第14話~変わる日常~ 7
「私の彼氏です」
「・・・・ほうっ? あの萌お嬢さんがついに想い人をつくられましたか・・・・感慨深いものですな・・・・・」
先輩の方を見て、自分の孫に恋人ができたかのような表情を見せていた。
ああ、この顔は喜んでいる顔だ。先輩が一人じゃないことを、嬉しいと思ってくれている顔だ。
それだけで俺はこの人に急激な親近感を覚えた。先輩のことを想ってくれている存在がいることが嬉しかった。
「目を引く美貌はあれど、お嬢さんは人に受け入れられにくい存在ですからな・・・・それを克服して、ようやっと見つけられましたか」
「その・・・克服はできていませんけど、有難いことに健は、私を慕ってくれています。それで、今日は私のことを知って頂こうと思い、こうしてお連れしたのですが・・・・・よろしかったでしょうか?」
「はははっ、別にお嬢さんさえよければかまいませんよ。こちらはお嬢さんの体調を良くするのが使命です。彼氏をお連れして、それでお嬢さんの具合が良いのならば、それでよいです」
「ありがとうございます。それで、健。この御方ですが、生まれた時からずっと私を見て下さっているお医者様で、藤塚 格先生と言います」
「先ほどは挨拶に返事ができんで失礼した。ワシは藤塚 格という。もう表向きは引退したんじゃが、萌お嬢さんだけは未だに診ておる。なので、医師免許はまだ所持はしておる。これがなければ、ワシなどただの老いぼれじゃからな」
「免許などなくても、藤塚先生がただの人なわけありません。もし先生がおられなければ、私は今こうして生きていないのですから・・・・そうおっしゃらないでください」
「えっ? 先輩って、そんなに危ない時があったんですか?」
「ええ。私はどうも西洋薬との相性が良くなかったのです。なので病気になっても使える薬がなくて、一か八か漢方を藤塚先生がお使いになってくれて・・・・・それからずっとお世話になっております。昔はもっと病弱だったのですよ?」
つもりこの先生は萌先輩の命を救ってくれて、その先輩が今は俺を支えてくれていて、もし先生がいなければ先輩はいなくて・・・・今頃俺は・・・・・・
間接的に、この先生に俺も救われているということなのか・・・・
「人の命を救う、それが医道。だから健君、そういう視線を送る必要はない」
「そう言われましても、先生がいなければ萌先輩はその・・・・そういうことになっていたんですよね?」
今の俺には萌先輩がいない世界なんて考えられなかった。もしもそうなっていたら、俺はどうなっていたんだろう? あの夜の世界を一人で彷徨い、ロクな生き方をできなくなっていたことは確実だ。
「先人の知恵を拝借しただけで、特にワシは何もしておらん。それにのぅ、ワシは元々医者としては三流じゃ。じゃから萌お嬢さんを治すことが未だにできておらん。名医にかかっておれば、今ごろは健康体として過ごせていたというのに・・・・ご両親やお嬢さんはワシ以外にはかかる気がないということじゃからのう・・・・散々その筋の先輩に、色々と聞いて教えて貰ったモノじゃ」
「私の命は藤塚先生にお預けしましたから・・・・他の方には預けられないのです」
「その辺の律儀さはいらんのじゃがのう・・・・自分のことを第一に考えて欲しいもんじゃが、ワシとて医師の端くれ。信頼を寄せる患者をむげにすることはできん。それではそろそろ話しは止めて、診察に入らせてもらうよ」
これって、俺は出て行った方がいいよな? 診察ってことは個人情報の塊で、プライバシーとかに関わるよな?
「健、行かないでください」
立ち上がりかけた俺の腕を先輩が捕まえる。
特に表情を感じさせない先輩の顔だが、何となく訴えかけてくるものがあった。
「・・・いいんですか? こういうのって、普通知られたくないものじゃないですか?」
「知られたくなければ、そもそもここにお連れしません。むしろ反対です。知っておいて欲しいから、健に来て頂いたのです」
助けを求めて目の前の先生に視線をむけると、俺と先輩のやりとりを穏やかな表情で眺めていた。
「女性にここまで言わせるようでは、男としてまだまだですな。もっと萌お嬢さんの心を理解できねば、恋人としてのつり合いがとれませんぞ?」
「おっしゃる通りなので・・・耳が痛いです」
先輩のことをよく知っている先生に言われては、怒りの気持ちが沸いてくることはなかった。これが良く知りもしない奴だったら怒りしか沸いてこないが・・・・人間ってのは変な生き物だとつくづく思う。
俺が座りなおすと、先輩は安心したような感じで手を離す。そこからようやっと診察は始まった。
「藤塚先生お疲れ様でした。お茶を淹れさせて頂きますので、少しお待ちください。健もここで待っていてくださいね」
30分くらいの診察が終わり、先輩が服を整えて診察室から出ていく。
「昔から診察が終わると、お嬢さんはこうしてお茶を淹れてきてくださる。変わらず優しい御方だ。そう思うじゃろ?」
「・・・はい」
「これくらいのことで赤くなっていては、医者にはなれんぞ?」
「・・・医者になるつもりはないので大丈夫です。というよりも、流石に肌を見せるのはやり過ぎだと思うのですが・・・・」
「そこは萌お嬢さんの気持ちの問題じゃろう。お主には見せても良いと思ったからこそ、この診察に連れてきたわけじゃろうし・・・・まあ、腹部や背中だけとはいえ、思春期まっただ中の少年には刺激は強いのかのう? 最近では性の低年齢化と言われておるが、お主はどうやら硬く生きてきたようじゃな」
その言葉にからかう意味はなく、むしろ素直に関心していると言ったような感じだ。




