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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-4章 花火の少女
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3 総踊り開幕

 あの後、直文はイライラしていた。困惑しながらも、施設の中にある惣菜屋で焼きそばを買う。三つほど買って、直文が二つで■■は一つ。外にあるベンチに腰を掛けて、焼きそばを食べていく。焼きそばの美味しさである程度、怒りはほぐれたようだ。直文の表情からは険しさが消えていく。

 買ったのは、静岡の富士宮名物の焼きそば。B級グルメの優勝料理として、全国区的に知られている。彼は割り箸を使って、焼きそばの具材を絡めて掴む。富士宮の焼きそばには、肉かす、鰯の削り節とその他の魚の削り節、青海苔を粉末にしただし粉というものがある。

 添えてある紅しょうがを忘れずに、彼は口にして啜る。咀嚼して、飲み込む。

 直文は息をついて外を見た。


「はぁ、うまい。さっきの苛立ちが消えてく……。ソースの濃さと肉かすの旨味が麺に絡んでうまい……」

「富士宮の焼きそばは美味しいですよ。私も時々買って食べています」



 直文は焼きそばを堪能している。■■は食べながら彼に聞く。


「直文さん、失礼ながら組織の上司の方とは……一体どんな方ですか?」


 一個の焼きそばを食べ終えて、蓋をして袋にしまう。直文はもう一個の焼きそばを出しながら答えた。


「不羈奔放でオールマイティ有能な上司。筋は通すが不羈奔放がゆえにお茶目が過ぎる。家族思いで部下思いの情愛深い人ではあるけれど、部下を振り回す。性格が良し悪しなろくでなし」


 文脈が中々で情報量が多いが、間違いなく濃い人物であろう。あの世公認の組織をまとめているとなると、人外に近い人に違いない。バイトをする際に、また会う機会があるかもしれないと■■は考えた。


「……あっ。そうだ。これ、どうぞ」


 彼女は思い出して、直文にヘアゴムと青いネックレスを渡す。彼は箸を止めて置く。


「いいの?」

「はい、元々直文さんに買おうと思っていたものなのです」

「ふふっ、ありがとう。じゃあ俺も」


 直文は彼女から二つを貰い、彼女にヘアゴムを渡す。ネックレスは彼が器用に■■の首へとつけてくれた。つけてくれるとは思わずに、彼女は戸惑う。

 彼は受け取ったヘアゴムを手にして、片手で縛ってある髪紐を取る。彼の髪がほどけるが、すぐに手できれいにまとめる。髪紐を口で加えると、直文はヘアゴムでまとめて縛る。髪紐で縛ったときと変わらないほどの、整った縛り方だ。また彼女のくれたネックレスを身に付けた。髪紐をポケットにしまい、口許を緩ませる。


「うん、しっくりくる。ありがとう、はなびちゃん」


 溢れんばかり輝く笑顔に、彼女は戸惑いを見せる。


「い、いえ……」


 彼女は顔を赤くするが、直文は勾玉の部分を見て不安を感じていた。


「けど、このネックレス……まさかあれじゃないよな……?」

「直文さん。あれとは?」


 彼女は聞く。すると、直文は顔を真っ赤にして気まずそうに視線をそらす。


「……えーっと……あー……うーん……ちょっとね……いや、俺の考えすぎだといいんだけど……ごめん。恥ずかしくて言えない」


 不思議そうに彼女は首を横に傾げる。この時、羞恥心で言えない理由があるんだなと思った。焼きそばを食べ終えると、彼女は結んであるゴムを解いて、直文がくれたヘアゴムで髪を結ぶ。焼きそばを食べ終えた後は、ごみを近くにあるゴミ箱に捨てた。



 夕暮れ時。全員が決められた踊る場所に集まる前に事件が起きる。

 お祭りの服装に着替えようとして、ネックレスを■■が外そうとした時だ。ネックレスが外れないのだ。直文のネックレスは外そうとすると電流が流れる仕組みになっていた。■■は混乱するが、痛みに耐えながら直文が簡単に教えてくれる。

 このネックレスはリンクする使用でやり方次第では相手を守れる。また外そうとするには条件がある。守れるのはいいが、外れないのは困る。

 外す条件を■■が聞いたとき、直文は無表情になった。むしろ真顔と言って良い。

 拳を強く握り、何処かへ向かおうとしている。彼が黒い煙を吐いているように見えた。あまりの怒りように周囲の人々はドン引いている。

 途中でフードの彼と茂吉が慌てて取り押さえた。「あの××上司」とドスの入った声で呟いている辺り、押さえている二人は察して余計に力を入れる。組織の上司に殴り込み行こうとしていた。茂吉の宥めが入るが、彼の怒りが静まるのは踊りが始まる三十分前であった。




 三十分前。空の色は黒く染まりつつあり、一等星の星達が輝く。夕日はすでに傾きつつあった。

 さつき通りでは総踊りの準備が始まっている。祭りのオープニングセレモニーとして太鼓のある場所では、地踊りの次郎長踊りが踊られていた。

 道路には各(チーム)の飾り車や連衆(踊り手)はの荷物を載せた台車がある。連をアピールするボードが一人の仲間によって掲げられている。

 それぞれの(チーム)に特色があり、地元の会社や個人の(チーム)で参加しているものもある。

 ■■達はそのチームの服装に着替えていた。

 全員は片方の袖を振り袖にし、もう片方は袖なしの着物に似た法被を着ていた。下には和柄の長袖の薄着を着ている。腰は浴衣の帯で締め、黒いスラックスを履いていた。スニーカーを履き直して、■■は曲げた腰を伸ばした。

 奈央の隣にはフードとサングラスの男性、澄の隣には茂吉がいて、名無しの少女の隣には直文がいた。


「はなびちゃん」


 直文から声をかけられて、■■は顔を向ける。穏やかな笑顔であった。


「楽しもう!」

「──はい!」


 彼女は嬉しそうに頷いた。

 さつき通りと呼ばれる道路には、多くの(チーム)が並んでいる。前列には見廻頭と呼ばれる進行役と連頭がいて、見廻頭は奈央の父親が務め、先頭へと出ている。

 各(チーム)連衆(踊り手)は多種多様。気だるそうな人もいれば、うきうきしている人もいる。彼女は楽しみにしている方だ。■■は息を吐くと、スピーカーから聞こえる声に耳を傾けた。

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