表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平成之半妖物語  作者: アワイン
2-2章 向日葵少女のホームシック
81/285

6 おやすみ瑠樹と那岐

 彼の手にはクナイにも似た武器が両手に二本ほど治まっていた。刃の形状がやなぎの葉に似ており、刃は他の短刀よりも薄い。先端が突き刺さりやすいように非常に鋭い武器である。柳葉飛刀(りゅうようひとう)と言う武器だ。

 彼は瑠樹と那岐に向けて投げ飛ばされた。二匹は避けて那岐が地面を蹴り、棍棒に黒い炎を宿す。瑠樹が数個の狐火を出し、八一が放った。彼は同じ柳葉飛刀(りゅうようひとう)を出して那岐に放つ。放たれた狐火を見て、八一は口を動かす。


雨穂(さめほ)


 言霊が放たれると共に、ぱちんと指が鳴らされる。狐火に襲う前、彼の目の前に大きな水の柱あがり狐火は消える。那岐は柳葉飛刀(りゅうようひとう)を避けていた。水柱が消えると、八一の姿は何処にもない。

 瑠樹は戸惑うと。


「っ!?」

「那岐っ!?」


 仲間の悲鳴が聞こえ、瑠樹が首を向ける。八一が那岐の目の前で深々と胸に刃物を指していた。唾の無い短刀の合口あいくちが深々と那岐の胸に刺されており、八一は口角を吊り上げた。


御饌津(みけつ)ほむら!」


 言葉と共に那岐の全身が発火する。瑠樹は八一を切り裂こうと爪を鋭くして、後ろから襲いかかる。合口あいくちを抜いて八一は微笑み、その切り裂く攻撃を受け入れた。


「っ八一さん!?」

「どうした。お嬢さん」


 奈央は声をあげ、隣から八一の声が聞こえた。首を横に向けると無傷の八一がいた。少女の間抜けた顔に彼は楽しそうに微笑みを浮かべる。


「やっぱり、お嬢さんはいい反応するなぁ」

「え、ええええっ!?」


 驚く奈央の反応を八一は楽しそうに見つめる。


[あれは、分身ですよ]


 麹葉は呆れたあと、瑠樹のいる方を見た。奈央も目線に気付いて目を向けると、木葉だけが瑠樹の目の前で散っている。変わり身の術らしく、彼は攻撃される前に避けていたようだ。瑠樹は驚いて、忌々しそうに八一を見る。彼は舞っている木葉に指し示し、瑠樹は手から炎を出して、飛びかかってきた。


(チョウ)


 木葉が動き出して、瑠樹の体に貼り着いていく。瑠樹は驚く前に、全ての木葉が全身を覆ってバランスを崩した。八一が屋根から降りて、瑠樹を地面に蹴り落とす。那岐の体は灰となっていき、体からは多くの蛍の光が現れる。

 八一からは人の魂と説明を受けている。黒い蛍の光もあった。悪霊の魂だ。黒い光は消えて、普通の蛍の光となる。那岐の体を薪として燃えている炎で浄化されたのだ。

 炎が消える。那岐の姿は灰となっていた。八一は地面に着地すると、瑠樹は慌てながら起き上がる。木葉を顔から外して那岐のいる方を見た。


「那岐……──っ!」


 焦げた痕と灰しかなく、那岐の姿はない。瑠樹は瞳を潤ませて息を呑む。八一はしゃがんで目線を合わせ、疑問をぶつける。


「聞きたいことがある。なんで相手を思う心があるのに人の魂なんか食った?」


 疑問を言う前に、瑠樹は怒りを露にして狐火を出そうとする。木葉が邪魔をして上手く出させず、手をかざすだけ。何もしてこない八一に、瑠樹は歯を食い縛った。


「──生まれのいい、半妖なんかにわかるものかっ!」


 勢いよく蹴りを入れてくる。八一は驚いて、片腕を上げて防いだ。瑠樹は後ろに飛び下がって屋根の上に乗る。力強く駆けていき、ガラスの音に似た音を立てて、その場から逃げていく。


[結界が……破られた……!]


 麹葉は驚いた。八一は深い溜め息を吐き、奈央の目の前に現れる。彼女を抱き上げて、奈央本人は驚いた。


「えっ、ちょ、八一さん!?」

「危ないから、お嬢さんを一人にするわけにはいかないんだ。すまない。しっかりと私に抱きついてて」


 八一の言葉は正しく、彼女は戸惑いながらも頷く。


「麹葉さん、後追ってきて。お嬢さん、舌を噛むなよ。いくぞ!」

「は、はい!」


 返事をした瞬間、彼は風のように駆け出した。車の速度より早く60キロは余裕で出ているだろう。瑠樹は安倍川の方に向かっていた。

 駿府の外側に逃げようとしているのだろう。背後から八一達が迫っていると知り、瑠樹は急いで走る速度をあげた。建物が無くなったところで地面に降りて川へとむかう。八一と麹葉も降り立ち、川の上を走ろうとする瑠樹を見た。

 瑠樹が跳躍ちょうやくする共に、八一は片手を振り上げて。


じゅう


 八一は言霊を吐くと共に手を振りかざす。撃ち落とされたかのように、瑠樹は川へと落ちた。大きな水音に驚きながらも奈央は下ろされる。麹葉は感嘆していた。


[なるほど。あの木葉は八一様の力で身代わりしたものだから、操れたのね]


 貼り付いた木葉に重みを加えて落としたのだろう。麹葉の説明に奈央は感心しながら、川の方を見る。

 川の浅瀬に落ちている。こめかみからは赤いものが流れ、顔は痛みで歪んでいる。八一が指を鳴らすと、瑠樹に張り付いていた木葉は消える。厄介なものは無くなったが、受けたダメージは多く瑠樹は体を動かせなかった。力も出すことも難しいだろう。瑠樹の目の前に八一が現れて、彼はしゃがんで今度こそ聞く。


「もう一度聞く。あんた、那岐を心配して声かけたよな?

何故、そう相手を思う心があるの魂なんか食った。力をつけなくとも普通に修行していればなれたはずだ」


 彼の問いに瑠樹は恨めしく拳を握る。


「っ……お前達上位狐が我ら下位の狐をあざけるからだっ!

私と那岐がどれだけ苦しんできたのかっ……生まれのいい半妖なんかにわかるわけ無いっ!」


 那岐と瑠樹は一番低いくらいの野狐と麹葉は話していた。妖怪の世界でも、格差による差別はあるのだろう。悪霊と魂を食った理由は、上位狐に一矢報いるためなのだ。瑠樹の抗議の声に八一は首を縦に振る。


「そうさ、わかるわけ無い。そして、あんたは私の苦しみを理解することはできない。当然だよな? 私達は立場が違うのだから」


 淡々と語り瑠樹は渋い顔をして黙る。彼は呟くと手から炎を出す。


「瑠樹。お前を殺す。那岐のように狂ったままなのは勘弁だからな」

「はっ……? ……那岐が、狂う?」


 驚愕を表に露にした。まったく知らなかった様子に八一は驚き、片手で頭を押さえる。


「……まさか、知らずに悪霊を与えられたのか」


 瑠樹は唖然とした。


「……嘘……だ……夜久無が私達に悪霊を……?」


 体を震わせて、瑠樹は考えたくもなかったようだ。

 魂を食うのは良くない。それは、輪廻の循環を保つがゆえの禁忌。悪霊を食べると言うことは、人の悪い想いすら食べること。食えば確かに力は得るが悪霊は質悪い。妖怪によって阿片のようなものになる。妖怪によっては平気なものもいるが、中には麻薬のように摂取をするものもいる。那岐と瑠樹は力が弱いため、いつか狂い始めてしまうのだ。

 瑠樹と那岐は禁忌は知っていたようだが、悪霊まで与えられていたとは知らなかったようだ。夜久無は恐らく二匹が瀕死の内に与えたのだろう。


「……お前達は捨て駒か」


 八一の一言で瑠樹ははっとして顔を俯かせる。どんな顔をしているのかは、計り知れない。自分達は利用されたのだと瑠樹は気付いたのだ。


「そんな、夜久無は私達を空狐にすると言った。嘘、だったのか。だったら、何のために……私と那岐は…………何のために……ルキは……ナキとがんばってきたの?」


 瞳から涙があふれでて、幼い声になっていた。夜久無は二人すら利用していたのだ。瑠樹を哀れに想い、八一は炎を目の前に出す。


「友の元に逝きたい炎に触れろ。楽に逝かせてやる」

「…………っ!」


 瑠樹は泣きそうになりながら、八一の炎に手を突っ込む。


豊浄ほうじょうてん


 八一の出した炎は白く変わり、瑠樹の体には燃え移る。川の中に関係なく、彼の体に燃え移る炎は消えることない。瑠樹は悔しげに涙をこぼしながら、白い焔の中に消えていく。

 彼の体の中からは黒い蛍が現れて、白い焔に焼かれて黒さが消えていく。白く戻ると魂は空へと上っていき、最後に残った白い魂は空へとゆっくりと登っていった。


[……酷い]


 やり取りを見ていた麹葉は悲しげに呟き、奈央は同意する。


「本当に、酷い。まさか、瑠樹と那岐が利用されていただけなんて。夜久無のやつは何処にいるのですっ……!」


 八一は頭を強く掻いて、怒りを含んだの声を上げる。


「部下を殺さぬように回収したから少しは善良かと思いきや、まさか純粋な悪役とは恐れ入った。向上心があると聞いていたが、その方向性は最悪だなぁ! 夜久無!」


 誰も居ない場所に声をかけ、麹葉と奈央は驚いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ