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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-3章 有度山中の進展
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2 日本平の策動

「……えっ、仲間!?」


 間をおいて■■は驚く。いきなり保護から仲間へと昇格したこと。またアルバイトとして雇われる。唐突な優遇に驚くしかない。直文は訂正と説明が入る。


「アルバイトとして正式に雇うのは来年だ。来年になったら、君の両親には話を通しておく。ああ、就職なら俺達の組織で働けるように手配しておくよ。あと、口座も作っておいてね」


 お金を稼げる楽しさに一瞬だけ溺れかけた。彼女は口座を作っておくようにと言われて固まる。アルバイトは現金で貰う印象があった。口座さえ作れば振り込む場所もあるだろう。だが、問題は額だ。


「あの、時給はいくらですか?」

「はいはい、俺に任せてねー。ええっと」


 茂吉が声をあげて、携帯の画面を操作して見せる。そこに表示されている額に彼女は唖然とした。学生が余裕綽々で遊べる額がそこに載っているのだ。時給はないが、仕事の度に大きな額が振り込まれるのだろう。

 彼は画面を見せながらにっこりとしていた。


「言っておくけど、これはほんとーに適正額ね。あと、自分の命を守るために保険の加入はしておくようにね。来年になったら書類を送るよ。接客か事務系のアルバイトって形で書類は送られるから、最初見るときは困惑しないでね。はなびちゃん」

「は、はぁ…………えっ? 命を守る? 保険?」


 キョトンとする彼女に、茂吉は普通の笑みを作る。


「守りはするけど、直文も俺もパーペキに守れる訳じゃない。俺達の組織は普通の人間には本当に危ない場所なの。その為の適正額に福利厚生だ。無論、組織が運営している保険会社を勧めるよ。福利厚生とその他の保険もちゃんとしてるからね。これが俺たちが君にできる責任の取り方かな」


 説明を聞いて、■■は納得した。

 危険な目に■■は遭っているが、仲間になった場合は頻度が増すだろう。怪我や死亡した場合、何処からか補填をしなくてはならない。つまり、勝手に巻き込む以上、彼らも責任を取ろうとしているのだ。

 当たり前だとしても厚待遇である。己のせいで名前を奪われたのに、守ろうとして責任を取ろうとしてくれるのだ。■■は頭を下げて、二人に感謝した。


「すみません。ありがとう、ございます」


 直文は優しく笑う。


「はなびちゃんは巻き込まれただけなんだ。だから、こっちに責任を持たせて」


 優しい彼に彼女はまた感謝の言葉を述べた。




 このあと、お昼を取る。

 直文と■■はかき揚げの定食を頼む。茂吉はメニューにある食べ物とデザートの全てを頼んだ。店員は一瞬だけ驚くが、茂吉の食べる姿を見て呆然としていた。食べ終えると次のメニューが運ばれ、食べられていく。周囲の客も唖然としていた。それを作る料理人も驚いている。

 すべてを完食し終えると、周囲からは拍手と褒め称える声が上がった。茂吉は照れるが、直文は呆れる。■■は他人の振りをして水を飲み続けていた。




 店を出ると、茂吉とは別れる。食べ歩きで久能山の麓へ向かう為にロープウェイへと向かっていくらしい。二人はホテルの庭を散策させて貰うことにした。見事な絶景に■■は表情を輝かせている。直文は風景を見つめて優しく笑った。


「夜もいいが、やっぱり昼の方がいいな」

「直文さん。夜の日本平を知っているのですか?」

「ちょっと前にね。日本平の祭りに行ったことがあるんだ。花火が打ち上がる祭りは、必ず行くようにしている。日本平の花火を見たのはここ最近ぐらいかな?」


 彼の新しい感覚はわからないが、花火のお祭りに必ず来ているらしい。

 東京の河川敷で■■は、初めて花火を見た日を覚えている。物心ついた頃だが、空には多くの大輪の花が咲いては散っていた。

 川に映っている花火と空の花火が同時に動いていたのだ。儚く散っているのに、花火という花の名前の癖に火薬臭い。けれども、華やかで空の花は見栄えが良く、彼女を魅了した。

 あの花が好きだ。彼女は声を出して昔にあった屋号の名を叫んだのを、思い出しながら話す。


「花火はいいですよね! 私はとても大好きです。遠くからでも近くからでも見えるのがとってもいいです!」


 ■■の顔が明るい笑顔で満たされる。熱中するほど好きなのだ。夏になると小さな花火をねだるほどに。好きな理由は彼女にはわからない。好きなものは好きなのだとしか、言えなかった。

 直文は一瞬だけ瞠目して、泣きそうになりながら破顔する。


「ああ、そっか。うん……ふふっ、そっか。なら、良かったよ」


 何で嬉しそうなのかはわからない。■■は朝に感じた疑問を口に滑らせていた。


「直文さんには、大切な人がいたのですか?」


 疑問に直文は驚いて、照れ臭そうに笑う。


「うん、居たよ。けど、もう彼女は昔の人。もう会えない」


 やっぱり昔の彼女が好きなのだと■■はわかった。諦める前にどんな人なのか聞いておく。


「どんな人なのですか?」


 直文はじっと■■を見つめる。見つめ続けられて名無しの彼女は戸惑い、同じように見つめた。彼の瞳は今は黒い。変化すると金色になる。姿が変わるだけで、直文は変わっていないのに不思議な魅力を■■は感じていた。吸い込まれかけていると、彼は無邪気に笑って彼女の額を小突く。


「秘密だ」

「えっ!?」


 コツンとつかれ、間抜けな声を出す。直文は笑いながら手をポケットに引っ込めた。


「言うと俺自身色々と大変になるから言わない。けど、大丈夫。あの子は大切な人ではあるけど近くにいる。元気にしている」


 意味はわからなかったが、不思議と■■の胸の内にあるモヤモヤとした気持ちがなくなった。理由も名無しの彼女はわからない。戸惑いだけが残り■■は聞く。


「……それは、どういうことですか?」

「そのままの意味だね」


 余計に名無しの少女は混乱した。はぐらかされたわけではない。どういうことなのかと考えて、少女は歩き出す。ポケットにあるお守りが熱くなり、■■は驚いて取り出した。


「っ、直文さん。お守りが……えっ」


 直文の姿はない。

 影も形もなく、バッグから大きな震えを感じた。慌てて取り出す。携帯のバイブであり、着信画面に直文と名が表示されていた。彼女は操作をして電話に出る。


「もしもし、直文さん!」

《もしもし、君はまだそこにいるかい?》


 冷静な声色に彼女は安心して頷き、答える。


「はい。まだホテルの庭にいます」

《そうか。……君の言うとおり、移転される際に名取の社を見たよ》


 直文の言葉に彼女は息を呑む。名取の社。少女が名前を奪われる原因となった存在だ。怪異関連には慣れているのか、電話からは落ち着いた声が響く。


《相手はどうやら俺と君を離れ離れにしたかったようだ。君だけを手元に手繰り寄せるつもりが、お守りが発動して間違って俺が飛ばされたようだね。今、俺は薄暗い変な部屋にいるよ》

「そ、そんなこと可能なのですか?」

《条件さえあれば可能だ。それに、ここは日本平。神話かつ心霊スポット、神社がそれなりにある山だ。術が達者で力量がある人物なら可能だろう》


 電話越しの彼は一息をついて話す。


《まず、君一人では危険だ。茂吉と合流する為に、久能山に向かってくれ。徳川公が奉られている神域にいれば、多少の術も跳ね返せるはずだ。不安ならば東照宮へ入るんだ。いいね?》

「……直文さんは?」

《俺は相手を追い詰める。茂吉にも連絡しておくから急ぐんだ。じゃあ、また後で会おう》


 電話が切られた。音だけが響き、彼女は携帯を不安げに見るが急いでしまう。恐らく、お守りだけでは守りきれないという意味なのだろう。

 ■■は久能山に向かうロープウェイ乗り場へ行く。その前に、チケットを買わなくてはならず、券売機と売り場に向かうと混んでいた。

 観光地なだけあり、人は多く、チケット売り場には多くの人が並んでいる。彼女は手早く済む券売機の方へと並ぼうとしたとき、瞬きをした。

 一回目の瞬きで、小さな社が遠くに見えた。

 二回目で消えるが、お守りが入っているポケットからぶちっと音が聞こえる。

 三回目では周囲が歪んでいるように見えた。

 四回目の瞬きで、薄暗く埃っぽい部屋にいる。

 外から室内に変わった。

 埃や土臭く、物が古い。床は破片だらけ。周囲は割れた窓ガラスから日差しが入り込む。

 廃虚だが、彼女の周囲にはキョンシーのように顔に札を貼られた男女が十人ほどいた。彼らの目に生気はなく、ただこちらをじっと見続けている。


「やっと、最高の器が我々の元に来た」


 声が聞こえ、顔を向ける。男女は歩み寄ってくるスーツの男に対して道を開けた。四十代ほどの男だ。年相応に顔は整っているが、目には怪しいものしか宿っていない。■■は見覚えがある人物であった。彼は丁寧に頭を下げる。


「初めまして、お嬢さん。僕は賀茂系の陰陽道を受け継ぐ者、幸徳井家の治重。こう見えても陰陽師をしております」


 穏やかに挨拶をしてきた。

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