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平成之半妖物語  作者: アワイン
3 番外
191/196

ex 第三回 ドキっ♡と女子会恋バナトーク

「第三回ドキッと女子会恋バナとぉーく。先輩の恋バナ、聞いてくよー! はなびちゃん!」

「待ってましたー!」


 パジャマ姿で拍手をする奈央と依乃。澄は後輩のはしゃぎように困ったように笑う。シェアハウスの澄が泊まっている部屋でその女子会は行われた。

 お泊まりは今日で最後であるため、奈央が企画したのだ。後輩二人から恋バナを聞かされた気持ちが少しわかる。しかし、話さない身としては不公平であり、澄は仕方なさそうに微笑む。コップを置いて、二人に優しく話しかける。


「まったく、私の後輩は仕方ないなぁ。いいよ、何でも聞いて」


 後輩は先輩の背から後光が見えた気がし、奈央は眩しそうに見つめる。


「せ、先輩の懐が大きい……! じゃあ、寺尾さんを好きになったきっかけを聞かせてくださいっ!」

「奈央の遠慮なく聞くところ、私は好きだよ。んー……そうだなぁ」


 苦笑したあとに、彼女は黙って思い出す。茂吉を好きになったきっかけは憧れであった。憧れから慕い始めて、彼を理解しようと一緒にいようとした。悪い部分を知り、良い部分も澄は知っている。

 好きになったきっかけ、恋心を抱いた時期はいつなのかは彼女の中では曖昧であった。澄は部屋のドアの方を一瞥して、話を始めた。


「……二人は前の私の過去を聞いたと思うけど……私は初めから一緒にいていつの間にか彼が好きになっていたんだ」

「いわゆる、初恋ドロボー……ですね?」


 依乃の指摘に澄は笑ってしまった。


「あっはっはっ、初恋ドロボー。うん、正解。そうだね、私の初恋の人が恋人になったんだ。今考えればすごいと思うよ。あの時、告白した私を褒めたいし、あの頃の茂吉くんには罪作りって言いたいよ。小さい頃から優しく面倒を見てくれれば、恋心を持つ子はころっと行くよ」


 明るく笑うが、澄は本当にあの頃の自分を褒めたかった。好きなのもあったが、不安もあったのだ。いつか、彼が消えてしまっても構わないと投げ捨ててしまう機会があるのではないかと。今では人のことは言えないと一瞬だけ苦笑し、話を続けた。


「うん、好きになったきっかけはわからないけど、好きになるのに理由なんかいらなかったよ。あの頃の私は本当に恋をする乙女だったなぁ」

「けど、寺尾さんが恋人なら、先輩の反応が色々と納得できます。澄先輩は本当に寺尾さんが好きだったんですね」


 後輩の依乃から微笑ましく言われて、澄は照れながらもはにかんだ。


「うん、本当に愛しているよ。性愛、友愛、家族愛、愛の意味全部ひっくるめてね。茂吉くんには、一緒にいて一緒に生きてほしいんだ」


 愛の告白を聞いたようで、奈央と依乃は顔を赤くして恥ずかしくなる。先輩が簡単に愛の告白をサラリと吐くことに、後輩は驚かずにいられない。

 話したあとに、澄は一年前を思い出す。

 前の澄は茂吉と長くいたこともあり、高島澄として彼と再会した時は衝撃を受けた覚えがあった。

 いつもの温かな笑みはなく、貼り付けたようなハリボテの笑み。

 元から茶目っ気はあったが、その茶目っ気という土台に酔狂言なお調子者というハリボテを見せつけられた。覚えていなかったとはいえ、覚えていても衝撃を受けて違和感を抱くだろう。

 あの時再会した頃を思い出し、澄は吹き出す。先輩が笑い出したことに、後輩は二人は驚く。


「あ、ああ、ごめん。ちょっと一年前の再会を思い出してね」

「……あっ、もしかして夏祭りのときの?」


 奈央の言葉に澄は何度も頷く。


「そうそう、あの時、茂吉くんは「俺に見惚れちゃった?」って言ってたじゃないか。あの時に思い出して、元々惚れてるよって言えばよかったなぁって思ったんだ。そうしたら、茂吉くん。凄く慌ててたんだろうなって」


 恋バナを聞いて奈央は赤くして興奮し、依乃は慣れていないのか恥ずかしがっている。澄はドアに顔を向けて、大きな声で話しかけた。


「ねぇ、茂吉くん。君は「俺に見惚れちゃった?」って質問に「元々惚れてるよ」って答えたら、君は慌てるかい?」

「「えっ」」


 後輩の二人は声を出す。すると、僅かにドアが開く。


「──……ねぇ、君には羞恥心がないの?」


 茂吉の返事が響く。声が震えて恥ずかしそうであり、脱力しきったようにも思えた。茂吉が居るとは二人は気付かなかった。ドアの隙間から茂吉は話を続けた。


「そもそも、ここを通って俺だって気付くかい? 澄」

「気配がしたのは気付いたけど、茂吉くんだと思ったのは何となくだよ。それで、茂吉くんは何のよう?」

「……そろそろ寝なさいよーっていう声掛けだよ。声を掛けようと思ったら……まさかの……」

「気になったんだね」

「……あのね、彼氏持ちの女の子の恋バナは、ある意味彼氏の評価なんだから気になるだろ」


 ドアが完全には開かず、僅かな隙間で会話をしている。澄はドアに近づいていき、ドアの隙間を大きくする。

 周囲を見回すと、すぐ近くに茂吉はいた。入口の横で寄りかかって座っている。顔を俯かせて、深い溜め息をついていた。

 耳が赤くなり、茂吉は照れている。話のすべてを聞いて、愛の告白を受け、恥ずかしい時期の記憶を引っ張り出され、澄が思い出したことの後にも、恥ずかしい目にあうとは考えられない。

 照れている彼に、澄はおかしそうに笑って聞く。


「ねぇ、茂吉くん。君は元々惚れてるよって答えたら、どうするつもりなんだい?」


 からかいを含めて聞く彼女に、茂吉は顔を上げるが真顔であった。

 してやられるばかりの彼ではない。彼女を引っ張る。僅かに空いている澄の唇を茂吉は自らの唇で塞いでやる。一瞬にして行われたことであり、茂吉は顔を離した。澄は呆然とし、しばらくして顔を赤くし興奮して唇を押さえる。

 茂吉は楽しそうに笑って、澄にデコピンをした。


「こうしてやるつもり。早く寝なよ。とーる」


 余裕を見せて、茂吉は立ち上がって自室に戻っていく。余裕を見せるが、足取りには苛立ちが含まれている為、彼に余裕があったわけではない。

 茂吉が部屋に戻ると、澄は部屋の入口でぼんやりとしている。心配になった後輩の二人が先輩の顔を確かめに行く。

 二人の先輩の顔は熟れた林檎のように真っ赤であった。



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