表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平成之半妖物語  作者: アワイン
2-2章 向日葵少女のホームシック
76/285

1 平成 花火の少女初任務

 平成二十三年──五月。奈央が過去に飛ばされて五日目。未来では行方不明になっており、県内で少し話題になっていた。

 昼の土曜日の学校帰り、駿府すんぷの公園。空は曇天ではあるが、雨が降る気配はない。澄と依乃はベンチに座って、落ち込んでいた。


「……奈央。まだ見つかってないんだね」


 落ち込みを見せる先輩に、依乃は頷いて不安を抱く。直文達が何とか手を打っている最中だが、まだ最善の手は見つかっていないのだ。

 五日目も奈央の姿が見つからないと、不安になる人も多い。現に依乃も落ち込んでいる。いつものように明るい返事を送ってくれる友人がいないのだ。調子も狂う。澄は苦笑して空を見た。


「……本当、奈央がいたら相談したいことがあるのに、いないなんて。あの明るい雰囲気に何度か支えられてたんだな。私達」

「……えっ、先輩。奈央ちゃんに何か、相談したいことがあるのですか?」


 後輩の言葉に澄は頷いて、悩ましい表情を見せる。


「……ここ最近、夢見が悪くてね。ほら、奈央が怪異の夢を見たって言うだろ? なんか、私もその系列なのかなって」


 花火の少女は驚愕した。奈央だけでなく、澄にも怪異に襲われる兆候が出るとは。怖くてたまらないが、依乃は真剣に聞く。


「先輩。一体、どんな夢を……」

「……はなび。いつもに増して真剣だけど……」

「そ、それはそれです。私でも話せる内容でしたら聞きます!

ホラーでしたら、私を助けてくれた霊能力者さんもいますし!」


 胡散臭いが嘘ではない。事の次第によっては直文に相談をしなくてはいけない。澄は半信半疑であるが、苦笑しつつ後輩の真剣さに答える。


「わかったわかった。うん、話すよ」


 澄は笑みを消して、目の前の風景を見つめ話してくれた。


「人に、殺される夢をよく見るんだ」


 夢占いでは、自身が殺される夢は縁起がよいと言う。所詮は夢と普通の人は言うだろう。依乃は実体験でホラーを味わっている為、無下にはできない。真剣に先輩の話を聞いた。


「あやふやで夢の内容は覚えてはない。だけど、自分が殺される夢を見るんだ」

「……いつからですか?」


 依乃が聞くと、澄は難しそうに考える。


「……うーん、何時だろう。一年前の夏からなんかよくわからない夢は見るけど、なんか本格的な夢はここ最近で。でも、怖くないんだ。むしろ……悲しい?」


 一年前の夏。その時は依乃の名前が奪われていた時期である。その際に奈央も巻き込まれていたが、澄までも巻き込まれては予想していなかった。慌てて依乃は直文を紹介しようと考えたとき。


「おいっす!」

「「っ!?」」


 背後の声かけに驚き、二人は振り返る。二人の間には悪戯っ子の微笑みを浮かべた茂吉がいた。


「やっほ、はなびちゃん。おひさ、高島ちゃん。こんちはー☆ 寺尾茂吉くんだよ♪」

「て、寺尾さん!?」


 依乃は驚くが、澄は最も驚いている。


「寺尾さん。なんでここに」

「はなびちゃんに用事があってここにいるかなぁーって探してたらビンゴ。で、偶然にも高島ちゃんもいたから驚かせてみたの。なんか二人で悩んでたけど、どしたの?」


 一応、茂吉も同じ直文の組織に属している。相談に乗ってくれるだろう。依乃は茂吉に澄の夢について話す。

 人に殺される夢の話を聞いて、茂吉は切なそうに同情した。


「そんな夢を見ていたなんて、可哀想に……。よし、このもっくんがなんとかしよう!」


 胸を叩く彼に依乃は目を丸くする。


「えっ、何とかできるのですか!?」

「任せなさい! 怖い夢を見たくないなら、つまり夢を見なければいいんだ」


 彼はポケットから小さなスプレーのようなものを出す。彼は腕にスプレーをつけて、匂いを嗅がせる。二人が近づくと、癖のない爽やかで落ち着く香りが鼻の奥を通る。澄はスプレーの正体に気付いた。


「これ、アロマオイルですか? ラベンダーベースで色んな配合されてますね」

「正解。俺にしては女々しい方法かもしれないけど、効果は保証するよ☆ 鎮静効果がつよつよに出ているから、寝る前に紙につければ安眠効果間違いなし。はい、これ。アロマ効果を引き出す紙。あげるね♪」


 数枚の紙とスプレーを渡されて、澄は申し訳なさそうになる。


「ですが……ただで貰うのはいきません。お金か物を払わないと」


 律義な面に茂吉は笑うのをやめ、唇を動かす。


「眠りは人に与えられた癒しの時間の一つだ。何かを忘れたいとき、何かを忘れたくないとき、眠りは重要になる。君はまだ若いんだ。体を大事にすると思ってもらってほしい」


 今まで以上に真剣な声色に依乃は驚く。澄は戸惑いつつも彼から紙とアロマスプレーを貰う。

 受け取ると、茂吉はまた睡眠の話をする。

 レム睡眠とノンレム睡眠。レム睡眠が脳が記憶を処理している状態で、ノンレム睡眠が脳と体を完全に休めている状態と話す。耳に入れたことのあるものの、茂吉からは小ネタで夢や枕の話をされる。相変わらず、話の引き出しが多く話題に困らない。茂吉が渡したものは、ノンレム睡眠を程よく招いてくれるものらしい。

 話を聞き終えて、澄は頭を下げる。


「ありがとうございます。早速、今日から使ってみます」

「どうも! あと、高島ちゃんにはなびちゃん。消臭スプレーで徐霊できるって言うけど、できないからね。」

「「マジですかっ!?」」

「反応に草。まじまじ~」


 澄と依乃は驚くと、茂吉は笑って理由を話し出す。

 正体の知れないものを何度もかけられると人は逃げる。しかし、害がないのだとわかればかけられても平気だと言われる。人でもできる徐霊の一つとしては、部屋の掃除をして換気を心がけろとのこと。場が綺麗であれば、悪い霊は寄らないらしい。

 話し終えて簡単な談笑をした後、澄は二人と別れる。

 去っていく先輩の背を見つめて、茂吉は微笑みを浮かべる。


「高島ちゃんに怪異が近づいてないから安心していいよ」


 依乃は驚き、彼は背を見つめて喋り続ける。


「普通、誰かに殺される夢なんて不安になる。だから、話したんだろうね。俺が渡したのは、悪いものを取り祓う術をかけたアロマスプレーと紙。それ以外は普通だから安心して」


 彼はふざけているように見えて油断大敵な相手である。しかし、それ以外は普通に優しいので信頼はできる。茂吉は息をつき、笑みを消す。ポケットから一枚の畳まれた紙を出し、彼女に差し出す。


「さて、有里依乃ちゃん。君に用があるのは、任務を言い渡しに来たからさ」


 驚き、彼女は身を整える。

 彼女は組織『桜花』の一員となった。保護ではあるものの、一員としては仕事をしなくてはならない。彼女にとっては初任務であり、緊張する。彼女は紙を受け取り、広げてみる。A4の用紙で簡潔に任務内容が書かれており、同行者も載っていた。


【任務 過去から田中奈央を連れ戻せ。時渡りの決行は翌日とする。 同行者:久田直文 有里依乃 健闘を祈る】


 彼女が読み終えると、紙はパァンと弾けて消えた。依乃は驚き、茂吉は任務内容を説明する。


「まず、過去に行くのに稲荷大明神様と協力して『時駆け狐』のもどきを作った。だけど、それは過去への片道切符。帰りは、過去にいる『時駆け狐』を利用して帰ってきてほしい。本当はもう一騎作りたかったけど、大明神様が大分力を消耗したっぽくてもう一騎は時間がかかる」


 時を駆けるのだ。相当な力を使用するだろう。また世間や警察を騒がせる前に事を終わらせたい理由もある。奈央を連れ帰ったときは、また犯罪者に濡れ衣を着せるようだ。

 茂吉の説明は続く。


「直文は君の任務同行に腹を立てるだろう。田中ちゃんを安心させる要素として君を連れていくように命じられている。直文じゃあ人付き合いの加減はわからないしね。任務の破棄と失敗は許されない。出来ないなら」

「やります」


 依乃は即答した。大切な友人を連れて帰れるならば、彼女はすぐに連れて帰りたい。茂吉は瞬きをしたものの、やる気のある彼女を見て嬉しそうに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ