夏祭りの少女
平成17年。西暦2005年の夏。
知名度は高くないが、ある県の祭りで夏祭りが行われる。この祭りが終われば、秋が来るのだと一部の市民は言う。
その中で祭りを楽しそうに見ている少女がいた。小学四年生の少女は地元の祭りを親と一緒に楽しんでいる。
スピーカーからは明るく軽やかな曲が流れてきた。通行を封鎖した道路で法被を着た人々が踊る。花火の法被を着た少女はお面を頭につけて、踊る人々と共に踊っていた。彼女は毎年踊りに参加している。
ロックの利いた曲調を楽しみながら踊った。
「よいーとな、よいよい!……あれ?」
少女は下駄の音しかないと気付く。周囲には人がおらず、提灯の明かりもない。
首を動かす。後ろには人々がいる祭りの通り。横には小さな低木。彼女は建物の間にいた。真正面には小さなお社が存在している。
風情のあるボロいお社。少女は瞬きをして、何気なく両手を合わせながらお社にお参りをした。
どんっと衝撃が襲ってきて体が揺れる。少女は驚いて目を開けた。いつもの屋台と踊る人々、見物する人々が歩道にいた。彼女が参ったお社はなかった。賑やかな音楽と人々の声が聞こえ、少女はびっくりする。
「今の……なに?」
何が起きたのかがわからないまま、彼女は驚く。少女の母親が遠くにいる。彼女を見つけて駆け寄って来ると、目の前に来て少女を叱る。
「もう、やっと見つけた。楽しいのはわかるけど、勝手に行かないの!」
「……ごめんなさい」
彼女が謝ると、母親は仕方がないと息を吐く。
「もう、次は気を付けなさい。■■は楽しくなると周りが見えなくなるんだから」
少女は目を丸くする。自分の名を呼ばれたのはわかったが、その名前がわからなかったのだ。娘の様子が気になった母親が声をかける。
「■■。どうしたの?」
聞かれて、彼女は恐る恐る聞く。
「……お、お母さん、私の名前わかる?」
母親は瞬きをして、おかしそうに笑った。
「当然よ! あなたは■■。■■よ。もう、何を言っているのかしら。ほら、行くわよ」
手を引かれて、少女は何も言わずについていく。母親の口から自分の名前が出ない。彼女はお母さんがふざけているのだと思った。だが、名前を自分の口で滑らした。
「■■……私は……■■■■…………えっ……」
彼女は呆然とした。自分でも名前は言えない。
この日の夏、■■■■は自分の名前が無くなってしまった。




