第19話 ~そして、また夜の世界へ~ 3
「分かりますか・・・? 先月十五歳になったばかりの貴方が、その何倍も生きている人達なんかよりも・・・・ずっと傷ついているんです・・・・っ! 深く深く、大人と呼ばれる人よりも、子どもである貴方の方が傷ついているんですよ・・・・っ? なのに、どうして・・・・子どもである貴方が癒されて、罪悪感を抱かないといけないのですか・・・・・? ボロボロの心で私を守って、それを癒してあげたくて・・・・なのに・・・・・それなのに健だけは、そんなになっても私を心配してくれて・・・・・っ! 私のことを心配して・・・なるべく私に力を使わせないようにと・・傷だらけであろうとして・・・・・私はそんなのは嫌です・・・・・・」
・・・怒っている?
・・・悲しんでいる?
・・・嘆いている?
恐らくそれ以外も・・・・全ての負の感情を今先輩に背負わせてしまっている。
「健は・・・・もっと甘えてもいいんですっ! もっと、私に・・・甘えて下さい・・・・・」
涙の雨を降らしながら、甘やかせようとするその姿は、慈愛を具現化したかのようだ。
「・・・俺は、もう・・・・十分・・・甘えさせて、もらって・・・・ますよ・・・・・」
本来ならもう離れないといけない。
俺の感情が先輩に行き過ぎている。なのに甘えたがりの自分が離れることを拒んでいた。けれど、これ以上は流石にダメだと思う。
自分以上に慌てたり、怯えたりした人がいると冷静になると言うが、今それに似た感じだった。
・・・先輩に背負ってもらっているから、ある意味そうなるのは当たり前なわけだが・・・・ただ、これまでの経験から、先輩がここまで感情的になるとは思ってもいなかった。
「だから・・・ありがとうございます」
先輩に抱きついていた腕を解いて、繋がりを切る。
「健っ?!」
萌先輩の驚愕の声。
それは甘えたがりの幼い自分から、甘えの場を取り上げることを意味していた。
幼い自分が泣き声を上げているが、そんなことは知るか。これ以上は先輩の心にまで影響を与えてしまう。お前(俺)がそこまでされるだけの価値ある存在か?! と、そう怒鳴りつけて黙らせる。当たり前だが、もちろんその反動は自分に来る。自分で自分を切り捨てる行為をしたわけだから、そのダメージは生半可のモノじゃない。
「~~~~っ!」
中からずたずたに切り裂かれ、血が流れて行くような感覚を味わう。
「なんて無茶をされるんですかっ?! 早く私を抱きしめてくださいっ!」
「・・・・っ! 嫌です! これ以上先輩に負担をかけるわけにはいきませんっ! それに俺は、これ以上して貰えるほどの人間じゃありませんっ!」
こういう痛みなんて所詮は慣れだ。上手く処理する方法さえ身についていれば、初めの衝撃だけで痛みはすむ。
「・・・ほら、もう大丈夫ですから・・・・先輩も離れて下さい」
「嫌です」
不機嫌を隠さずにそう言われしまう。これは頑として意見を曲げない時の先輩だ。
「健が私を抱きしめるのが嫌ならば、私は健を離すことが嫌です。それに、女として少し傷つけられた気分ですし、丁度いい大きさの健を抱きしめて癒されておきます」
あてつけるようにして強く抱きしめてくる。これがこの世界で本当に良かった。そうじゃなければ、今頃先輩の柔らかさに頭が大変だ。
「あの、先輩に負担をしいるのが嫌なので、本当に勘弁してもらえませんか? この状態でも先輩に負担はかかっているわけでして・・・・」
「・・・私はそんなに頼りないんですか?」
「いえ、頼りすぎてしまうからこそ、甘えすぎるのはどうかと思う訳でして・・・・・」
俺の言葉に、先輩は本当に悲しそうな顔をする。
「健・・・貴方の言う甘え過ぎと言うのは・・・・普通なら誰もが貰えるようなものなんですよ・・・・?」
「なら、俺は普通じゃないということで良くないですか? それで先輩が苦しむ方が嫌ですよ、俺は」
「ああ、もう・・・っ! どうして貴方はそういつも私を優先するんですかっ?!」
本当に今日の先輩は珍しい。こうまで感情豊かな先輩は初めてだ。
「好きな人のことを優先するのは当然でしょう?」
「だったら、それは私も同じです。年上の女性として、年下の男の子を甘やかしたいものなんですよ?」
この言葉は人として喜べるんだけど、男としてはちょっと素直に喜べない。やっぱり俺って、異性として見られていないよな? いわゆる、お姉ちゃんを守ろうとする健気な弟ポジション?
「ですから、もう十分甘えさせて頂いてるので、これ以上は流石に気が引けるというか・・・・というよりも、この世界ってそういうことが主な場所じゃないですよね? これ以上先輩に疲れが溜まると『救済』の力にも影響がでますし、そもそも夕方の疲れで力を使い過ぎないようにしないといけない訳ですよね?」
「・・・痛いところを突かれましたね」
俺の指摘に先輩が顔を変える。どうもイタズラを指摘された子供の様な感じだ。
「その、ですね・・・疲れは本当ですが、力は問題なく使えます。ただ、セーブしたくてついあのような嘘をついてしましました・・・・申し訳ありません」
力なく先輩が、ようやっと俺を離してくれた。
「別に謝ることないですよね? 力をセーブするのはゲームでも基本ですよ?」
解放されたところで、俺は自分の状態を確認しながら会話を続ける。
「先輩の『救済』はかけがえのないものですから、それに専念するには極力他のことには使わないのが一番じゃないですか?」
うん、身体が凄く軽い。むしろいつもして貰った時よりも遥かに調子がいい。というよりも、これって初期よりもいいんじゃないか? 待てよ、そうなると先輩の今回の治癒って普段以上に力を使っている・・・?
「・・・やはり気づきましたか」
「え~っと、先輩・・・今夜はもう・・・ひょっとして?」
「・・・はい、今夜はもうほとんど力の残りはありません。その全てを健に使いました」
ダンジョン攻略の序盤に僧侶のMPが0か・・・




