今の俺かだけを狙ってくる。つまり、この北条さんが襲われることもなく行動できていたというのなら、先輩と出会う前の俺が、自暴自棄になってアイツらに殺し合いを仕掛ける前と同じ状態のはずだ。
「あたしの心配してくれるの? ありがとう、健君。ふふっ、嬉しいな~」
こんな闇夜には似つかわしくない、明るい笑顔をみせてくる。が、それも一瞬にして暗い表情へと変わる。
「でも・・・だったらどうして付き合ってくれなかったの? どうして勘違いするようなことをしたの? その気もないなら、気を持たせるようなことなんてしないでよ!! バカッ!!!」
怒声と同時に間合いを瞬時に詰められ、頬にビンタを喰らってしまう。
「っ!!」
今の状態でその速度に反応することができず、ただ叩かれただけで地面に倒れてしまう。
「止めて下さい!」
俺の限界を目の前にして、先輩が間に入ってくる。手を広げ、俺を庇うようにして北条さんと対峙する。
「先程の光景を見ていたのでしょう?! ならば今の健がどれほど危ない状態なのか分かるはずです! なのに、何故そんな健に手を上げるのですか?!」
「なんでって・・・健君があたしを傷つけたからですよ? 目には目を、歯には歯をというでしょ? だったら、傷には傷だよね?」
「先輩・・・・いいから逃げてください。今のこいつは正気じゃない。先輩に出会う前の俺と同じだ」
情けないことに、どうも立ち上がることすらできない。だから、せめて先輩だけでも逃げてほしかった。けれど、先輩はそんな人ではなかった。
「それならば、今日は無理でも明日には北条さんを癒やせばいいだけです」
凛とした声で、迷いなく言い切るも、それが北条さんの神経を逆撫でする。
「誰がアンタからの施しを受けるもんですかっ! それなら今すぐ健君と別れてください。そして、健君をあたしに譲って下さい。そうしたら大人しく癒やされてあげます」
「それはできません」
「でしょうね! 自分の大切な物を与えられる人なんていませんからね!!」
「勘違いされているようですが、健が私よりも好きな女性を見つけ、その方へと移るというのならば仕方がないと思えます。それは単に私に魅力がないという問題ですからね。ですが・・・・」
「俺が先輩以外を好きになるなんて、そんなことは絶対にない!」
有り得もしないことに、反射的に言葉を吐き出す。身体も思わず動き、先輩の肩を掴んで振り向かせる。俺の行動に驚きを浮かべた顔を見上げ、そのまま感情的に叫ぶ。
「俺は、先輩以外の存在なんていらないっ! 先輩だけにいて欲しいんです!」
「・・・・っ!」
何とも言えない声を北条が上げるが、それはどうでもいい。襲ってくるなら撃退するだけだ。今の俺には先輩の言葉を否定する方が大切だ。
「た、健・・・・その、動いて大丈夫なのですか?」
「そんなことより、先輩のさっきの言葉の方が問題です。誰が先輩以外を好きになると思っているんですか!?」
「健、落ち着いてください。今はそんな場合ではないでしょう? まずは私の話が終わってからにしてください。人の会話中に割り込むのは失礼ですよ?」
めっ、というように人指し指を立てられ、それが叱られているように見えてしまう。
「・・・・ごめんなさい」
「はい、健はいい子ですね」
そう言って頭を優しく撫でてくる先輩も大概だと思うが、それは言わないでおく。
「それで・・・・なにが『ですが』なんですか? 人前でイチャつく前に、話を終わらせてください」
「そうでしたね。続きの言葉ですが」
苛立ちを放つ相手に怯むこともなく、先輩は相対する。
「健を物のように扱う貴女には、絶対に嫌です。この子は貴女のアクセサリーではありません」
「そんなのは男だって一緒でしょっ!? カワイイ女の子を自分の物にするとか言ってるのに、女にはそれが許されないわけ?!」
今にも襲いかかって来そうな雰囲気に、密かに臨戦態勢を取る。幸い、さっきの衝撃で色々と疲れなどが吹っ飛んだので、もう少しだけ先輩を守れそうだった。
「そのような方々であれば、別にそのように為されればよろしいかと思います。ですが、健はそのような方々とは違います。だから、貴女も健を好きになったのではないですか?」
「そんなの知らない! 男にやられたことを、男にやり返すだけよ!」
「ちょっと待て、俺の事が好きだとしたらだ。正直、何も好かれる記憶がないんだが・・・・?」
会話に入る時に、少しだけ先輩の斜め前に出る。この位置ならば、いざというときに先輩を横から抱きかかえて逃げることができる。
「健、無理に出てこないでください。ほら、足元だって覚束ないではないですか・・・・」
それを察してか、先輩も俺を支えるようにして、傍らに寄り添ってくれる。
「男っていつもそうね。そうやって言い逃れして・・・・」
明らかに失望した顔を俯かせ、言葉を途切れさせる。けれど、すぐにふと思いついた言葉をもらす。
「・・・・別に譲って貰わなくてもいいのよね? 先輩さえ居なくなれば・・・・だから」
続きを聞く前に俺は先輩を抱き上げ、先手をとる。




