第31話 ~星の輝きなき夜の闇間~ 3
「『この身は天地吹き荒れる、風の刃となる!』」
上空から敵へと向けて急降下。その時に生じる風を身に纏い、刃へと変える。
「————っ?!」
不意を突いた攻撃は、相手への接触を容易にさせてくれた。
至近距離から腕を刃のようにして奮えば、手から可能な限り延長させた風の刃が相手の体へと深く切り込む。
「『我は止まらず、駆け抜ける風となる!』」
普段の世界感覚、唯物論が無意識に定着しているせいで、存在しない肉体に刃が切り込んで、動きが取りにくくなる。そして、その体格差から、自分の腕力では振り抜くことが出来ないと、無意識的に認識してしまう。だからこそ、言葉による加速を加えることで、強引に相手の存在を引き裂いていく。それだけの速度を出して、全身の力を使って大型へと切りつけていく。
一撃、二撃、三撃・・・・
相手の目に止まらない速さで空中を動き回りながら、がむしゃらに暴れる相手へと確実に攻撃を入れていく。
こっちは一撃でも貰えば終わりだと感じてしまうのに、こいつは耐久度が高くて羨ましいくらいだ。
それでも、地上を駆けて戦っていた頃に比べれば、相手へのダメージは明らかに上がっていた。さらに、幸いなことに相手の攻撃は大振り。
知能が高くないのか、それともまったくないのか・・・他の奴がやられても学習しないおかげで、単調なパターンでしかない。それなら、素人の俺でも慣れればすぐに戦える。この世界だと、感覚的に分かるというのも大きい。
「————っ!!」
自分よりも遥かに小さな存在に弄ばれていることへの苛立ちか、大型が咆哮を上げる。
確かに大声は人を委縮させるが、そうならなければただ反発を招くだけだ。
「うるさいっ! いい加減黙って『死にやがれっ』!」
相手の頭部へと攻撃できるチャンスが来た瞬間、俺は迷わずに腕を二つ突き刺す。そして、その中で無慈悲な風の刃を巻き上げる。
「————っ?!」
弱い内側からズタズタにされる。それはどんな生き物であっても耐えられないだろう。小さな寄生虫に翻弄され、下手をすれば死ぬことだってあることは人間でも一緒だ。
でも、俺は明確に相手を殺すためにしている。下手をすればではなく、確実に相手の中枢系を壊すために、わざわざ体力を奪って、隙を見せた頭部の中へと死の風を発生させる。
「―~―~っ???!!!」
死に際の悪あがきで、派手に暴れる大型から素早く両腕を引き抜き、離脱する。
手ごたえはあった。後少しでもすれば消えるだろう。それでも万が一を考えて、来た時とは反対側の場所へと降りる。
最期に俺へと攻撃を仕掛けてくる可能性もあるから、もしも先輩のいる方にいたら、俺への余波で被害がでる可能性だってある。それだけは絶対に避けないといけない。先輩が傷つくことだけは絶対にさせない。
「おい、最期の足掻きはいいのかよ?」
「っ?!」
俺の言葉が分からなくても、雰囲気は伝わったのだろう。相手が俺へと意識を向ける。
そうだ。一矢報いんと俺へと仕掛けてこい。それでこそ先輩は無事に守れるんだ。
そんな俺の気迫に弱気になったのか、大型が俺に背を向けて逃走しだした。
「なっ?!」
それに慌てた俺も急いで後を追う。
「馬鹿野郎っ! そっちには先輩が————」
冷静に相手が消える時間を考えると、ぎりぎり先輩へと大型はたどり着くだろう。今の先輩は『救済』でその力に余裕がない。そこで道連れにでもされたら確実に先輩は・・・・
「させるかよぉおおおおおっ! 『我が身は救済を守る盾となるっ!』」
大型をも超える超速度で、瞬時に先輩の前へと戻る。
「健っ?!」
急に現れた俺へと、先輩が驚愕の表情を向ける。
姿勢を反転するときに垣間見えたが、先輩はまだ『救済』の途中だった。つまり、身動きがとれない状態で、それを中断させることもできない。
今分かることは、相手はもうすぐで最期の一撃を喰らわしてくる。その時間で、相手の動きを抑える言葉を使ってやればそれでよかったが、一つ失敗してしまった。
あの時俺は『盾』ではなく、『剣』と言わなければいけなかった。そのせいで、今俺は先輩を守ることでしか力を使えない。感情的になり過ぎて、身代わりの盾になることしか考えられなかった。剣ならば、迎え撃つこともできたというのにな。
言葉が表現された以上、言い換えることもできない。できることは唯一つ。自分の守備力を上げるくらいだ。こうなったら腹をくくる。
「大型がこっちに・・・健、まさかっ?!」
状況を把握できたのだろう。先輩から血の気が引けた声が聞こえた。それでも『救済』を止めていないのは、流石先輩だと思った。
「大丈夫です。先輩だけは絶対に守ります。俺のミスですから」
ここが唯物論じゃなく、唯心論の世界だとすれば俺にだって生存の道はある。
要は気持ちの問題。精神力、根性の世界だ。
「っ! いけませんっ!! そんなことをすれば貴方が壊れてしまいますっ!! こんなことで死なないでくださいっ!!」
それは初めて聞いた、悲痛な叫び声だった。そんな声を出させたことに申し訳ない気持ちで一杯だった。俺がもっとうまくできていれば、先輩にそんな感情を抱かせずに済んだと言うのに・・・・
「~~――~――~~っ!!!!」
目前に迫った大型が、痛みに悶えるその身を突進させてくる。体格差はチビと像。常識で考えれば間違いなく死ぬ。
重量、速度、衝撃、それらを当てられた時の予想はするな。最悪のイメージがそのまま俺へのダメージになる。ここは物質的な物とは希薄で、関与は極限までしない。だから、俺は死なない。死ねば悲しむ人がいる限り、俺は死なない! 死ねないんだっ!
「『死んでたまるかぁあああああああああああああああっ!!!』」
大型に負けまいと、俺も咆哮を上げる。そして、大型を全身全力で受け止める。
絶対に吹き飛ばされるわけにはいかなかった。そうなれば先輩まで巻き込まれる。
幸いそこはさっきの言葉が生きていて、俺は大型を抑えることに成功はした。
「ぐっ・・・ごほっ! がはっ!? ぐうっ!!?」
が、もちろんその衝撃は凄かった。感覚が薄いこの世界で、身体がきしむのが分かる。足が地面に陥没して、そのまま後ろへと押された感覚さえ、はっきりと知覚できた。
「————っ?!?!!!」
俺が死なないことへの不満か、残り少ない時間で俺を殴りつけてくる。こいつらも人間のように、一人で死ぬのは嫌なのかもしれない。
脚は地面に押しつぶされるような衝撃に、背中は叩き潰されるような痛みに悲鳴を上げる。それでも俺は崩れ落ちるわけにはいかない。俺が倒れたら先輩が・・・・っ!
駄々っ子のように俺を殴りつけてくるが、それもすぐに終わる。元々あと少しの存在だったんだ。それが来ただけのことだ。そうなればこの闇の世界に溶けて消えていくだけだ。
抑えていた存在が消えて、前のめりに倒れ込む。もう受け身とか無理だった。




