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平成之半妖物語  作者: アワイン
2-4章 向日葵少女の狐の嫁入り
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1 忘れた向日葵少女

 奈央は近くの病院に入院していた。

 娘が目覚めたという一報を聞いて、彼女の母親と父親が駆けつける。二人は心底心配していた。五日間も行方不明だったのだ。

 心配するのは当然だ。行方不明の期間を聞いて、彼女は目を丸くしていた。五日間も何をしていたのか、彼女は覚えてない。思い出そうにも思い出せない。奈央は五日間以上の長い時間過ごしたような気がした。

 両親の話によると、奈央は浅間神社の近くの山に倒れていたようだ。奈央を誘拐した犯人は追跡中らしく、自身がいつ誘拐されてどこにいたのかもわからない。

 彼女は明日退院はするが、医師から数日は家で体を休め、その間は登校はしないように言われた。軽度の過労と精神的疲労の可能性を指摘されて、辛ければ精神科系の受診を進められる。医師の言葉を聞いて親は納得し、学校と連絡を取って休む旨を伝えていた。学校側は了承。奈央は休むことの申し訳無さを感じていた。


 奈央が入院している場所は、県内の警察本部の近くにある病院だ。


 赤い十字架の目立つ病院。何故入院していたのか、何をしていたのか。疑問と胸にある苦しみを抱きながら向日葵の少女は溜息をついていた。

 その落ち込んでいる様子を見ている者が三人。直文と依乃と茂吉である。バレないようにこっそりと入り口から覗き終えて病室から離れた。

 依乃は肩を落とす。


「……見舞いに来たのは良いのですが、奈央ちゃん。やっぱり、元気ないですね」


 学校帰りで見舞いに依乃は来ていた。直文と茂吉は仕事の関係でここにいる。

 八一との記憶は無くとも、気持ちが消えたわけではない。奈央は協力者であり、依乃のように保護名目の仲間で組織に入ってない。依乃は組織の一員で組織の事を話してはならないと言われている。打ち明けるなと言われ、依乃は心苦しいものがあった。八一との死に別れを奈央と共に経験してしまった為、奈央に残った気持ちがわかる。茂吉は複雑そうに話す。


「是非も無しと言いたいけど、八一の件については俺からは何も言えないな。当事者にしか、その気持ちはわからないもの」


 話したとき、彼らの背後から声が聞こえた。


「それはそうだろう。あの八一が守った少女の悲しみを完全に理解はできないさ。あの気取った捻くれ屋が一人の少女を守ったのは驚きだけどな」


 花火の少女は驚いて振り返り、彼らは親しげに雰囲気を和らげた。

 声をかけたのは、奈央を診察してくれた医師だ。

 直文と茂吉よりも身長が高い男性。意外と眼鏡が似合い、ガタイがいい。二人に負けないぐらいのかっこいい顔立ちだ。一見スポーツ選手に間違えられそうだ。白衣や聴診器を身に着け、カルテを持ち、清潔感のある格好をしなければ医師とは気づかない。灰色に近い黒髪は少し長いが、落ちないように結われている。

 茂吉はニッコリと手を上げた。


「やっほ、佐久山たくぼっくん。田中ちゃんを病院に入れてくれてありがとー☆」


 手を振られた相手は不機嫌そうである。笑顔が似合いそうな顔には、苛立ちが募っていた。佐久山と呼ばれた彼は怒り始める。


「やっほーじゃない。急に電話を掛けてきて、救急やら、診察やら病室の空きに入れろやら……誤魔化し根回し大変だったんだぞ。つうか、事情も知らせずに唐突に押しかけてくんな! 医師の仕事を舐めてるのか、このクソたぬき!」

「メンゴメンゴ♡ でも、本当に緊急だったんだ。たくぼっくんは内科だけじゃなくて医療関係なら全部網羅してるでしょ。会いたい人が怪我や病気になった場合、何でも治療できるようにさ。オールマイティなのが助かったよ」

「それは表の話じゃない。向こう側での場合だ。いいか、俺がここにいるからって次からは押し入りするな。ここに通う患者を優先しろ。向こう案件で来るんだったら、本部運営の医院で見てやる。いいな?」


茂吉は「はーい」と返事をする。

 話を聞くと、茂吉が仲間に連絡をして頼み込んだようだ。断ろうとしたらしいが、押し切られて渋々と奈央の病室を用意して診察をしてくれた。私情で受け入れてくれたことを感謝するしかない。医師の男性は依乃に顔を向けた。

 彼女と彼は初対面だ。


「さて、初めまして。有里依乃さん。話は聞いている。俺は佐久山啄木さくやまたくぼく。見ての通り医者だ。ここの病院では派遣として来ている。直文と茂吉とは同じ存在だが、組織の医療の一端を担っているんだ。よろしくな」


 屈託のない笑顔で自己紹介されて、依乃の肩の力が抜けた。

 直文と茂吉とは違う種類のイケメンであり、奈央なら食いつきそうだと考える。緊張していた体も強張ることなく、依乃も自己紹介をした。


「有里依乃です。よろしくお願いします」

「話には聞いているよ。よろしく」


 自己紹介をし終えて、啄木は真剣に三人を見た。


「見舞いのところ、悪い。診察以外にも色々とわかったことがあったんだ。本当は説明をしたいが、俺自身もこの後仕事がある。代わりに、まとめた書類を渡すから見てくれ。すまん」


 書類を渡されて、直文は首を横に振った。


「いいよ。むしろ、こちらこそすまない。啄木」


 啄木は手を上げて、早歩きで廊下の角へと消えていく。直文に渡された書類を茂吉と依乃は覗き込んだ。

 そこには奈央の神通力症状の内容が書かれていた。他所から見ると妄想で書いた書類だが、専門である直文と茂吉からすると眉間みけんしわを寄せる案件だ。

 依乃は神通力については少ししか知らず、人の理解を超えた存在が使う力ぐらいしか認識していない。依乃が加わったことも配慮して、書類には神通力についての説明もあった。


 神通力とは人智を超えた力。また仏教では仏が持っている力とも言える。

 仏教での神通力は六つあり、六神通(ろくじんつう)と呼ばれる。

 一つは、どんな場所も超えられると言われる神足通(じんそくつう)

 一つは、どんな声も聴けてしまう天耳通(てんにつう)

 一つは、人の心を読み見ることができる他心通たしんつう

 一つは、自身の前世を知ることができる宿命通(しゅくめいつう)

 一つは、どんなものも見えて、他者の輪廻転生を知ることができる天眼通(てんげんつう)

 一つは、生まれ変われなくなることを知る力。即ち涅槃ねはんを知る漏尽通(ろじんつう)


 簡単に説明がなされており、奈央には軽度の神足通(じんそくつう)天耳通(てんにつう)天眼通(てんがげんつう)。三つの反応があるのだと書かれている。理由は狐の神使の狐が憑かれているのが要因だと思われるとのこと。

 依乃は思い出した。麹葉が奈央を追いかけていったのを最後に姿を見ていない。考えを口に出してみた。


「もしかして、麹葉さんが奈央ちゃんに憑いた……?」

「……麹葉? 確かに見ていなかったな。早々に退散したのかと思ったけど、仲良かった彼女が何故田中ちゃんにくんだ……?」


 直文は疑問に思ったらしい。奈央と麹葉のやり取りを知らない二人はよくわからなかったようだ。

 茂吉は詳細までは知らない。ポケットからスマホを出して彼らに声をかけた。


「一応、この報告は上司にしておくよ。ちょーっと、電波の通じる場所まで行く──」


 茂吉のスマホから通知の音が鳴る。

 タイミング良く鳴る通知に三人は驚き、茂吉は画面を見る。炎と十一と書かれたアイコンと共にメッセージがありますと、通知欄が乗る。

 茂吉はげんなりとした顔になり、画面のロックを外した。アプリにメッセージが届いたらしく、茂吉はアプリを開く。内容を見て、彼はスマホのカバーにヒビを入れた。

 依乃はビクッと震えて、直文は何かを察する。


「……この件に関しては見守り。また仮面の男を追う任務は俺で、見守り任務は直文だって……」


 茂吉から教えられて、直文は戸惑いを見せた。


「はっ? 何でそんな中途半端な。いや、あの人のことだから考えはあるんだろうが……しかも何で任務をアプリで送るんだ? 重要書類は式神で送るようにやっているはず」


 深く考えようとする直文に茂吉は自身のスマホ画面を見せた。

 アイコンのメッセージには任務が書かれているが、任務の文章量は少ない。その大半が。


【しもしも~、なおっち、もっきー。お茶が切れちゃったから静岡でご用達してるお茶買ってきてぇ( ;∀;)

あとねあとね、地元の特産品とか買ってくれると嬉しいな桜えびかき揚げとか食べたいんだよな桜えび配送してくれると嬉しいな桜えびお願いー桜えび。何を買ってくるかもうわかるよな桜えび(☞゜∀゜)☞頼んだぞ桜えび】


 と、情報の渋滞と完璧に煽られているメッセージが送られてきる。依乃は呆然とし、直文は表情を絶対零度に変える。茂吉も画面を見たとき、スタンプが送られた。GOODと書かれ、親指を立てたスタンプである。


「「GOODじゃないわ! クソ上司!」」


 茂吉と直文は怒声を上げると、看護師から静かにと注意を受けた。



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