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平成之半妖物語  作者: アワイン
2-3章 向日葵少女の平成への帰還
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3 大谷崩れ近くにて

2011年 平成23年5月。

名無し事件が終えた後。向日葵少女の田中奈央は一人の男子生徒から告白を受けて呆然。理数系が苦手な奈央は高校生活勉強一筋で行く為、告白を断る予定。

翌日の登校時、怪談『時駆け狐』と仮面の男に遭遇。時駆け狐の力により、彼女は過去の葵区へタイムスリップしてしまう。

飛ばされた時代は江戸時代。真夜中の駿府城下。戸惑う最中彼女を助けたのは、怪しげで狐のような情報屋の男性であった。(2章)


 二日後、雨がやまず雨脚も酷くなる。朝食を食べて、八一も服を旅人の物に着替えた。四人と一匹は宿屋を出る。

 府中ふちゅう宿じゅくから大谷崩れまで、未来の地図でも時間はかなりかかる。また馬車や徒歩でしか移動手段がなく、未来に比べて時間がかかる。宿を出たはいいものの、少女達の足ではつくものではない。

 奈央は町中を歩きながら隣にいる八一に問う。


「流石に大谷崩れに辿り着くのは時間がかかるのでは……? しかも、雨の中であそこに行くのは危険ですよ」


 正論だ。旅立つ前に、大谷崩れについて宿屋の主人に聞いた。従業員も口を揃えて危険だと言われ、行くのを止められた記憶は彼女たちには新しい。

 八一は頷いて、微笑みを浮かべる。


「知っている。だからこそ、あの狐を誘き寄せるには絶好な機会なんだよ」


 誘き寄せる作戦は聞いたが、時駆け狐を夜久無から引き離す方法は聞いていない。何故だろうと考えながら歩いていく。

 大雨であるせいか、人気も少ない。安倍川を越えるにも水量が上がり、川留かわどめが出されて川越人足かわごしにんそくと船も出ることができない。川札を買った人は落ち込みを見せて雨を恨んだり、川越人足かわごしにんそくの従業員は客の対応に追われている。

 川を渡れない人々は、駿府すんぷの町で暇を持てあます。周囲の町並みを見ていた依乃は楽しそうに奈央に話しかける。


「ねぇ、奈央ちゃん。安倍川餅ってこの時代にあるんだね」

「あるよー。旅人は皆この駿府すんぷに来ると安倍川餅を食べるんだ。私も食べたけど、未来の安倍川餅と少し違ったけど美味しかったよ!」


 この時代の安倍川餅はつきたての餅にきな粉をまぶして白砂糖をかけたもの。徳川家康に名付けられたと言われる。また、奈央達の時代ではあんこときな粉もちを盛ったものを安倍川餅と称している。

 依乃は「いいなぁ」と羨ましがった。時間があれば、奈央は友人に食べさせたかった。

 八一はこの天気のうちに事を済ませたいらしい。急いで歩き出して行く一行。

 大分歩いて安倍川が見えてくる。川の流れは激しく、水の色も濁っていた。河原が見えなくなるほどだ。大雨で川の量が上がっており、川を越えることすら難しい。大谷崩れに向かうには川を越えなくてはならない。


「……八一さん。やっぱり貴方の言う作戦は実現不可能なのでは……」


 奈央の指摘に、八一は瞬きをしてにっこりと。


「私は準備を怠ったりしないよ。ほら、転」


 言葉と共に八一が指を鳴らす。彼女たちが瞬きをしたとき、周囲に木々と山肌が見えた。石が多くあり、石の合間から山の草花が生えている。遠くには土砂の後が見え、周囲に木々が生い茂り、空高くは白い雲で覆われていた。


「……もしかして、ここは山!?」


 依乃は目を丸くして驚いている。奥を見ると、白い霧のようなものが風景を隠していた。強い雨が奈央の体を濡らし、風が吹く。


「さむっ!?」


 雨を凌ごうと笠を深くかぶろうとした。八一が彼女の肩を抱いて、引き寄せて何かを呟く。すると、濡れた着物が乾き始めた。奈央の全身から水が弾かれていく。コーティングされたように水を弾いていく。依乃も同じように術を掛けられて、寒さで表情を歪ませていなかった。麹葉にも同じ術が掛けられて、直文と八一も自身に掛けた。

 直文は何かを呟き、手から小さな黄金の炎を出す。二人の周りに漂わせると、程よい暖かさが少女たちを包む。黄金の炎は雨の中でも消えない。不思議な現象を彼女たちに目の当たりにしていた。

 直文が二人から笠を受け取り、手品のようにその手から消した。八一は少女達に顔を向ける。


「一応、雨避けの術をかけて服も乾かしておいた。しばらくは雨に濡れなくて済むが、直文が体を冷やさないように暖房の炎をつけてくれたから大丈夫だ。と言うわけで、大谷崩れ近くに到着。ここに目印はつけておいたから転移できたのです」


 見れば察しはつくだろう。依乃は驚いていたが、奈央はこの移動の術に覚えがある。雨避けと転移の術を見て、羨ましそうに呟く。


「便利だなぁ……私も使えたらなぁ」


 奈央の言葉に彼は苦笑した。


「偵察以外はあまり使わない術だけど、便利なのは考えようだからな? あと、便利だからと言って半妖になってみたいとか思うなよ」


 思っていた内容を見透かされて、向日葵の少女は苦笑した。

 八一は気を取り直して、全員に指示をする。


「さて、奈央嬢さんと有里さんには未来の服に着替えてもらおうか。お嬢さん達はここ一応安全な場所だからここにいて。直文は私が合図を送るまで、所定の位置で待機。麹葉さんは私の言う通りに動いて」


 少女達は返事をし、直文と麹葉は黙って頷く。直文から渡された着替えを受け取り、男二人は後ろを向く。

 麹葉が声を上げた。


[私が監視していますが、振り向いたら狐火ぶつけますからね。特に八一様]

「名指しきついな」

[理由は自分の胸に手を当てて聞いてください]


 八一は微笑みを浮かべるが、直文は察しがついたのかジト目で見つめる。麹葉は冗談じゃないと息を吐いた。彼は今まで奈央を見守っていたが、着替えや入浴、睡眠の時間も見守っていたのだ。直文はちゃんとした見守りであるが、八一は覗きにも等しい。


「いづ!?」


 ごつんと痛そうな音と声が響く。二人が顔を向ける。背中を向けたまま、八一が頭を押さえて直文が拳を構えていた。


「振り向こうとするんじゃない。あと、八一。変化して千里眼を使おうとするな。力がもったいないだろ」

「ええー、男ならやるときは華々しく散らないとだろ? それに、直文も気になるくせに♪」

「ここで狐の打ち上げ花火をあげてやろうか? 言っておくが、俺は教育者としてお前の行動を見逃せないだけだからな」

「じょーだんだよ。冗談。それに、私の華々しい打ち上げ花火をあげるのはまだ早いさ」


 軽く返して八一は笑うものの、直文は顔が笑っていない。苦しそうな顔をして、彼を見つめていた。前から八一に対して、直文と麹葉があまり良い表情をしていなかった。奈央は気になりながら着替え終える。依乃も着替え終えていた。

 彼女達はこの時代に来た時の服だ。懐かしの制服と通学バッグ。通学のバッグの中身を見ると、この時代に来たときのままである。馴染み深いものに奈央は涙が出そうになった。着替えの着物を持って、依乃は二人に声をかける。


「終わりました」


 振り返り、直文は安心したように笑う。


「ああ、依乃。……うん、やっぱりいつもの方が似合うね」

「あ、ありがとうございます……」


 顔を赤くする彼女を彼は優しく見つめていた。イチャイチャした雰囲気に八一が呆然として奈央に聞く。


「……なぁ、お嬢さん。二人って付き合ってるの?」

「いえ、実はまったく……」


 首を横に振って否定すると、八一は「嘘だろ」と言って、いい雰囲気の二人を見つめる。照れている花火の少女と、優しく見つめて頬を赤くしている麒麟の半妖を見て、八一は焦れったそうだ。


「……私、ちょっとやらしい雰囲気にしてこようか?」

「駄目! と、ともかく、はなびちゃん、久田さん。この後、どうするのですか!?」


 奈央が声をあげると二人は我に返り、直文は変化をした。人の耳を無くし、瞳を黄金の色に変える。頭には角と耳が生えていた。服装も変わっており、直文は笑みを消して声をかける。


「俺は指示通り動く。……それでいいんだよな? 八一」

「ああ、よろしく頼むよ」


 穏やかに声をかけたあと、八一は微笑みを消した。


「絶対に、彼女を帰してやってくれ」


 真剣な声色に直文はしばらく見つめて頷く。彼はしゃがんで足に力を込め、勢いよく空高く翔んでいく。奈央は驚き、依乃は声をあげた。

 

「直文さん! 無理しないでくださいね……!」


 その声に応えるように、歌っているような鳴き声が響く。依乃の力強く空を見つめる姿に、奈央はああなりたいなと考えていた。八一と信頼しあえるような関係でありたいと。


「奈央嬢さん」


 声をかけられて顔を向けると、変化した八一がそこにいた。


「着物、くれるかな?」

「は、はい」


 奈央はこの時代に着ていた着物を八一に渡す。彼は麹葉に奈央の着ていた女物の着物を渡す。彼女はそれを前足で受け取り、ぼふんと煙に包まれる。

 煙が晴れると奈央の姿に化けた麹葉がいた。奈央は化けた麹葉と対面して、目を丸くして褒める。


「凄いです! 麹葉さん、そのまんま私です!」

「ありがとう。奈央ちゃん」


 優雅に微笑む彼女に、依乃は麹葉に尋ねる。


「麹葉さん。何故、奈央ちゃんの着物が必要なのですか?」

「気配を誤魔化すためよ。その人本人の物であれば、効力も大きいの。それに私たち妖怪の狐は、普通の狐以上の能力があるから、嗅覚を誤魔化すためでもあるの」


 納得できる理由を聞いていると、八一から声がかかる。


「麹葉さん。そろそろ、所定の位置についてくれ」

「……わかりました。じゃあまたあとでね、奈央ちゃん、依乃ちゃん」


 麹葉は奈央の姿で山の奥を駆けていった。



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