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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-1章 平成之半妖物語開幕
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2 田んぼのおじいさん

 午後三時半頃。運動部や文化部などの部活で放課後に残る生徒もいる。■■は部活を選んでいない。帰宅部である。多く名前を呼ばれるのが好きではない。家庭の事情もあって早く帰宅をしていた。通学バッグに教科書をしまう。すると、がすっと両肩を掴まれて彼女は振り返る。


「ばぁ! はーなびちゃん! 元気?」

「わっ、奈央ちゃん。驚かさないでよ!」


 奈央と呼ばれた少女は向日葵の如く無邪気に笑う。

 田中奈央。茶髪の三つ編みをした向日葵のような可愛らしい少女だ。中学校での茶髪は咎められると指摘する者もいるだろう。奈央の髪は地毛であり、学校と相談をして茶髪の許可を得ている。

 彼女から離れて隣に立って、奈央は心配していた。


「はなびちゃん。今日もお疲れさま。……大丈夫だった?」


 彼女は首を縦に振る。


「うん、私は用がない以外、名前を呼ばれても無視していたから大丈夫だよ。奈央ちゃんは?」

「茶髪のことは多少いじられたけど、大丈夫だよ。はなびちゃん」


 奈央とは小学生以来からの付き合い。出会いは五年生の春からだ。奈央が茶髪で弄られていたところを彼女が助けたのが親交の始まり。■■が名前を呼ばれるのが苦手であるのを知っており、名前の件について把握している。

 奈央は腕を組んで、疑問そうに彼女の名札を見つめた。


「……本当におかしいよね。はなびちゃんの名前がわかるのに、私はなぜかぼやけたように感じるの。理解はできるけど、認識がぼやけるみたいな。他の人はこの違和感をあまり気にしていないみたいだけど」


 分かりやすく言うならば、目の前にある湯気を掴もうにも掴めない感覚だ。■■にも同じように感じている。名前の認識には個人差がある。奈央は■■の違和感を見抜いた初めての友達だ。


「私は『人の名前ははっきりと覚えろ』って、お父さんに教えられているからわかるのかな。はなびちゃん」

「どうなんだろうね。でも、私は奈央ちゃんのような人がいるから頑張れるんだよ」


 本心からの言葉を言って、奈央は瞬きをすると照れ臭そうに笑う。

 奈央みたいな親友を■■は大切にしている。奈央は配慮して「はなびちゃん」とあだ名で呼んでくれていた。花火は名無しの少女が好きなものであり、奈央のくれたあだ名は嬉しかった。奈央がいるのは部活が休みだからだ。一緒に帰ってくれるようだ。

 奈央は「そういえば」と話しかける。


「はなびちゃんの気に入っている道で行方不明者がいるらしいね。はなびちゃんの好きな夏祭り時期だから田んぼに関係する怪談の仕業かなぁと思うけど」

「いや、私、そういう話は聞きたくないかな。奈央ちゃん」

「あっ、ごめんね。はなびちゃんがその身で実体験しているのに」

「気にしないで」


 ■■は怪談が得意でない。その身で体験しているため、気にしないようにしている。感謝しながら彼女はバッグを開けて、目を丸くする。いつも■■のバッグの中は整頓されており乱雑ではない。彼女のバッグの中は乱れており、必要な物が無くなっている。


「お財布と自転車と家の鍵がない!?」

「えぇっ!?」


 奈央は驚愕するが、すぐに冷静になって問う。


「はなびちゃん。心当たりはない!?

今日なんか変な動きをしたやつとか、何か見ていたとか!」

「……あっ! そういえば、昼休み。廊下で同級生と別のクラスの女子が私の机と私の様子を見ていたっ」


 財布には文房具を買う分のお金しか入っていない。奈央が言い当てたのは、日頃からのいじめっ子の行いを見ているからだ。今まで、何かしらの形で■■にちょっかいをかけてきている。今日は何もないと思っていたが、起きない訳がなかった。

 ■■は全部の教科書をし仕舞い、通学バッグを急いで閉じて教室を出る。奈央もバッグを持って一緒に追う。廊下を走ってはいけないと注意をされるが、注意をされる場合ではない。

 上履きを脱ぎ、下駄箱から靴を取り出した。

 慌てて履いて、二人は門を抜ける。靴が脱げかけた。履き直している時間はない。いつもちょっかいをかけられている二人は彼らの顔を覚えていた。だが、どこに行ったかは不明。奈央は■■に声をかけた。


「私、コンビニの方を探すよ。はなびちゃんは心当たりがある方を探して!」

「うん!」


 二人は背を向けて走り出す。

 奈央を一瞬だけ見送ったあと、■■は全力で走り出す。彼女には心当たりがあった。中学の近くに公園があり、よく中学生のたまり場として使われる。彼女は汗を流し息を切らしながら、公園の入口に向かう。広場では朝彼女が乗っていた自転車があり、身なりが悪い男子中学生が乗っている。その相手が同じクラスメイト二人と話しており、一人の女子が彼女の財布を見ていた。


「私の返してっ!」


 彼女は大声をあげる。全員が少女に向いてしたり顔をする。自転車に乗っている男子がけらけらと笑っていた。


「あー■■きたー!」 


 聞こえぬ名前を呼ばれて、彼女は嫌悪の表情を浮かべる。その様子を見て全員は笑っていた。自転車に乗っている男子は爆笑する。


「相変わらず、■■って名前で呼ばれるの嫌いなんだな。■■」


 他者に聞こえているだけで自分の名前はわからない。聞こえているならいい。だが、わからない名前を五年間も呼ばれ続けるのは苦しい。


「私の名前を呼ばないでっ!」


 彼女は涙目になって叫ぶが、相手は訴えてもやめない。


「わっ、■■は自分の名前がそんなに嫌なのかよ。やべぇウケる」


 男子学生の言葉に同調し、彼らは笑い出した。

 真実を話しても、彼らにはただの絵空事。話しても意味はない。虐めのきっかけなんて、からかいやすいというくだらない理由だ。■■は些細な加虐心から虐められる。彼女は堪えきれず、女子学生の手にしている己の財布を取り返そうとした。


「っ! あぶなっうざいんですけど! まじやめろっ!」


 女子学生はすぐに避け、勢いよく押されて■■は腰をつく。■■を見て、自転車に乗った男子学生は思いついたようだ。笑みを歪ませて。


「そーだ、家の鍵もあるし、■■の家にいって中に上がろうぜっ!」

「ええ、お前家わかるのかよ?」

「後をつけたことあるからわかる。■■の家族は仕事であまり家にいないみたいだし」


 聞き逃がせない話に、彼女はすぐに顔を上げる。


「っやめてっ! 犯罪だよっ!?」


 最も正しい指摘に彼らは面白そうに見下す。


「知らない。そんなのわからなぁい」


 素知らぬ振りをして自転車に乗る。自転車を漕ぎ出し、リーダーを追いかけて彼らも走った。

 彼女も砂を払って急いで走り出した。

 遊びながら四人は走っている為か、追跡しやすい。■■は体力が無いわけではないが多くはない。途中で彼女は荒く息をしだした。追いかけていると、遠くで四人が急に止まる。■■も近くで止まり、膝をついて息を整えた。

 ぽたぽたと落ちる汗を手で拭って顔をあげる。周囲を見回す。新田の近くであり、田んぼがある。

 朝通った道。不審者情報があり、数人がパトロールをしている場所だ。周囲を見ると人がいない。違和を感じて■■は立ち上がる。ここに来てはいけないと、直感が訴えていた。だが、家に入る鍵は取られている為、早く取り返そうと四人を見る。彼女の到着に気付かず、誰かに話しかけていた。


「おーい、何をしているんだ?」


 女子生徒は屈んでおり、男子生徒は目線を会わせて座っている。よく見ると、ランドセルと黄色の帽子。黄色の通学バッグと言うものを持っている二人の男の子だった。背も低くまだ下級生。下級生はもう下校し終えて家にいる時間だ。

 彼らに背を向けて立って、直立不動に田んぼを見ている。何度話しかけても返事はない。小学生二人の様子は異常だ。■■は行方不明になっている二人だと直感する。自転車に乗っている男子は苛立ち、子供を蹴り始めた。


「おい、返事をしろっ!」

 何度か蹴っているが、子供たちは固定されたポールのように動かない。止めようと思ったが違和感があった。女子生徒も気付いたのか、横顔を見ると顔色が青くなっていく。


「ね、ねぇ、おかしくない? 蹴っても倒れないし、全然動かないの。しかも、じっと田んぼを見続けているんだよ!?」


 ■■は田んぼの真ん中を見る。帽子をかぶったお爺さんがいた。

 朝見た帽子の人だった。距離が近くなったからか、顔が良くわかる。普通のお爺さんのように見えた。足には長靴を履いており、農作業用のズボンには赤い何かがついていた。小学生の一人が手を上げて、お爺さんを指差す。

 自転車に乗っている彼と残りの三人はお爺さんを見た。

 視認した瞬間に全員は目を見張る。お爺さんの手には大振りの赤く汚れた鎌。彼らはがしゃんと自転車と財布、鍵を落としガタガタと体を震わせた。

 爺さんが普通でないからだ。■■は顔色を真っ青にしながら汗を流す。

 小学生二人はあり得ない首の動きをする。ぎぎっと鈍く、ごりっと音がした。ぶちっと音が切れて、二人は首を百八十度ほど回転し顔を向けた。首には一筋にぱっくりと開いた傷口がある。


「おおおおおおににチャン達」

「ざみみししシシしシ死死死」

「いっしょしょしょ」

「ズットトトトトトトト」


 人ではない声で壊れたラジオのように言葉が続く。四人の目の前にお爺さんがいた。


「わしは悪くない」


 小学生と爺さんの口はつり上がった。

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