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平成之半妖物語  作者: アワイン
2-3章 向日葵少女の平成への帰還
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4 誘き寄せられた狐

 麹葉の姿が見えなくなる。八一は二人の前に立ち、言霊を呟く。聞こえなかったが、二人は光に包まれた。八一は少し離れて笑みを作る。


「こんな術で大丈夫だろう。これで夜久無に気付かれない。あいつは三流だからな」

「……あの、八一さん。夜久無は人の魂を食って強くなっているのに、なんで三流なのですか? 貴方が見下しているから……ではありませんよね?」


 奈央は質問をする。

 狐の尾の数は強さの象徴。夜久無は人の魂を食って無理矢理六本にした。その力は間違いなく強いのだろうが、ことごとく八一にやられている。八一の方が戦闘技術は上だろうが、力は間違いなく尾を見て夜久無の方が強い。向日葵の少女の質問に八一はさもありなんと言うように答えた。


「単純だ。あいつの方が私と麹葉さんに比べて、経験が足りないから三流なんだよ」


 彼が答えたのは人にも当てはまるような答えだ。納得できる普通な答えに奈央はぽかんとした。


「け、経験……?」

「そう、まずあいつが時駆け狐と大明神の使い魔の見分けがつかない時点で三流だ。

瑠樹と那岐は野狐だろうから仕方ないだろうけど、気狐ぐらいなら普通は気付く。狐の位は自然現象に近付いていく奴ほど上がっていく。あの狐は生まれたときから力が強くて気狐の位を貰ったんだろうが……」


 言葉を途切れ、八一はシニカルに笑う。


「あれはちやほやされて育ったんだろう。私とは違うな」


 羨望の声色が響く。激しく雨が降るなか、依乃には聞こえなかった。しかし、奈央には聞こえた。涙は流していないが、心が泣いているように彼女には聞こえた。向日葵の少女は口を開く。


「あんな自己顕示欲の強い狐より、八一さんが素敵です」


 率直に伝え、八一は驚いた。向日葵の花言葉の一つの中で、相応しく彼の顔を見続けはっきりと言う。


「八一さんの方が強く生きています。変態でも意地悪が好きでも、温かくて守ってくれる貴方の方が魅力があります。私は貴方が素敵だと思います。あのくそ狐の境遇がよかろうと、私は八一さんの方が素敵です」


 いきなりストレートな告白とも言える言葉を受けて、八一は呆然とした。彼は瞬きをして、顔を片手で覆って俯かせる。狐の耳が垂れており、尻尾もぐったりと地面に垂れていた。明らかに照れている。


「……参ったなぁ。困った」


 心底困った声に奈央は驚くが、八一は深いため息をついて顔を上げる。照れて笑って見せた。


「大丈夫。嬉しいから困っているんだ。悩まなくていいよ」

「えっ、ええっ?」


 自身の発言に気付いてないらしく、八一と依乃は苦笑する。奈央の肩を優しく叩き、話を続けた。


「つまり、ちやほやされて育ってきたもんだからあの狐は自惚れているんだ。自身の力に過信して、ちゃんとした実戦の経験がない。見抜く目も鍛えてこなかった。麹葉さんは神使で尾が一本とはいえ、一目見て気付いたんだ。あの人はそれなりに修行を積んでいるよ」


 力があってもそれに足る経験がなくては、一流とは言えない。納得の答えを聞いて、奈央は抱く心配を彼にぶつける。


「……では、麹葉さんに化けてばれる可能性は」

「ない」


 断言して、勢いよく八一は山奥に首を動かした。どうしたのかと聞く前に、依乃がしゃがんで胸の上を押さえた。友人の行動にびっくりして、奈央は彼女の顔を覗く。


「はなびちゃん!? どうしたのっ、何処か体調……って顔色悪いよ!?」


 言葉の通り、顔色を悪くした依乃がそこにいた。八一は厄介そうに奥を見つめて、奈央に声をかけた。


「多分、彼女の霊媒体質が災いして邪悪な妖気を感じ取ったのだろう。直文の加護があるのに彼女の霊媒体質は強力とは……。お嬢さんはそこで有里さんを見ていてくれ。私は早速仕事をしてくる」


 奈央が声をかける前に八一は姿を消す。残された依乃と奈央はそこにいるしかない。奈央は調子の悪そうな友人の背中を優しく撫でると、空に黒い影が一瞬だけ通った。通っただけであるはずが奈央は悪寒を覚えた。その黒い影は麹葉の向かった方向に突き進んでいる。

 近付いてきて、やっと奈央はわかった。前よりも夜久無は強くなっている。その力の源がよろしくないものであると。その証拠に依乃が苦しんでいるのだ。





 急斜面のガレ場に麹葉は着いた。奈央に変化しながらも、彼女の表情から険しさは消えていない。普通の人でも辿り着かぬ場所だ。彼女の隣に八一が降り立ち、明るく声をかける。


「ありがとう。麹葉さん」

「……八一樣」


 彼女は悲しそうな顔をする。奈央の姿でいるせいか、八一は言葉をつまらせて目線を横にそらす。気まずそうに頭を掻いて、深く深くため息を吐く。


「……お嬢さんの泣きそうな顔は心に来るなぁ」


 動揺した一言を聞いて、麹葉は悪戯の笑みを作る。


「少しはしてやれましたね」

「……わざとか」

「奈央ちゃんの為です。私は彼女の味方で友人ですので」


 その一言で八一は何も言えなくなる。

 出会いは最悪だが、奈央と麹葉が仲良くなった。奈央が良い子であるから、彼女は気に入って好いている。奈央も麹葉を友人として好いているのだ。女として奈央の幸せを願っている。

 背後に悪寒を感じて麹葉は振り返ると、八一は表情を険しいものにした。勢いよく黒い影が下りてくる。いや、黒い影ではない。黒いもやをまとい、目と口から黒いもやを吐き出している夜久無であった。尾は無理矢理一本増やして七本となっている。その尾も黒ずんでいた。夜久無の姿は妖狐としての誇りを捨てたようなものであった。

 麹葉は夜久無の姿を見つめて、冷や汗をかく。


「そんな、嘘。嘘でしょう……!? 悪霊を食べたの!?

夜久無はどれだけの悪霊の魂を食ったの!? 瑠樹と那岐よりも……ひどい……!」


 麹葉の声に反応して、夜久無が向く。


[……あぁ……ぁあ……ぁ……見つけた。ハナヨメ、孕ます。子は良いタベモノ。孕ます、食べる、孕ましたあとたべる。ボクが強いんだ。はやく一番になる。ゲドウに落ちても良い。力をエテイチバンニナル。ボクより強い存在認めない]


 喋り方も拙い。悪霊を食べたせいか、狂っているようだ。狂っている勢いで、彼は夜久無の目的を把握した。

 奈央に子をはらまして、その半妖を食べようとしている。また子を生ませて食べて、また子を生ませて食べて、奈央が使い物にならなければ食って力を得る。

 夜久無は自分より強い存在を認めたくなく、禁忌を更に犯して力を得た。

 目的を聞き八一は舌打ちをして、冷ややかな目になる。


「本当に私をぶち殺しに来たんだな。よし、ならその殺意に私も並みの殺意で応えなくてはならないな」


 八一は尾と耳、髪の色を白銀へと変えた。光がなくとも白銀は輝き、放たれる力は神気のそのものだ。神気に当てられて奈央に化けた麹葉の変化が解ける。今までが本気でなかったらしい。八一の尾が更に多く見えたが、麹葉が瞬きをすると尾は五本だけであった。

 夜久無は奈央がいなくなったのを見て、周囲を見回す。

 麹葉を見ずに、奈央の姿を探し続けている。本当ではない花嫁を求め続ける姿に麹葉は哀れみを覚えた。だが、ここに長居はよくなく、八一から声がかかる。


「麹葉さん。ここから離れて。貴女の役目はここでお仕舞いだ」

[……っですが……っ……っ! いえ……いえ、わかりました!

すぐに彼女たちと合流します!]


 言葉をつまらせて首を横にふり、彼女は八一の元から走って離れていく。



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