第17話 ~そして、また夜の世界へ~
またいつもの夜が来た。
今夜は特に気が急いていた。昨日知った、思った以上に虚弱な先輩の身を思うと、いてもたってもいられなかった。だから、先輩に会うまでに遭遇する<<夜の存在>>は容赦なくぶち壊していった。
「『邪魔だ! どけっ!』」
むき出しの敵意と殺意が、感情的な言葉だけで『討伐』の力を発揮させる。
俺の声というか、感情が届いた存在から破裂して次々と消えていく。これまででは考えられないほどに、効率よく敵を掃討できていた。だが————
「いつもより邪魔が多いっ?!」
行く手の道の奥まで存在が認識できた。
いくら効率のよくなった今のやり方でも、流石に手間がかかり過ぎる。
これだと先輩の身にも危険が・・・? そんなことさせてたまるかっ!
「『お前ら全員、消えろぉおおおっ!』」
言葉だけでなく腕を振って、見える敵を一網打尽するシーンをイメージする。すると、今夜は面白いくらいにその通りになった。目に映る敵の存在だけが全て横一線に真っ二つとなり、一斉に消滅していく。
その光景を見て、どこか愉快に感じている自分がいた。圧倒的なまでの暴力に酔いしれそうになる。
「ははっ・・・・これくらいの力があれば、先輩の手を借りなくても・・・・・・アイツらを壊すことができるのかな・・・?」
人型レベルの壊れた存在なら一人で十分だが、大型の存在だとどうしても先輩のサポートがないと倒すことができなかった。
安全に『救済』を行うため、どうしても大型は駆除しなければならない。
だが『救済』なんて俺にはどうでもいい。
「それとアイツらも・・・・先輩の負担になる存在も、全て壊せるか・・・・?」
そもそも、何故先輩が見ず知らずの誰かを助けなればいけないんだ?
弱いその身を削ってまで、誰かを助けなればいけない理由がどこにある??
もしそうだとしても、そいつらの誰が先輩をこの世界から救い出してくれるって言うんだ? 自分が救われて、それで『はい。おしまい』か? ふざけるなっ!
激情のままに町を駆けながら、自分自身冷静でないことはどこかで理解していた。だが、一度爆発した感情が収まるのは難しかった。少なくとも・・・
「健」
一人ではだが。
「萌先輩っ!」
待ち合わせ場所の公園の噴水に辿り着くと、無事な先輩の姿が見れた。
本来当たり前ではあるはずだが、その姿を確認することで初めて心の底から安心できる。
昂っていた感情が落ち着いていく。現金にも、先輩がいるだけで暴力的な感情が引いていき、冷静な思考が戻ってくる。
「無事でよかった・・・」
「申し訳ありません。昨夜のように飛んでいけたらよかったのですが、今日はどうも上手く力が出せないので、ここでお待ちしておりました」
「夕方の診察で疲れてしまった感じですか?」
「・・・そうですね。自覚していないことを確認してしまいますと、やはり衝撃があるみたいです」
言われれば、今の先輩には覇気的なものが極端に薄くなっている感じがする。このまま世界に溶けて消えてしまいそうなほどに、とても弱弱しい姿だ。
「そうなると、早く昨日の場所に行って落ち着いたほうがいいですね。俺でも先輩のように飛ぶことはできると思いますか?」
「恐らくできると思います。私も何となく飛べるかもしれないと思い、身体が浮いて動けることをイメージしたらできましたので・・・・要は想像力の問題ではないかと」
「分かりました。それじゃあ飛びますので、ちょっと失礼しますね」
単純な想像が力を持つなら、俺の場合は自己暗示的な言葉をかければできるだろう。
「たけ・・・えっ?!」
危険の少ない場所へと移動しなければと、居ても立っても居られず先輩を許可なく抱き上げる。
「すみません。向こうに移動するまでこのままで勘弁してください」
「別に構いませんが・・・・その、重たくはないですか?」
「ここで重さとかはあまり関係ないですよ? というよりも、先輩もそういうことを気にされるんですね」
「適正なBMIである必要はありますが、単純に私の方が健よりも身長があるので、そうなると私の方が重たいですよね?」
「事実だけに傷つくな~。確かに、こっちじゃなくてあっちの世界だと絶対にできないです。先輩はこういうのは嫌ですか?」
「いいえ。誰かに守られるのなら、誰だって守られたいと思いますよ? 少なくとも、私はそうです。健に守ってもらえることを、喜んでいる自分がいます」
そっと首に腕が回され、密着度が強くなって、顔も近くなる。もしも肉体的な感覚が通常状態であれば、俺は冷静でいられなかっただろう。今分かるのは、せいぜい互いが何となく触れているなというくらいでしかない。
「ただ、年下である貴方に守られることを不甲斐ないと思っている自分もいますけどね。それでも、やはり貴方に守られているということが・・・嬉しいです」
普段は凛々しくて大人の女性な先輩が、今は乙女のような顔つきでそんなことを言ってくる。
この世界で浮ついたことを思っている余裕なんてないのに、素直に先輩を可愛いと思ってしまう。
「なんというか・・・恐縮です。それじゃあ、飛ぶのでしっかりとつかまっていて下さい」
「ええ、お願いします」
意識を集中するため、浮ついた感情を捨てる。
心に隙間を作り、そこに想像の世界を構築していき、思いついた言葉をそのまま放つ。
「『我、天空を駆ける者となる』」
イメージしたのは寝る前に読んだ『創破神世』のシーン。
主人公『ネウス』がヒロイン『クロワノール』を助けて空へと逃げるところだ。
強い風が巻き起こり、それに乗っかるようにして大地から跳ぶ。するとそのまま身体はぐんぐんと上昇していく。
高度は正直必要ないが、上がるままに任せるしかなかった。
細かいところまで制御することはまだできない。そういうところはまだ不便だ。
ある程度、町の夜景を広く見下ろせるくらいの高さまできてそこで上昇は止まった。
「・・・綺麗ですね」
真夜中でも消えることのない明かりはある。その明かりをみて先輩がそういったのだと思う。
「そうですか? 俺はどうにも違和感しかないですが・・・・・普通夜は寝るものでしょう?」
「そうですね。確かに健の言う通りですが・・・それでもやはり暗闇に灯る明かりというのは、綺麗ではないですか?」
「そう思う先輩の心の方が綺麗ですよ」
明るい時では決して言えない恥ずかしい台詞も、ここでは躊躇することもなく出てきてしまう。
時々思う。ここにいる自分と、明るい時にいる自分。どちらが本当の自分なのだろうか? そもそも、本当の自分などいるのだろか? 一体俺は何なんだ?




