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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-3章 有度山中の進展
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5 県立美術館での一時

 県立大学の前を通り、公園の入口前を通り角を曲がって少しの坂を上っていく。青々とした木々が道の脇にある。大きな歩道には、芸術性のある銅像と歴史を感じさせる建物とお茶の原木がある。

 目的地が見えてきた。タクシー降り場で茂吉がお金を払い、二人は降りる。大きな建物の前に来て、彼は背筋を伸ばした。


「行ってみたかったんだよねぇ! ロダン関連の芸術の美術館!」


 茂吉はにっこりと笑い、■■は建物の玄関前に来て懐かしさを感じた。

 日本平の麓にある県立美術館。オーギュスト・ロダンに関連する美術品は別の建物にあり、銅像をメインに展示されている。県立美術館に繋がっている為、直接行ける。美術品はロダンだけではない。ロダンと言えば「考える人」だが、これは「地獄の門」という作品の一部である。

 二人は中に入る。真っすぐと階段を上がっていく中、彼女は声をかけた。


「あ、あの、のんびり芸術鑑賞してよいのですか? 私、狙われているんですよねっ?」


 直文は陰陽師を追っており、敵の治重は■■を探しているだろう。のんびりしている暇はないはずだ。彼女の問いに茂吉はけらけらと笑う。


「あっはっはっ! むしろのんびりしてた方がいいって。今の直文は荒魂状態。憤怒しているから変に巻き込まれない方がいいよ」


 彼が激しく怒っている。

 怪異と対峙している際に、直文は加減がなかったように思えた。例をあげると、夢の中の見た彼も加減をしていない。忠告をしているのはまだ優しいのだろう。今回、忠告なしに襲いかかっているならば。

 彼女は恐怖で身を震わせつつ、廊下を歩いていく。

 茂吉は入館料を払い、大学生以下の■■は入館料が無料であるためそのまま入る。

 ロダン関連の美術品を展示している部屋には人が少ない。今、別の展示されているエジプトの美術品を見ているようだ。

 ロダン関連の像が多くある。近くで見れる為、デッッサンをしている人が一人か二人いる程度。真剣にデッサンしている人が多いため、静かになる。

 父から聞いたが、仕事で忙しくない頃はこの美術館でよくデッサンをしていたようだ。

 二人は中に入って、数々の美術品に圧巻された。

 広々とした空間にロダン関連の像がある。

 カレー市民の人々や考える人。真正面にはこの美術館の目玉の一つと言える門があった。他の作品もあるのに、圧倒されるほどの恐ろしさと美しさに目が行く。

 地獄の門。ダンテの『神曲』を元に作られたもの。

 茂吉は遠目から美術品を楽しそうに見ている。


「さっすが、ロダンの作品。でも、地獄の門が未完なのは惜しいけどね」


 階段を降りて、像を見ていく。こうのびのびとするのも気が引けるが、本当に大丈夫なのか彼女は聞く。


「あ、あの、寺尾さんこうしていて大丈夫なのですか?

私だけがどこかにまた引き離される引き離される可能性も……」


 茂吉は首を横に振った。


「ないね。いくら山と言えど、家康公と日本武尊を筆頭に日本平と周辺地域の守護に入ったから、下手に動けないよ。君の草薙神社のお守り自体に日本武尊の力が入っている。名取の社より強い神格だから、直文の加護を相まって弾くと思う。どうやら、日本武尊は名取の社に覚えがあるみたいだから、一時的にお守りに力を宿してくれたよ」


 神が協力してくれるとは思わず、■■は何も言えなくなった。だが、奉られている周辺地域の神々も正体の知れないのは気味が悪いのだろう。人や妖怪に被害が出るのであれば、神も動かざるを得ない。相手側に動きの制限が出来たのならば、身の安全はある程度確保できた。

 彼女は安心するが、彼について行く。

 二人はある大きな門の前についた。

 ロダン。未完の作品「地獄の門」。未完成でありながら、迫力と地獄での絶望を表している様は何とも言えない。地獄の門の説明の内容を見ながら、茂吉は笑う。


「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ、かぁ。実際は人の感覚次第なのにさ」


 空虚な瞳で地獄の門を見つめて笑っていた。


「自分の姿に似せた人と言う罪な存在を産み出した時点で罪なのにねー。あーあーこんな自分も嫌になっちゃうよ」


 声色は明るく表情も笑っている。

 ただ茂吉の瞳には人らしい感情は宿っていない。ただ門を見つめている。明るそうに見えて闇は深かった。直文の境遇は中々だ。半妖は過去に弊害があったのか、少女はゆっくりと聞いた。


「その、失礼ながらお聞きしますが、寺尾さんは直文さんと同じような辛い境遇だったのですか……?」

「いや、ないよ。俺は本当に寺生まれ寺育ち。父親も健在。父親の元には時々顔を出すくらいは仲がいい。ああ、けど、俺のようなまともな境遇の奴は組織では少数派だな」


 即答だ。茂吉がまともな境遇とは思わなかった。闇深い発言はなんだったのかと、彼女は拍子抜けする。質問の意図を茂吉は察した。


「なるほどねぇ。俺の発言で辛い境遇持ちかと思ったんだね。けど、ないよ。はなびちゃん」

「えっ、じゃあ、なんでそう卑屈になるのですか……?」


 聞くが彼は地獄の門に背を向けて、一階へと歩き出す。読めない人だと思いながら、彼女もついていく。

 一階につくと、地獄の門の解説やミニチュアサイズの地獄の門が展示されていた。■■は小さな地獄の門の前に立つ。気付くと、茂吉は視界には居なかった。


「あいつに怒られるけどさ。直文が大切に思う君だから教えておくよ」


 背後から声が聞こえて、■■は振り替える。彼は大きな地獄の門を背に両手を広げて明るく笑っていた。


「卑屈になるのは当然さ。俺達、組織の桜花の半妖は元々地獄で裁かれている罪人だった生まれ変わり。あり得ぬはずの半妖として誕生した罪人。つまり、地獄で刑罰を受けている罪人の転生者。元々は地獄の住人だったんだから卑屈にもなるよね☆

まあ地獄の住人だった自分の存在なんて、転生しているから記憶にないんだけど。増えすぎた地獄の住人を現世の獄卒として再利用。

リデュース、 リユース、リサイクル♪ これぞ、地獄の3R!」


 罪人。急に重い真実を打ち明けられて、■■は頭が真っ白になる。理解してきた情報が急に抜け出した。

 組織の半妖。直文も罪人。陽光のように優しく笑う彼が、罪人だとは思えなかった。だが、■■は勘づいていたことがあるが、口にしたくなかった。現実だと思いたくなかったのだ。


「……まさか、自分達が罪人だからと言う理由で妖怪だけでなく人も……」


 殺している。

 いいかけて彼女はやめる。ここは人のいる美術館であり、下手な発言はできなかった。茂吉は微笑みを楽しそうなものに変えた。

 人差し指の腹を見せて振って、笑みを深くする。


「ちょーっと違うかな。罪人だから平気に殺るんじゃない。立場は獄卒と同じで、仕事の一貫だから殺るのを許されている」


 人差し指を下ろし、彼は笑みを消す。


「けど、人殺しを好まない半妖が大半だ。例え、前世が根っからの悪でも生まれ変わる前に善良さを入れてぐちゃぐちゃに混ぜられるらしくてね。それで、健全な人の精神を持つ半妖として生まれ変わる。半分人外だけど半分人。人の部分を持つが故に苦しむ。そう、これは俺達の存在そのものが自身への刑罰だ」


 自分自身の存在そのものが罰で罪。彼ら組織の半妖はそれを常に自覚しているのだ。彼は深い息を吐くと、あっけらかんに笑う。


「ごめんごめん! 十五歳になる子に話す内容じゃないね☆」


 その通りだ。組織の根幹を打ち明けられ、受け止められる精神を今の少女は持ち合わせていない。彼女は何も言えない。何か言おうとしても、口がパクパクと動くだけだ。


「でも、幸せになるなとは言われてはいない」


 その一言を聞いて、■■は茂吉の顔に焦点を合わせる。彼は目の前に来て、話を続けた。

「組織の半妖は、幸せな家庭を築いた人もいれば恋人もいるんだよ。そこの過程は人と同じ。回りくどくてごめん。実はこれを言いたくて、はなびちゃんに色々と話したんだ」


 茂吉はいつもの無邪気な顔ではなく、穏やかな表情をしていた。


直文(あいつ)をよろしく頼むよ。仲良くしてやってくれ。直文の想い人のそっくりの君だから託せる」


 茂吉から答えを教えられたような気がした。今までの話を総括して考えれば、直文の優しい理由が判明したような、そうじゃないような。曖昧だが、彼女の気持ちに渦巻いていた嫉妬は、ストンと腑と共に落ちた。

 顔を紅潮させていき、■■は戸惑いを見せた。


「……えっ、それって……そんな……えっ」


 茂吉は楽しそうに見ていた。


「ふふっ、本当かどうかなんてわからないよぉ? 君がどう思うかは君次第。直文は名誉毀損だのプライバシーの侵害だの言うかもしれないけど、教えないあいつが悪いな」


 ■■の予想なんて正しいかどうかはわからない。だが、茂吉は悪戯が成功したように微笑む。■■は茂吉の考えがわからなかった。本来の意味での確信犯なのか、誤用である故意犯の方なのか、どちらかがわからない。今までの話からして、気付かせるつもりだったのだろう。だが、一つだけわかったことがある。茂吉は存外仲間思いなのだ。


「……応えられるかどうかはわかりませんが……」


 茂吉を見据えて、■■は笑って見せた。


「直文さんとはたくさん仲良くしたいので、まず貴方とお話しさせてください。寺尾さん」


 互いを知るには対面をして話した方がわかる。茂吉は一瞬だけ驚いて、また嬉しそうに笑った。

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