第27話 ~恋人としての日常~ 7
二人の視線が俺に集まる。
北条さんは驚愕。先輩は・・・よかった、特に問題はなさそうだった。
「健・・・遅いですよ」
どことなく拗ねたような雰囲気が可愛い。
「すみません。女性を待たせるようじゃ彼氏失格ですね。それも、本来なら俺が先輩の所に行くのが筋だというのに、来ていただいた上で気づくのが遅いようじゃ、ダメですね」
俺のようなやつを彼氏にしないほうがいいと、影のある雰囲気を込めて北条さんに聞かせると・・・・なんとなく、北条さんが俺から離れたような気がした。
「健はダメじゃないですよ? 本当にダメな人なら、そういうことにすら気づきませんから」
先輩は俺のこういった言い方には慣れているので、すぐにそれを否定してくる。
いつも俺がマイナスの発言をする度に、先輩はそれを否定してくる。そのたびにくすぐったいが、今回に関しては丁度いいと思えた。
「・・・ありがとうございます。それじゃあ、先輩行きましょうか」
「・・・ええっ」
手を掴んで歩き出そうとすると、北条さんが声をかけてくる。
「ま、待って!」
「・・・何か俺に用事でもあるの?」
明らかに面倒臭そうな空気を出す。
先輩にまでいちゃもんをつけてくるようなら、容赦するつもりはなかった。
「本当に先輩と付き合ってるの? 本当の本当に・・・?」
「むしろ、これでどうして付き合っていないと思うのさ?」
繋いだ手を見せると、先輩がぎゅっと強く握り返してきた。
先輩は事態を見守っていて、どうやら今は口を挟むつもりはないようだった。
「どうしてって・・・・それは、その・・・・・」
「と、いうかさ・・・・そもそも北条さんは俺の事好きじゃないだろ?」
「っ?!」
「思うに、周囲の女友達には彼氏がいて、自分にはいないから孤立してるんだろ? だからそれを回避しようとして、適当に俺を彼氏にしようとしたんだろ?」
「な、なんでそんなことが分かるのよ?」
「なんでって・・・そりゃ不自然だろ? 特に友達的な関わりがなくて、興味があるだけで付き合おうなんてさ。それに、普通のいい年した女子が、わざわざ年下の男子に興味を持つとは思えない。普通は年上なんだろ?」
さっき聞いた話を使わせてもらうが、あくまでも自分が考えた結果の結論として話を持っていく。
「だったら、萌先輩はどうなの? 先輩の方が年上よ? それとも、先輩は普通じゃないというのかしら?」
「そうだ」
「はあっ?!」
てっきりそうじゃないとか言って、慌てふためくところでも想像していたのだろう。それが外されて面喰っている。
「なにせこんな俺を好きになってくれる人だ。普通の人が、俺のような奴を好きになるわけないだろ?」
「・・・信じられない、普通付き合っている彼女のことを、普通じゃないとかいう?」
軽蔑するような目で見てこられる。
それと同時に萌先輩に憐れむような視線を向ける。
「そんな目を向けなくてもいいんですよ? 自分が普通じゃないことは、私が良く分かっております。でも・・・」
沈黙を破って、先輩は北条へと言葉をむける。
そこから先輩が手を緩めて、離すようにと伝えてくる。大人しく手を離すと、先輩が俺の後ろへと回りこんで、言葉を続ける。
「・・・だからこそ、お似合いでしょう?」
そう言って、俺を抱きしめてくる。俺としては、いつか俺がこういう風に先輩を抱きしめたいんだけどな。
なんというか、北条に対してはしつこいくらいに見せつける行為をする。
「私のような変わった女を、健は純粋な心で慕ってくれています。そんな子を好きになるのは、おかしいですか?」
先輩の顔は見えないが、言葉の中に形容しようのない色が混じっている。
「別におかしくてもいいですけどね。私が健を好きなことに変わりはありませんので。ね、健?」
頭に頬をすり寄せられる感触がする。もう先輩はやりたい放題だった。
それと・・・今の呼ばれ方はかなりヤバい。女の艶やかさがあって、その中に女の子の愛らしさを混ぜ合わせたような声音。こんな声で囁かれたら、多分ほとんどの男は落ちると思う。
「あの、先輩・・・あまり人前でそういうのは・・・・・」
「そうですけど、ちゃんと見せつけておかないと、何度でも恋人関係を疑われますからね」
「あー、その・・・これで信じてもらえた? というより信じてくれ。そうしないと先輩がより過激になりかねない」
懇願に近いが、どことなく嬉しさがにじみ出てしまう。そりゃ、好きな女性と触れあえて嬉しくない男がどこにいるというのか。例え、それが演技であったとしてもだ。
「・・・・」
萌先輩の普段とは違う姿にあっけにとられている。
多分、理解できないから脳がショートしてるんだろう。
俺だって、夜の世界で先輩に抱きしめてもらうことを経験していなかったら、こんなことが現実だとはとても理解できない。なにせ人に対して関心がないと言われているあの萌先輩が、今は俺を抱きしめて、語りかける言葉に色を付けている。それは、萌先輩という人の噂の中で有り得ないことだった。
「触れあうスキンシップが過激ですか?」
「少なくとも、俺には刺激が強いです・・・先輩」
「一緒にいるようになってから、毎日抱きしめているじゃないですか。それでも慣れないですか?」
それは夜の世界の話しで、こっちで抱きしめられたのは今日が初めてじゃないですか?!
とは言えない。
「あー・・・茜。これ本当に付き合ってるよ。あの萌え先輩がここまで惚れ込むことが証拠だろ?」
名前を呼ばれ、我に返った北条さんが萌先輩を睨みつけるように見てくる。まるで狙っていた獲物を摂られた肉食動物みたいだ。
それと、この女子は誰だ? クラスの女子の名前全員覚えていないから分からないぞ? 雰囲気としてはグル―プのリーダーのような感じだが・・・
北条さんに近づくと肩を掴んだが、乱暴にそれが振り払われる。
「触らないでっ!」
それを捨て台詞に、廊下を駆けてこの場から去っていった。去り際の顔からは強い負の感情が見えていた。
「あ~、悪いね。どうもうちらのグループで、彼氏がいない奴は魅力がない女子とかいう空気になってさ。そろそろ締めといたほうがいいか。流石に行き過ぎだ。萌え先輩、悪かったな。あんたの彼氏をおもちゃにしてさ」
全然悪いと思っていない口調だったが、不思議と嫌な気分にはならなかった。良くも悪くも、そこには大した感情が入っていないからだ。
「そんじゃ、それだけ。今後は相心には手を出さないように言っとくよ。出したところで、萌え先輩相手に勝てるわけないんだし。じゃあね」
ひらひらと手を振って、さっさと去っていく。こっちは感情が読めなさすぎて、ある意味感情をむき出しにした北条さんより怖い印象だ。
「行かれましたね」
二人が去って行ったのを見届けてから、先輩が腕を解いて離れる。
「先輩、大丈夫でしたか? 何か酷いことを言われたりとかはしていないですか?」
離れればすぐに先輩へと振り返る。見た感じでは特に問題はなさそうだが、何となく気になった。
「そうですね・・・まずは場所を変えましょう。ここだと人目が気になります。ついてきてください」
そう言われ、ついていった先は昼間と同じ保健室だった。




