第29話 ~星の輝きなき夜の闇間~
「『救済を犯さんとする者、深き死を以って償えっ!』」
先輩に危害を加えようとする存在に、無慈悲の死を与える呪いを宣言する。
とっさに叫んだこの言葉で、先輩に群がっていた<<夜の存在>>の大半を消滅させることに成功した。それと時を同じくして、先輩を守っていた光が、ひび割れたところから砕けてしまった。もう少し遅ければ、先輩は奴らの餌食になっていた。
すぐに俺は先輩へと駆けより、そのまま身体を抱いて空中へと逃げる。
「『我、空の支配者なりっ!』」
適当にそれらしい言葉を吐き捨て、夜空へと急上昇する。昨日のような、ゆっくりとした感じにはいかなかった。
それほど今の状況は切羽詰まっていた。眼下にはまだまだ<<夜の存在>>がひしめいている。恐らく、昨日の山に逃げようとしても奴らはついてくるだろう。それくらい強い敵意を向けてきている。
「健・・・」
先輩が強く抱きついてくる。逃げ場のないことを悟っているのだろう。
流石に、先輩もこの状況を読むことはできなかったようだ。今は混乱したような感じで、俺と地上を見ている。
「先輩、大丈夫です」
今の状況を招いた原因として挙げられるのは、この二日間俺が奴らを『討伐』できていないことが考えられる。それなら現状の打開なんて簡単だ。純粋に増えた奴らをまとめて叩き壊せばいいわけで、それだけの想像を使えばいい。
幸い感知した範囲では、増えたのは雑魚だけだ。大型はいない。
ならできる。やるしかない。やらないといけない。そうしなければ先輩が・・・・
「ここから奴らを掃討します」
「何を言っているのですか?! 力を同時に二つも使うなど、健はまだ経験していないではないですか?!」
「先輩ができたのなら、俺にだってできるはずです。昨日、そう言ったのは先輩ですよ?」
「そうですが・・・でも私と健とでは、力の方向が根本的に違います」
それは感覚的に分かる。
俺の力は壊すことだ。それを分けるということは、破壊のベクトルが弱まることを意味する。つまり、効率が悪くなる。そんな状態で強い力を出せるかと言えば、当然Noだろう。普通に二等分するだけならば、な。
「・・・大丈夫。無理が通れば、道理は引っ込むものですから」
「っ!」
俺の顔を見て、先輩が諦めた表情を浮かべる。本当にここの世界では、先輩も表情を出せるんだなと、呑気なことを考えてしまう。
「・・・・」
黙って言葉を考える。自分たちが空中にいなければ使えないような技を。そうすればこの空中で浮いている状態でも『討伐』の力は十全に発揮できるはずだ。
昔読んだ漫画、遊んだゲーム、見たアニメ達から、空中で使われていた技を思い出す。それを自分の持つ言葉として組み替えていく。技名そのままで使えないことは、一ヶ月前に実証済みだ。あの時は凄く恥ずかしかったが・・・・ダメだ、雑念が入ってきている。
意識を集中するけど、空っぽにもする矛盾した感覚にしないと・・・・・
浮かぶ言葉は・・・・星・・・光・・・・降り注ぐ・・・・・落ちる・・・・滅び・・・・・
ふと、持っている漫画の技名が出てきた。その対象を奴らだけに変えて、言葉を少しいじれば使えると思った。思えば迷うことなく言葉を紡ぐ。
「先輩、絶対に目は閉じていてくださいね?」
その前に先輩にお願いはしておく。悲惨な景色になるイメージができてしまった。だから、そんな世界を先輩には見て欲しくなかった。
「えっ? ええっ、健がそういうのであれば・・・そうします」
言われるままに先輩が目を閉じてくれる。それを確認して、今度こそ本当に滅びの言葉を・・・・・残虐なる旋律を奏でる。
「『天から落ちる光、地を這う者に滅びを与える!』」
俺達の上から音速を超えるであろう、幾つもの光が次々と地上へと落ちていく。
情け容赦なく地上の存在を屠る滅びの光。それは光の流星。
よくゲームとかにある、星が落ちて敵を倒す技だ。昔は派手な演出の技だと思っていたが・・・現実で見るとえげつないことこの上なかった。
一撃で壊れて消えるのが、とても優しいと思った。
一撃で壊れず、身体(?)の隅々までズタズタにされながら、なかなか完全に壊れない奴もいたが、一番酷いのはそれでも壊れずに在り続ける奴らだった。
光の散弾に全身を穿たれながら、不幸にも終われなかった奴らが地上に残る。
もう奴らのほとんどが消え去り、残っている奴らだって戦意は失くしていた。
今や地上は地獄絵図・・・・とまでならないのは、やはり壊れた奴らは消えていなくなり、傷だらけのやつらも流す血がないからだろう。
消えない奴らの、吹き飛んだ身体の部品が少々転がっているが、冷めた眼にそれくらいで感じるモノはなかった。憐れみすら感じない。
こいつらは萌先輩に手を出そうとした。誰よりも優しい存在を傷つけようと、その心を犯そうとした。そんなのにかける情けなど持ち合わせていない。
死に体の奴らには、もうこの言葉だけで十分だ。
「・・・・『死ね』」
弱弱しく蠢いていた奴らもこれで完全に壊れてくれた。ようやっと、二日分の掃除が終わったといったところかな?
地上周辺の気配を探ると、どうやら安全レベルにはなったようだ。幸いなことに、ほとんどの<<夜の存在>>が集まっていたようだった。これなら今夜はもう安全と思ってもいいか?
「・・・先輩、もう全て消えましたよ」
ゆっくりと降下しながら先輩へと声をかける。
「たけ・・・る・・・・?」
恐る恐る、ゆっくりと先輩が目を開き、その身を強張らせる。
それだけ怖い思いをさせていたことを思うと、自分の弱さが嫌になる。
「手こずって、すみませんでした。もっと早く、先輩が集合場所まで来られないことに気づいていれば、ぎりぎりで助けることもなかったと言うのに・・・・」
「い、いえ・・・健が必ず助けに来てくれると信じていたので、そこは大丈夫でした」
「・・・だとすると、何を先輩は怖がっているのですか?」
「健、気づいていないのですか?」
首を傾げ、分からないと伝えると、先輩は言葉を続けてくれた。
「今の貴方、とても酷い顔をしているんですよ? せっかく昨夜で良くなっていたのに、たった今のでこんなになってしまって・・・・・」
「先輩を守るためなら、これくらい大丈夫ですよ」
「大丈夫ではありませんっ! どうして貴方はそうやって、自分の身体を大切にしないのですかっ?!」
震える声で、泣きだしそうな顔で俺を叱ってくる。
「・・・健、必要以上に傷つかないでください」
首に腕を回され、身体を密着されると、温もりが中へと注がれてくる。
「先輩、続けての治癒は負担になるので止めて・・・」
「あげません。絶対にやめてなんかあげません。守られるだけで、癒すことをしないなんて、そんなことは絶対に嫌です。健だけが傷ついて疲れるのは嫌です」
「だからって、先輩まで負担に付き合う必要はありません。この程度なら俺はまだ大丈夫です」
「~~~~っ! 『この程度』を、耐えられない人がどれだけいると思うのですか?! 普通の人なら、泣き声を上げる程なんですよ?! それを、どうして・・・・っ!」
多分先輩は俺にだけ、その心の奥にまで触れてしまうのだろう。俺を癒す時の先輩の感情的な言動は、それ以外では考えられなかった。普段はあれほど感情が出されないのに、この時だけは激情を訴えている。
普通なら心を触れられるのは嫌だが、先輩のそれは俺を想ってくれているから、ただ幸せだと感じられる。誰かから想われることが、ただただ幸せだった。




