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平成之半妖物語  作者: アワイン
2-2章 向日葵少女のホームシック
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5 二匹の狐襲来

 翌朝、朝食を食べ終えて仕事を終えた後。

 昼間の町中にある小さな神社の鳥居の前。麹葉から教えられた内容に奈央は目を丸くしていた。


「前に襲ってきた瑠樹と那岐が復活……死んでなかったのですか!? 麹葉さん」

[瀕死の状態から夜久無が治したのでしょう。人の魂を食えば可能よ]


 麹葉から教えられて、奈央はあり得ないという顔をした。

 昨夜の八一達が見た提灯の行列は、瑠樹と那岐の仲間。彼の仕掛けた術で那岐と瑠樹以外は倒した。無論、それ以外の二人は町の中に入り込んで、人に化けている可能性が高い。顔を知られている以上、麹葉と奈央は町を自由に動けない。難しそうな顔で困っていると、一人が声をかけてきた。


「あの」


 奈央は振り向くと、傘を深くかぶった二人の旅人がいた。一人は背が小さく、彼の背後にいる彼は背が大きく口許しか見せていない。奈央は一瞬だけ瑠樹と那岐かと警戒したが、先程はまだ声変わりもしない内の男の声であった。荷物を持った二人はお蔭参り(伊勢参り)に向かうようだ。


「宿に行きたいのですが、どこに向かえばよろしいのでしょうか?」


 その彼は顔を上げて奈央を見つめ、彼女は目を丸くした。


「とおる……先輩……?」


 紫陽花のような微笑み、明るい黒色の長い髪を持っている。顔立ちは違うものの、何処か澄に似ていた。声をかけた彼は驚きの表情を見せ、背後の彼はピクリと微動する。奈央は背筋に凍るようなものを感じる。放っているのは長身の彼である。

 奈央は胸に手を置き、その彼が一歩前に出たとき、向日葵少女の頭に手を置く。誰かが二人に声をかける。


「こんにちは。早かったなぁ、お二人さん。宿はあちらの角を真っ直ぐと行った所だよ」


 彼女は後ろを見ると八一がおり、彼は人の良い微笑みを浮かべていた。背後の人物は呆気にとられた後、見据えながら八一に声をかけた。


「八一。どういうことなんだ」

「報告書の通り。私が嘘を書くとでも?」


 警戒を露にする長身の男性に八一は笑みを保つ。その男性は首を横に振り、難色を示した。


「そうは思わないが、理解はできても信じるのは難しい。混乱してしまう」


 聞き覚えのある声。奈央は誰かと思い出そうとする前に、八一が話を進める。


「大丈夫だ。危害はない。それに、お前達はあの人の命で応援に来てくれたんだろう」


 その男性は沈黙し、八一は手で狐の形を作り微笑む。


「というわけで、私の頼んだ通りに頼むよ。お狸様のお二方」


 軽口でその男性は仕方なさそうに息を吐く。


「……わかったよ。お狐様。行こう、とおる」


 彼は声をかけて、とおると呼ばれた人は奈央に微笑んで手を振る。


「ああ、わかった。──じゃあ、またね」


 返事をする声は後半から男ではなく女の声色であった。

 二人と一匹は、二人の背が人混みに消えていくのを見送る。奈央は脱力して腰をつきそうになるのを八一が支えてくれた。彼女は冷や汗をかき、自分の内から鳴る早い心音を聞いていた。八一は心配そうに奈央に声をかける。


「大丈夫か?」

「は、はひ………………あの、二人は仲間ですか?」


 頷きながら八一は苦笑し、彼の去っていった方向を見つめる。恐る恐る奈央は彼に聞く。


「八一さん。なんで仲間がここに……」

「私がお嬢さんの守護に本腰を入れるからだ」


 答えに奈央は驚き、八一は真剣に周囲を見据えた。


「駿府の監視をやめて分散させていた私の力を戻した。あの二人はちょうどいい機会に来たよ」


 あの二匹の侵入は八一が予測できた。パワーアップも彼は予測しているだろう。今の状態で戦い続けるのは難しいと判断し、応援を呼んで仲間には駿府の町の守護に当たらせてもらっている。仲間の二人が奈央に訪ねたのは確かめに来たからだ。任務の渦中にいる人物がどんな相手なのかを。

 文通りの内容で二人は困惑しながらも受けてくれたのだ。

 瑠樹と那岐が人の魂をまた食ってパワーアップしているのであれば、彼らも本気で動かなくてはならない。彼らの本来の役割は輪廻の循環を守ること。禁忌を犯した者は野放しにしておけない。

 奈央は不安を抱きながら、ポツリと呟く。


「……帰れる……のかな」


 彼女の不安に八一は優しく応える。


「大丈夫だ。何もできていないと思わないで。君はちゃんとこの時代に慣れようとしている。それでいいんだよ。お嬢さん」


 ここまでなんとか頑張れたのは八一のお陰である。溢れ出しそうになる気持ちを何とか堪えて、奈央は彼に感謝をした。





 ある夜。奈央は麹葉を起こさぬように廊下を歩く。水を一杯欲しくなり、顔も洗いたくなったからだ。手拭いを持って寝ている人々を起こさぬように、ゆっくりと歩きながら下駄を履く。

 調理場で飲み水を貰い、出入り口から出ていって外に出た。

 月の明かりが出ているお陰で外の様子はわかる。だが、未来より明かりがなく、少々暗いため奈央はゆっくりと歩きながら井戸の方へと向かう。

 近くにある桶を手にして井戸の中を見る。真っ暗で何も見えず、何か出てきそうであった。見なければよかったと思いつつ、彼女は紐付きの桶を落とす。水音が聞こえて、彼女は水を汲んで慣れた手つきで縄を引っ張り、水を汲み上げた。

 量までは調節できず、手で多めの水を掬い上げて彼女は顔を濡らす。もう一度手で掬って、顔を濡らす。手拭いで顔を拭いていくと、背後から声がかかった。


「よっ、夜に一人で外に出るとは感心しないなぁ」


 彼女は驚いて振り返ると、八一がそこにいた。奈央はほっとして、立ち上がる。


「……八一さん。急に驚かさないでください」

「あははっ、悪い悪い。君を驚かせたくてね」


 微笑む彼に奈央は目を丸くする。八一は彼女の目の前に近づいて、微笑みを見せた。


「実は君に知らせがあってね。実は瑠樹と那岐が」

「誰ですか。貴方は」


 言葉を遮って、奈央は問いかける。彼は間抜けた顔になり、向日葵の少女は微笑みすら見せず、警戒を露にして睨みつけていた。

 八一は困惑して彼女に手を伸ばす。


「何を言っているんだ。奈央。私は君に」


 ぱちんと少女は伸びてくる手を払いのける。


「……八一さんは私の事をお嬢さんと呼びます。そんな親しげに名前なんて、呼びませんっ!」


 険しい顔をし、奈央は大声を出す。その相手は目を丸くし、見えない何かに突き飛ばされる。壁に当たるとその八一は苦しげに声を上げ、ずるずると腰をつく。奈央の顔の横に両手が伸び、五本の尾が彼女の全身を包んだ。その両手は奈央の両肩を優しく抱き、空いた片手で彼女の頭を撫でてくれた。


「お見事。流石はお嬢さん。いつも私のやり取りをしているだけはある」


 彼女の顔の近くで変化をした本物の八一がいた。嬉しそうに笑っており、奈央は少しむくれていた。


「貴方が事前に教えてくれたからでしょう。八一さんか、麹葉さんに化けるかもしれないと」

「だが、普通は気付かないぞ? よくやったよ」

「貴方はすぐに私の反応を褒めるから気づいたんですよ」


 褒められて、奈央は照れて目線を横に逸らす。仲間と合流した後、八一からは那岐と瑠樹に関して仕掛けてくるであろう予測を教えてくれたのだ。

 一つは身近な人に化けて出ること。もう一つは住んでいる場所に衝撃を受けること。後者は奈央は望んでおらず、前者でよかったと内心でほっとした。

 八一に変化した狐は姿を表して、威嚇をして見せる。


[っ……お前……!]


 四本の尾を持つ狐。その狐は瑠樹の姿をとって、瞳を黒く染め上げていた。奈央の近くに麹葉が現れ、八一に声をかける。


[八一様。言われた通り、結界を設置してきました。これでおもいっきりここで戦えるでしょう。あなた様の仲間もこの事は伝達済みです]

「流石、麹葉さん優秀」


 八一は誉めると、奈央はぼそっと。


「夜久無。麹葉さんを嫁に貰わなかったこと後悔しろ」


 と小声でディスり、一人と一匹の狐をくすりと笑わせる。八一達を覆う影が現れた。奈央は空を見上げる。那岐が大きな棍棒をもって飛びかかってくる。すぐに避けて、八一達は屋根の上に乗った。

 奈央を屋根の上に座らせて、八一達は様子を伺う。彼らがいた場所に穴が開く。那岐の目からは血涙が流れており、鼻息は荒く口からはよだれが出ている。

 端から見ても気味悪く様子がおかしい。瑠樹は可笑しく思わないようだ。八一は二匹の狐を見て頷く。


「なるほど、そこまで犯すなら際限なしにやらせてもらおう」


 八一は奈央に札を持たせて、麹葉に声をかける。


「お嬢さん。それは結界の札だ。絶対に手放すなよ。麹葉さんはそこにいて彼女を守ってほしい。じゃあ、私は相手してくる」


 彼は屋根を蹴って、静かに着地をした。



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