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平成之半妖物語  作者: アワイン
2-3章 向日葵少女の平成への帰還
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2 雨中の合流

 四人は座って話し合いに入る。奈央が世話になった呉服屋を離れる話は二人にはしてあった。八一の手早い根回しに、奈央は拍手をしたくなる。

 話し合いの目的は、昨晩語った目標を果たすためだ。最初の議題は夜久無を何処に誘き寄せるか。八一は駿府城下の地図を出して、広げて見せた。


「夜久無を何処で誘き寄せるのか。街中は避けた方が利口だ」


 同意して直文は頷く。


「ああ、出来るだけ歴史を変えたくない。最適なのは山奥だろう。駿河(するが)、いや、未来でも静岡の面積の大半は山だ。ならば、誘き寄せる地は人が少ない山奥が良い」


 町に被害を出すことは歴史にも影響がある。郷土史だから安全なのではない。些細な変化が大きな変化に繋がるのだ。山ならばある程度の誤魔化しはつく。直文の提案に八一は賛成して微笑み、地図から離れた山を指す。


「そうだな。場所は安倍川の上流……危険だが大谷崩(おおやくずれ)なんてどうだ?」

「「大谷崩……!?」」


 奈央と依乃は声を上げて驚愕し、麹葉と直文は沈黙したまま顔を強張らせる。八一の誘い込む場所の提案に、奈央は抗議の声をあげた。


「反対、反対です! 彼処は私のいた時代でも危険な場所です。なんでそんな場所に指定するのですかっ!?」


 反対意見に八一は目を丸くして瞬きをした。


「大谷崩れをお嬢さんも知ってたのか」

「知ってます! はなびちゃんも知ってます。ねっ!」


 依乃に顔を向けると、彼女は頷いた。

 日本三大崩れの一つも言われる大谷崩れ。安倍川の水源となる大谷嶺と言う山の一部が山体崩壊が起きた場所。未来の地では四季折々の山の変化が分かりやすく見せるため、観光名所となっている。しかし、未来や過去、現在でも危険な場所に変わりはない。八一がいる時代は大谷崩れが起きて数十年しかたってない。未来のように安全性がない。そもそも山体崩壊が起きた場所で戦うこと事態が危険なのだ。


[……私も反対です。考え直してはいかがでしょう]


 芳しくない声色で麹葉は意見を言うが、八一は首を横に振る。


「断る。私はこれが最後の機会だと思うから、この場所を中心に作戦をたてていく」


 不安そうになる少女たちに、八一は力強く笑う。


「大丈夫だ。お嬢さん達の安全は直文に託してある。な、直文」

「……そうだな」


 間をおいて直文は返事をした。この場所にこだわる理由はわからず、八一は大谷崩れの場所を指差して話を続ける。


「天候を利用して夜久無を追い詰める予定だ」

「八一さん。なら、尚更っ……!」


 江戸時代の大谷崩れで雨の中戦うのと言うのだ。奈央が抗議をあげるが、八一から威圧感の宿った瞳で見られ口ごもる。

 奈央が黙ると、八一は話を続けた。


「問題は、あの夜久無をどうおびき寄せるか。どう時駆け狐を出して引き離すか」


 二回も八一が痛手を負わせている以上、警戒心が増していると考えていい。下手な誘き寄せはしない方がましだ。依乃が挙手をして質問をする。


「あの、なんで黄泉比良坂(よもつひらさか)で戦うのは駄目なのでしょうか? 私の時は黄泉比良坂(よもつひらさか)で思いっきり戦ったのですが……」


 妖怪の住まうあの世界なら大丈夫だろうと考えたのだろう。八一が首を横に振った。理由を直文が教える。


「依乃。彼処はあの世とこの世の境界線の世界で、妖怪が住む世界でもある。相手(妖怪)側にも迷惑になるし、境界線の世界でもあるから、基本的にあそこで戦うのは避けたいんだ」


 直文は依乃を守るために力を使ったが、あの後茂吉が境界線の乱れを整えてくれた。境界線の世界だけでもなく、時駆け狐にどんな影響を与えるかどうかも不明である。今回ばかりは黄泉比良坂(よもつひらさか)での戦いはできないようだ。麹葉が前足をあげた。


[ならば、私が夜久無を誘き寄せて見せましょう]


 今まで黙っていた麹葉が意見を述べた。「ほぉ」と八一が声をだした。

 麹葉も化けることは可能だ。化けて夜久無を誘き寄せるだろう。自らが餌になる提案に奈央は心配になる。


「麹葉さん。大丈夫なのですか……? 相手が元花婿とはいえ、麹葉さんはあのくそぎつねの相手をしなくても」


 向日葵の少女の中で、夜久無の扱いが底辺となっている。元花婿の扱いに麹葉は優雅に笑い出した。


[ふふっ、大丈夫よ。奈央ちゃん。もう素性を詳しく知った以上もういいもの。それに、たぶん上手くいくわ]


 自信満々の発言に奈央は不安になる。八一が大丈夫だと声をかける。


「奈央嬢さん。安心しろ、夜久無は三流だからな。麹葉さんに及ばない」

「……?」


 意味がわからず、頭にはてなを浮かべて奈央は首を横に傾げた。

 誘き寄せる方法は麹葉が奈央に変化して、大谷崩れにと向かう無いようなった。だが、この時代の普通の女の子は、大谷崩れと言う場所には滅多に向かない。怪しまれぬように、作戦はもう少し練ると八一は述べた。

 次に時駆け狐を引き剥がす方法を話し合う。しかし、誘き寄せる方法はともかく引き剥がす方法は難航していた。

 組織としては夜久無を生かしてはおけない。だが、夜久無を殺せば一部となっている狐も消える可能性がある。狐を利用しなくては未来には帰れない。

 別に帰る方法はあるものの、手順を踏まなくてはいけないらしく容易には帰れない。結論として、生かさず殺さず夜久無を倒さなくてはならないのだ。


一旦頭を冷やすべく、各自部屋で解散となる。


 直文は八一の部屋で話し合うらしく、奈央は、依乃と麹葉と共に部屋にいた。依乃は友人が無事な姿に再び息をつく。


「──本当に良かったよ。奈央ちゃんが元気で。しかも、狐の神使さんとお友達になったなんて凄いよ」


 依乃の笑う姿を見て、奈央はいつものように明るく笑う。


「ふふっ、麹葉さんはね。この時代に来て初めての友達なんだよ。はなびちゃん!」

[な、奈央ちゃん。恥ずかしい]


 前足で顔を隠す白い狐の姿に、依乃と奈央は萌えていた。野生の狐でないため、感染症の危険はなく、奈央は麹葉を抱えてにこにことする。


「でね、八一さんと麹葉さんで約束したの。私が二人を忘れていても会いに来るようにって。それで、八一さんからアイスを奢ってもらうんだ!」


 明るく笑う奈央を視界に入れ、依乃は恐る恐る聞く。


「麹葉さんも……協力者の規則を知っているんだよね。ねぇ、奈央ちゃん。本当は忘れたくないんじゃないの……?」


 本心を見破られて、奈央は瞳を潤ませて苦笑した。


「うん、忘れたくないよ。でも、私が覚えていても辛いだけだもの。八一さんが今私を好きでも、未来は同じ気持ちという保証はない。なら、せめてここでの出来事を思い出にして、また私に会ってほしいな」


 友人の思いを聞いて依乃はやりきれない思いが溢れ、顔を下に向く。


「……ごめんね。私ばかり良い思いしちゃって」

「はなびちゃんは悪くないし、直文さんがそばにいるのは仕方がないよっ! 本当に!」


 彼女の謝罪を聞いて慌てて断言する。

 依乃は名無しの期間が長く、現世との境が曖昧となる期間が長かった。そのせいか、霊力を得た霊媒体質になってしまった。霊も妖怪も素で見えるらしく、奈央は友人に同情をしたくなった。ホラーは好きだが、実体験を奈央はしたいわけではない。

 向日葵少女は口を動かし続ける。


「それに、ほら! 私、高校三年間は恋愛御法度のつもりだし。本当にマジで理系関係と英語がゲキヤバで洒落にならないし。私たちの高校は環境はいいけど、勉強できないと置いていかれるし、社会と国語が得意だけでそれ以外は……あれ? 私がいなくなった期間、授業はどうなってるの? 絶対に置いてかれてるよね!? 補習三昧……そう考えるとどうしよう。未来に帰りたくなくななあわわわわっ……!」

「な、奈央ちゃん。気を確かに!」


 後半から死んだ魚の目をし、奈央は自身の未来に残した問題に気付いて壊れ始めた。現実逃避をして壊れまくる友人を、今度は依乃が慰める。麹葉は奈央を見て言いたげに口を開くものの、口を閉じて二人のやり取りを見つめていた。





 ──外の雨足が強くなる度、明るい笑い声が響く。激しくなる雨をつまらなさそうに八一が見つめる。彼は仲間の顔を見ようと顔を動かす。隣から聞こえる二人の声に、直文は優しくふすまの奥を見つめていた。

 初めて見る彼の顔に八一は目を丸くする。


「……お前も男の顔をするんだな。直文」

「えっ、顔に出てたか?」


 手で顔を押さえる彼に頷く。直文は頬を赤く染めて、指で掻いて照れていた。

 八一は彼の過去を知っており、この時代の彼をよく知っている。まだ江戸時代の彼は表情に固さがあり、笑うと少し表情に固さがある。ここに来てから多様な表情を見る。

 八一は恋をしてよかったのか気になっていた。視線に気付いて、直文が声をかける。


「どうした?」


 声をかけられて八一は気になることをぶつける。


「直文は恋をしてよかったか。相手を好きになるとそんなに変わるものなのか?」


 聞かれて直文は戸惑いを見せる。いい反応と彼は口角を少しだけ上げた。質問に直文は真剣に考えて答えた。


「……そうだね。実体験をした俺からすると、してよかった。好きになって変われたかどうかはわからない。けど、恋をして彼女に会えてよかったと思う。こうして日々を幸せだと思えるから」


 木漏れ日のなかにある光のように欣幸きんこうとした顔だ。

 恋の仕方は違うものの、彼の顔を見て八一は自分の気持ちに納得した。適当に返事をして、八一は外を見る。雨が降る空を目見続けた。雲の流れ、雨の強さ。落ちる速度。雨の音。天から落ちる多くの滴を見つめて八一は呟く。


「これは三日四日雨続き。……僥倖ぎょうこうだな」


 仲間の言葉に、直文は渋い顔をした。


「俺はそうは思わない」

「はっはっ、まあ、私が話した通りにお前は事を進めてくれ」


 けらけらと笑って話す八一は直文は無表情で拳を握る。


「会ったら、まず一発殴らせろ」

「わかったわかった」


 迫力のある無表情に八一は苦笑した。




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