第23話 ~恋人としての日常~ 3
「まさか保健室で昼飯を食べる日がくるとは思っていなかったですね」
「そうですね。けれど、ここならば基本的には静かですよ?」
「ただ・・・この独特の匂いには慣れないですね」
意外と薬品臭くはないけれど、そういう場所だと言う匂いは漂っている。
萌先輩はここの常連であるため、保健の先生に融通が利くらしい。
「・・・そのうち慣れるので大丈夫だと思います。しかし、先生にはお気を遣わせてしまい、申し訳なく思います」
「むしろノリノリなように感じましたけどね」
俺たちが来ると保険の先生は大層驚いていた。もちろん、普段は萌先輩だけなのに、今日は俺という部外者がいたからだ。先生が出ていくまでの会話を思い出す。
「えっ?! 萌ちゃんが彼氏作った噂って本当だったの?!」
「はい。それで大変恐縮なのですが、こちらで彼と一緒に、お食事を摂らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うんうん、青春するのは大変よろしい! ようやく萌ちゃんにも春が来たのね~。でも、年下の彼氏と言うのが意外だったわ。って、ごめんなさいね。別に貴方のことを悪く言っているつもりはないの。ただ、ほら萌ちゃんってさ・・・・・」
「分かっています。萌先輩の身体を思えば、それこそ年上で頼りがいのある人の方が相応しいと、俺だってそう思いますから」
「静流先生、大丈夫です。健は見た目で損をしてしまいますが、その心は大変立派な人で、とても頭の賢い人です。今でも頼りがいがあるのに、これからさらに素敵な男性になりますので、私にはもったいないくらいの人ですよ」
「先輩、それは褒めすぎですよ」
「褒めすぎではありません。そもそも健は自尊心が低すぎるのです」
「健・・・? ああ、あの健君だったのね。この高校始まって以来、初めての特待生になった。知性溢れる期待の一年生の、あの健君か~」
「・・・ただ誰よりも時間をかけて勉強しただけで、特別頭が良いわけじゃないですよ。それに特待生の制度だって、ここは富裕層の学生が来る場所ですから、誰もお金には問題ないからこそ、使われなかっただけですよ。俺はそこの隙間を使わせてもらっただけで、実力で手に入れた訳じゃない」
「君のその言葉で、何となく萌ちゃんが気に入った理由が分かったわ。うん、確かに健君は将来いい男になるわ。それじゃあ、そんな二人の邪魔する訳にはいかないし、私もお昼を食べてくるわね。その間鍵はかけておくので、二人仲良くしなさいよ?」
「——なんというか、食えない人ですね」
「ええ、中々に面白い先生でしょう?」
「面白いと言える先輩が凄いです。俺はどうもああいう人に勝てるイメージが湧かないです」
「別に勝とうとしなくても良いではないですか。静流先生は健を気に入ってくれましたよ?」
別に先輩以外の人に気に入られてもな・・・・面倒にならなければいいが。
「それより、早く食事にしましょう」
「先輩、早いですね・・・・」
話しをしている間にイスに座り、机に荷物を置いたと思えば、もう先輩は弁当を出していた。
「当然です。時間は有限ですから、できる限り早く行動するに限ります」
「そこは同感です。それじゃあ食べましょうか」
俺はいつものようにコンビニで買って来たモノを袋から取り出す。それを見て、萌先輩がびっくりしたような空気を出す。
「健・・・貴方、お弁当は作ってもらえないのですか?」
「んー、基本昼はいつも適当に買ったモノを食べていますよ。別に不満はないからいいです」
「不満とかそういうのではなくて、これだけだと栄養が不足するでしょう? お腹は空かないのですか?」
「慣れているから平気ですよ」
「・・・・っ!」
先輩が僅かにだが顔を歪める。
健康に気をつかって食事に気をつけている人からすれば、確かに俺の昼飯は褒められたものじゃないだろう。でも、先輩はそこじゃなくて、もっと違う所を気にしている。
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
だから、そこは否定しておく。
先輩にこれ以上心配してもらう訳にはいかない。
「そうはいきません。成長期の健に必要なだけの栄養が不足しています。ちゃんと朝は食べていますか? お夕飯ではちゃんと栄養が取れていますか?」
なんか先輩からそんなこと言われると、美人の女医さんから問診されている気分だ。
上辺だけのおせっかいを焼かれることは大嫌いだが、先輩のそれは上辺じゃなくて、本当に俺を心配して言ってくれているから嬉しい。
それだけで俺には十分だ。
「・・・はい、大丈夫なので安心してください。それじゃあ、頂きます」
少々強引だが、食事の挨拶を入れて食べるという方向へと流れを持っていく。
先輩も何か言いたげだったが、先に食事を摂る方を優先してくれた。
よし。今回は上手くやれたかな?
なるべく噛む回数を多くして飲み込んでいく。上手く脳の満腹中枢を満たしてやれれば、少ない量でも満足感は得られる。とはいえ、食べるだけだと付き合っているという間柄上よくないから、俺から先輩に話しかける。
「そのお弁当って、ひょっとして先輩が作っているんですか?」
「ええ、よく分かりましたね」
「昨日藤塚先生が言っていたじゃないですか『お嬢さんだからお茶くらい習っている』と。だったら料理もされているんじゃないかと考えただけです」
「ほう・・・よく覚えていましたね」
「初めて先輩の淹れてくれたお茶を飲んだ時に言われたので、印象深く残ったんですよ」
そこからまた暫く食事を摂ることに時間を使う。
喋ってばかりいると食べることができないから、そこは感覚でやっていく。




