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傷だらけのこの世の中で ~link of tears~ 克服  作者: 偽穢
傷だらけのこの世の中で ~link of tears~ 1.告白
32/79

第32話 ~星の輝きなき夜の闇間~ 4

「健っ!!」

 先輩が名前を叫びながら、駆け寄ってくる。そして、時間差で地獄のような痛みが、中へ外へ表へ裏へ上へ下へと荒れ狂う。

「がっ!? ぐっ、あああああああああああああああああああああっ!!!???」

 もしもここが普通の世界ならば、痛すぎて痛覚がマヒしていただろう。でも、感覚の薄いこの世界では、痛みを感じてしまう。絶対に耐えられない痛みに、激しく襲われる。

「がああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 痛みに耐えきれず、俺もさっきの大型のように暴れて、拳で地面を叩く。腕を叩きつける。それでも、全然紛れることのない痛みに、頭を叩きつけてしまう。

 力を使っていない状態だと、簡単に地面とぶつかるダメージを受ける。

「健っ! 止めてくださいっ! そんなことをすれば余計傷ついてしまいますっ! すぐに癒しますから、もう止めてくださいっ!」

 俺を癒そうと先輩が抱きしめようとしてくる。それが見え、体を叩き付けるように転がり、先輩から離れる。

「ダメだ・・・っ! ぐうっ!? 暴れる、俺に・・・すれば傷つくっ!」

 死なないのは感覚で分かる。だから耐えさえすればいい。それがどれほど長い時間か分からないが、それでも俺は死なない。そう言葉をかけたから、痛みで俺が壊れない限りは終わらない。

 そのことを先輩から逃げながら、どうにかして伝える。

「だからといって、激痛で転げまわる健に何もできないなんて嫌ですっ! お願いですから抱きしめさせて下さい! そうすれば少しでも楽になります!」

「傷つくっ! ダメだっ!」

 諦めない先輩からなおも転がって逃げる。痛みは機能的なものだからか、そのおかげで勢いだけで転げまわることだけはできた。

「ダメじゃありませんっ! 私は傷ついてもいいんですっ! 健を癒せたらそれでいいんですっ!」

 頑固な先輩は絶対に諦めない。だからといって俺もこれだけは譲れなかった。こんなことで、先輩の心に負担をかけるわけにはいかなかった。

「だからお願いです! 私に抱きしめられてくださいっ! 健を抱きしめさせてくださいっ!」

 涙声で懇願してくるが、それでも無理なものは無理だ。先輩が近づいて来れば転がって逃げる。

 こんな痛みは俺だけで十分だ。先輩にはもう十分甘えさせてもらっているんだ。

 だけど俺は冷静さを欠いていた。先輩が考えもなしに俺を追い掛け回しているはずもなく。

「っ?!」

 気づけば隅へと転がりついてしまい、もう逃げ場はなかった。

「健っ!」

 駆け寄ってくる先輩から逃げるには、俺は立って走れるほどの体力がなくて、痛みに暴れる身体を

「すぐに癒しますからねっ!」

 先輩に抱きしめられてしまった。

「大丈夫です。まずは痛みをとるだけですから、私には・・・・っ?!」

 与えられる温もりが在っても、痛みを紛らわせようとする行為が落ち着くことはなくて、先輩の腕の中で暴れてしまう。それは当たり前のように先輩を傷つける。

 胸を強くたたき、腕をはらう様に身体を暴れさせる。それでも先輩が力を弱めることはなかった。先輩には一つも得はないというのに・・・

「大丈夫です。大丈夫ですよ、健。思い切り暴れても、私は貴方を離したりなどしません。絶対に離しません。ですから、痛みが引くまで暴れて下さい。それで少しでも痛みを紛らわせてください」

 先輩の抱擁と優しい言葉に、俺のような奴が甘えないわけがなかった。一度そうされてしまえば、元々が甘ちゃんの俺が逆らえるわけがなかった。痛みで余裕のない俺が、その慈悲を拒めるわけがなかった。

「・・・いい子です。健は本当にいい子です。いい子にはご褒美をあげないといけませんね」

 受け入れたことを察した先輩が、そう言って本格的に癒し始める。それでも俺が激痛で暴れていることに変わりはなくて、なのに先輩は優しい顔で俺を癒してくれる。

 傷つけているのに、結局先輩を守れずにいるというのに、そんな俺を・・・・・

 今感じている痛みよりもさらに強い情けなさに、自分の不甲斐ない弱さに涙が流れてしまう。

「・・・・っ!!」

 どうして俺はこんなに弱い? どうして強くなれないんだっ?! ただ一人守りたい女性を安心させることすらできなくて、何が男だっ!?

「健、そんなに自分を責めないでください。健は精一杯頑張っています。誰よりも頑張っています。ですから、どうかそんな御自分を責めないでください」

 その優しい言葉とは裏腹に、何故か辛い記憶が蘇ってしまう。認められない世界が頭によぎる。そこなしに暗くて、明るさなど感じられない世界が・・・そこには喪失しかなかった。何も手に入れられないばかりか、掴んでいたものすら失ってしまって・・・・立っていた世界自体が崩れ落ちてしまった。

 あの時に俺は———

「何も為せない努力には何の価値もないっ! 結果のない頑張りは許されないっ! できない努力なんてただの自己満足だっ! 何処にも居場所がなくて、なににも生かせないモノなんて存在する意味すらないんだっ! だからあの時俺はああああああああああああああああああああああっっ!!」

「————っ!」

 痛みで感情的な叫び声を上げるのを、先輩は黙って聞いてくれる。黙って抱きしめて癒してくれる。暴れ続けて、何度も何度も叫ぶ俺を、じっと受け入れてくれる。

 どれくらいの時が過ぎたのか分からないが、痛みが弱まって落ち着きを取り戻していく。大人しくなったことを感じて、先輩が顔を離して見下ろしてくる。

 その瞳は深い深い悲しみに彩られ、ぼろぼろと涙をこぼしていた。その水滴が俺の顔を次々と打つ。

「・・・あ・・・・っ」

 絞り出された声だって、当たり前のように震えていた。

「たけ・・る・・・その・・・・~~~~っ!」

 何か言おうとしているが、どうしても言葉にならないようで、ただ悲しみを揺らして涙だけは強く流していく。その雫が俺へと注がれていく。それはやっぱり暖かくて、俺が流すのとは全く別物で、冷たい悲しみを中和するように、先輩から俺へと与えられていく。

「・・・・すみません、先輩。情けない所を散々見せつけて言うのもあれですが」

「・・・嫌だと先に言っておきます」

「先輩だって限界ですよね? だから」

「嫌だと言っています」

「せんぱ」

「嫌ですっ!」

「でも」

「もうそんな言葉は聞きたくありませんっ! どうして健だけが背負わなければいけないんですかっ?! どうしてまだ子どもの貴方がっ! なぜ大人の責任を負わなければならないのですかっ?!」

 感情に任せた叫び声。泣きながら震える身体が、その胸で俺を深く受け入れてくれる。

「甘えてっ! 甘えなさい、健っ! 貴方はまだ子どもなんですよっ?! だったら子どもらしく甘えなきゃダメなんですっ! 甘えられた時間がなきゃ・・・いけないんです・・・・・っ!」

 深く抱きしめられ、頭を優しく撫でられる。それはここ最近、眠れた時に夢の中で感じられた、優しさに包まれた温もりだった。

「私に・・・甘えてきてくださいよぉ・・・・っ! 放課後、保健室で言ったじゃないですか・・・ずっと甘えさせてもらうと・・・あれは嘘だったんですか・・・・・?」

「・・・嘘じゃない。俺は・・・結局先輩に甘えている。先輩に・・・・こうやって癒されている。それ以上の甘えなんて・・・・俺にはない」

「・・・そんなのは全然甘えなんかじゃありません。傷ついたのならば、それが癒されるのは本来普通のことです・・・・・普通、なんですよ・・・・それを甘えだなんて・・・・・・どうして・・・・」

 俺の考えている甘えと、先輩の思う甘えが食い違う。それがまた先輩に涙を流させてしまう。さっきからずっと先輩は泣いている。その止め方が俺には分からなかった。

「すみません。俺は先輩が思う甘えと言うのが分からないです・・・・」

 その言葉に、先輩が一瞬はっとしたような顔をして、すぐにまた悲しみに顔を変えていく。

「ごめんなさい・・・健は、甘えることがよく分からないんですね・・・・・」

 ますます涙が溢れだす。本当にもう、どうすれば先輩の涙を止められるのかが分からなかった。だから、無理やりにでも話を変える。

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