第11話 ~変わる日常~ 4
とんでもない爆弾発言をされてしまった。
「・・・・」
頭が真っ白になる。
確かに俺は萌先輩が好きだから付き合えないと言ったが、それも当日に噂として流すのかよ?! ふざけんなっ! 俺のプライバシーはどこに行ったっ?!
勘が鋭いから気づかれているだろうと思っていても、本人に直接聞かれてしまえば慌ててしまう。
「・・・違ったのですか?」
萌先輩が確認をするように聞いてくる。それがある意味、死刑宣告のように聞こえるのは気のせいではないだろう。だが俺は、この人だけには嘘をつくのは嫌だ。
だから————
「・・・違わないです。俺が好きなのは萌先輩です」
嘘もつかず、ごまかすこともせず、向けられる瞳から顔も逸らさず、ただ正直にそういうだけだった。
「そう・・・ですか・・・・・」
俺の言葉を聞いても特に萌先輩が動揺したそぶりもなく、いたって普通のままだった。
やっぱりこれって、先輩は初めから気づいていたってやつだよな?
「・・・・付き合いますか?」
今、先輩がなんて言ったのか理解できなかった。
聞こえているのに、頭がそれを把握してくれない。
「・・・・ええっと、それはつまり・・・・・?」
「私も健のことは好きです。だから付き合ってみませんか? その方がこれからの行動もしやすいですし、貴方に告白した女子も諦めざるを得なくなるでしょう?」
「あ・・・そういうことですか・・・・なるほど」
「・・・そんなに落胆しないでください。貴方を好きなのは本当ですよ?」
「でもそれって、いわゆる『弟』とかに対するものですよね?」
「・・・どうでしょう? そこはよく分からないです」
先輩にしては歯切れの悪い言い方だった。
「吊り橋効果は否定できませんが、それでも私は健を好ましく思っていますので・・・・どっちかとか明確には分からないですね。ただ、健との時間を多く過ごしたい。その想いに嘘はないです」
飾りも何もない素のままだからこそ、心にも素直に入ってくる。けれど、いいのだろうか? 俺のような奴が、萌先輩に釣り合うとはとても思えない。恐らく、この関係も俺が一方的に甘えるだけになるんじゃないのだろうか?
そんなことを考えてしまうと、萌先輩がそっと俺の頭を撫でてくる。それはとても慈愛に満ちた温もりだった。
甘えることを許してくれている。甘えてもいいと、その行為がそう語っていた。
「何度も言っていますが、健。私は貴方のことが心配です。だからそんな貴方を近くで支えたいんです。『恋人』という立場であれば、普段の世界で貴方の側にいても・・・おかしくはないでしょう?」
「・・・俺は先輩に何もできないかもしれませんよ?」
「何もないなんてありません。貴方は純粋に私のことを想ってくれているでしょう? あの夜の世界で傷だらけになりながら・・・・・何度も私を守ってくれる。自己の身を顧みないほど想うというのは、誰にだってできることではありません。そんな人に好意を持たない訳がないでしょう?」
「・・・大切な人を守るのに、自分なんて関係ないですよ」
「そうですね。それは私も同じですよ。それにですね。打算的な言い方をすれば、貴方が倒れれば私も同じなんですよ? いわゆる一蓮托生というやつです。だったら、なにができるというよりも、常に側で支え合う。それが生き残るのに確実だと思うんですよ。ただ、こういうと情緒も何もないので嫌なのですが・・・・健が納得できないようでしたら、こういう風にでも考えてください」
「・・・すみません。先輩にそこまで言わせてしまう辺り、自分はまだまだみたいですね」
「構いません。年の功というやつですよ。それに、健はこれから素敵な男性になりますよ」
「ありがとうございます・・・・いつか必ず、本物の恋人になれるようになります」
「そうですか。では今は仮の恋人ということにしておきましょう」
手がひっこめられ、先輩がどこか安心したような顔で俺を見ていた。それはどういったことに対しての安心なのかは分からなかった。
少なくとも、俺と仮の恋人になれた安心とは違うということは分かる。
そんな普通の感情で、先輩がこんな顔をするわけはないからだ。
恐らくこの感じだと、俺の精神的な負担を減らすことができた・・・・つまり『これで告白された女子のことを負担に思わず、健を過ごさせることができてよかった』といった具合だろう。
我ながら自分の都合のいいことが起きると、どうしてもそうじゃないという考え方をしてしまう。けれど、今回のこれはそういうことだろう。
あまりにも俺にとって都合が良すぎる。
「それでは仮とはいえ恋人同士になりましたし、これからの私の予定に付き合って頂けますか? 健には色々と知っておいて頂きたいことがありますので」
とりあえず先輩と長く一緒にいられるようになったことが嬉しいので、そこは素直に喜ぶ。
「はいっ!」
喜ぶあまり、子供の様に大声で返事をしてしまった。
そんな俺をどことなく愛おしそうに見ながら、もはや恒例になりつつある人指し指を立てた注意をしてくる。
昨日より早めに図書室を出る。だからまだ校内には学生がいて、その中に彼女もいた。
「あ、健君」
俺に気付いた北条さんが近づいてくる。
多分知っていて待っていたんだろう。偶然というにはクラスの場所から考えておかしい。
わざわざ遠回りに帰る奴がどこにいるっていうんだ。




