月下の駿府
カランコロン。下駄の音が町に響く。
カランコロン。提灯の明かりが頼りの中、男性はゆっくりと歩く。平成の世のように、各地で照明があるわけではない。月明かりと、家屋から漏れる光が頼り。
ふわふわした髪を束ねた茶色に近い黒髪を持ちながら彼は歩く。腰には刀、羽織を肩にかけて下駄で歩いていく。
三日月は駿府を照らす。周囲のお堀近くを歩く彼は、堀の水に浮かぶ月を見てため息を吐いた。
「あの人はなんでここに行けって命令したんだか」
見回りついでのお散歩道を彼はゆっくりと歩む。城の見回りの者とは顔見知りになるほど、お散歩の道と一つとなっている。かつては天下の家康が住んでいた駿府城下は、その名残なのか城下町も整っていた。
だが、町並みに電柱はない。ネオンもなく、電気の明かりもなく現代の家屋やビルもない。あるのは、木造と障子のある建物。昼間になれば暖簾をかけそうな入り口がある。
大きな武家屋敷を通り、長屋を通り、寺社地を通る。町の道にはいくつもの綺麗な水の流れる用水路が流れていた。駿府用水と呼ばれるものだ。
彼は町並みを見ながら空を見る。
《八一。君にも僕や茂吉のように大切だと思う人物が現れるよ》
かつての親友兼相棒の言葉を思い出して、彼は息を吐く。ため息をつくと幸せが逃げると言うが、精神を整えるために必要な行為だ。吐く度に心の重荷が減っていく。大切だと思うのは親友と組織の仲間ぐらいなものだと彼は考え、唇を動かす。
「なんか、面白いこと起きないか……」
平成の世ではない江戸時代の世で彼はため息を吐く。




