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平成之半妖物語  作者: アワイン
2-2章 向日葵少女のホームシック
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3 奈央と八一と麹葉と

 川を見つめ直して、口許を三日月に形作る。


「組織に引き取られる前は根もない噂を流されたり、殴られたり罵られたり、周囲からいじめられても助けてくれなかったけど、まあ勘当する理由はわかるさ」


 早口で受けてきた仕打ちを言い、殺意を感じたのは気のせいだとしておく。仰ぐのをやめて、八一は川を見据える。


「恐らく、父は私が怖いんだ。私が組織の半妖として生まれてしまったのが恐ろしいのさ」


 彼の話を聞いて、違和を感じる。半妖として生まれたから、批判されているのではと奈央は思っていた。彼女は桜花の半妖の成り立ちを知らぬ故に不思議に思うが、八一はあえて語らないだろう。

 やがて八一の空に向けて嘲笑を浮かべる。


「桜花は地獄の組織の一つだ。父親は私がいつか自分を裁くんじゃないのかと思っているのさ。使い魔によって人間の母を無理矢理見初めたことか、私を生んでしまったことか、母を病で死なせてしまった事か。その全てが後ろめたいんだろうな。はっ、禁忌なんてしてないのにさ。馬鹿な親父だよ」


 八一の父親が息子を恐れる理由はわかった。扇を閉じたり開いたりを繰り返して、彼は扇を再び開く。彼はぽつりと呟いた。


「……思い出すだけでも腹立つな」


 彼女の時代では虐待の話は時折耳にするぐらい。その辛さを知らない彼女は何も言えなかった。辛さを知らぬ人間に励ましの言葉なぞ、見つかるわけ無い。


「……何も、言えなくて、ごめんなさい……」


 涙ぐむ声に八一は目を丸くして、申し訳なく笑う。


「仕方ないよ。その個人でしか辛さがわからないこともある。私だって、今の君の辛さは理解しづらい。だから、無理に慰めようとしなくていい。無理に励まさなくていい。気持ちだけで十分だ」


 毎日のように気にかけてくれている八一。彼の優しさは身にしみて、心が暖かくなってくる。彼女は小声で感謝をして、八一は笑って頭を撫でてくれた。

 彼が頭を撫で終えたあと、彼女は不思議そうに聞く。


「……八一さん、女の子に人気ありますよね……。女の子の対応にも慣れてます。恋人はいないのですか?」


 彼が良いのは見た目だけでなく、然り気かい気遣いと声色と態度は不快にならないのだ。なるととよが羨ましがり、町の女の人からも目線が送られるため、本当にモテるのだ。

 彼女の質問に八一は首を横に振って話す。


「いない。手慣れているのは相手から情報を聞き出す技術だからさ。これは話術だけでなく、閨の出来事、男女の関係にも及ぶ。だからといって、お嬢さんのような協力者には技術ではなく気遣いが必要だ。何せ、死に近い裏組織なもんでね。危険な目に合わせたくないのさ」


 スパイ活動とハニートラップもこなしているようだ。また協力者にも配慮をする理由があるようだ。妖怪の退治だけでなく、スパイ活動もするとは裏組織らしいと奈央は感心した。八一は悪戯っ子の微笑みを浮かべ、奈央に目を向ける。


「これを聞いたのは、もしかして私がいけめんとやらだから変に勘違いしちゃったとか?」

「いえ、手慣れているなぁと思ったので聞きました。あと、私は高校を卒業するまで恋愛は御法度なのです。八一さん、いつも良き顔面ありがとうございます」


 にやにやと聞く彼に、奈央はバッサリと否定し合掌した。否定された本人は拍子抜け。八一は性格も見た目も奈央の合格点以上だ。しかし、彼女にとって高校生活を乗り越えるのが優先である。理系の授業と英語がヤバイ為、恋愛よりも置いていかれる恐怖が強い。勉強が苦手な以上、恋はしない方針を取ろうとしている。

 前に告白されたのを思い出して息を吐く。


「私は頭は良くないので、たくさん学ばなきゃいけません。告白されてもいるので断らないと」


 八一は驚いていた。今まで以上に驚いている。


「お嬢さん。告白されてたのか」

「はい、大真面目な告白を受けましたがそこで驚きますか?」


 彼は頷いて、頭を掻く。


「……正直に言うと、自分から掴みに行く側だと思っていた」

「あはは……小さい頃したことはあるんですけど玉砕しちゃって」


 彼女は苦笑し、八一は納得していた。

 周囲の友人からはよく言われる。受けるよりアタックしていく方に思えると。小学生の頃に自分から告白したことあるが玉砕している。当時の自分からしたらカッコいい人であったが、他に好きな人がいると断られたのだ。失恋の痛みもあり、イケメンは見るだけで十分と思えるようになった。

 八一は扇を左手で顔の前に持って微笑む。


「私からしてお嬢さんは可愛らしいと思うけど? 特に笑顔と頑張る姿がいい。笑っている方が素敵だから笑顔でいてよ。お嬢さん」

「……八一さんはお世辞上手いですね」


 扇を閉じて彼は彼女の心臓の上に当てた。顔を向けさせて、自身の心臓の上に扇を当てると八一は意地悪く笑う。


「そりゃ、人より長生きだから」


 奈央は顔を赤くして照れると、麹葉がやって来た。


[八一様。こんにちは]

「こんにちは、麹葉さん」


 二人は互いに挨拶をして談笑をする。

 穏やかに談笑する二人を見て、彼女は思い出した。ここでの記憶は忘れなければならないと。彼女は協力者という立場におり、彼らを忘れるのだ。ホームシックも悲しい感情も消えるはずなのに、消されると思うと彼女は先程よりも苦しくなる。二人を忘れたくないのだろう。


「八一さん」


 二人の会話を中断させて、彼を呼ぶ。二人がこちらを向くと、彼女は気持ちを言葉にして尋ねてみた。


「……私がこの出来事を忘れたくないと言ったら、どうしますか?」


 気持ちを言葉にする。八一と麹葉は黙り、彼は首を横に振った。


「駄目だ。申し訳ないが消させてもらう。これは規則で決まりでもある。未来では君は一般人なのだろう? なら、余計なことは忘れた方がいいさ」


 思い出にするのもダメなのだ。彼女は顔を俯かせ、八一は気まずそうな顔をする。八一の組織の実態もあり、基本的にはあまり話さない方がいいのだと奈央は理解している。沈黙している二人に、麹葉は声をあげた。


[なら、未来で八一様が奈央ちゃんと会えばよろしいのでは]

「……はっ? 未来で私がお嬢さんと?」


 八一は目を丸くし、麹葉は頷く。


[そうです。貴方様は人より長く生きる半妖。ならば、彼女が忘れていても、貴方様が会うぐらいは許されるのではないでしょうか]


 提案に八一は難しい顔をして少女を見る。奈央は顔を上げて、八一の反応を確かめた。小慣れたように協力者の記憶を消していったのだろう。提案を受け入れ難いような雰囲気だった。


「……八一さんはこうして協力者の方と仲良くして、忘れさせたりしていたんですか?」

「ああ、あの世に関わらせないために記憶を消している。仲良くできても、そもそも半妖と人の時間は違う。互いの未練を残さぬよう消している節もある。規則の【情を持ってはならない】はここにかかるんだ」


 奈央は何処かで腑に落ちて、何処かで納得がいかなかった。自分の記憶を消しても、八一の記憶には彼女といた出来事は残り続けるのだ。切ない記憶になるのか、楽しい記憶となるのかは彼次第。どうするべきか、彼女はわからない。だが、奈央は彼らを忘れたとしても、無下にしたくない。

 向日葵の少女ははぁと溜め息を吐き、ばちんっと頬を叩く。八一と麹葉はビクッとする。奈央は出そうになる涙をこらえて、彼の前で小指を立てた。


「八一さん。約束しましょう! 未来で会って私に食べ物をおごると!」

「……はっ? えっ、約束?」


 唐突な発言に間抜けな顔になる。奈央は力強く頷いた。


「記憶を消されるのは納得いきません。ですが、ここでの出来事が貴方にとって思い出にならないなら、ここでの約束を思い出にしてほしい。未来ではこの約束を果たしてほしいです!」


 真っ直ぐと言われて、八一は戸惑いを見せる。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?

納得いかないのはわかる。けど、君は仕方ないと受け入れてくれたのか。なら、何で私と約束をするの? 何で、私が食べ物を奢ることになるんだいっ!?」

「何でとは当然です。人の記憶を消すんですから、そのぐらいの駄賃がほしいくらいです! さん、静岡県しずおかけん藤枝市ふじえだしと言う場所にあるお抹茶のアイス。氷菓子が食べたいです! 決まりです!」

「勢いで決めつけられた!? そもそも、私が覚えているかなんて怪しいのに……はぁ」


 扇を閉じて頭の後ろに当てる彼。奈央は麹葉も見る。


「麹葉さんもこの約束に乗って貰います。言い出しっぺは麹葉さんなんですから!」

[私も含まれているの!?]


 驚く麹葉に奈央は何度も頷いて拳を握る。


「折角、良い人達に会えたのに忘れるなんて本当は嫌なんです。だから、せめてこの約束だけは果たしてください」


 気持ちを知り、と麹葉は目を丸くして泣きそうになる彼女を見つめる。瞳を潤ませて、不機嫌そうに唇を尖らせていた。麹葉は仕方ないと口許を緩める。少女の小指には男の小指が絡まり、狐の肉球が当たった。


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