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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-2章 彼女に幸 敵には凶
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3 ■■と奈央

 あの後から、勉強をして夕食を食べてゆっくりと世間話。奈央がお風呂に入っている間、直文と彼女は二人っきりになる。二人はソファに座って、直文は険しい顔になっていた。


「急になりふり構わなくなってきたな」


 彼女は首を縦に振る。前回は別の人間が巻き込まれたのに、今回は奈央を巻き込ませた。関係のない友人を巻き込むのは■■は許せない。


「相手は奈央ちゃんに呪いをかけて、私に何をしようとしたのですか?」


 聞かれて直文は冷静に答える。


「相手側は田中ちゃんを呪具による生物兵器に仕立てようとしたのだろう。ゆっくりと夢から彼女の何かを変えていって、場所関係なく呪いを発動させる生きた呪具に変化させようとした」


 彼女は息を呑む。

 相手側がしようとしたのは無差別テロそのもの。よくニュースやネットでテロの話題が流れてくる。■■は友人を酷い目に合わせようとした相手が許せない。拳を強く握り奥歯を噛む。直文は彼女の怒りの表情を見て、話を続ける。


「直接は手に入れようとしたこともあるだろうが、難しかったんだろう。だから、間接的に手にいれようと相手側は都市伝説の怪異を利用した。……余程、君を手にいれたいようだな」


 直文から言われて、彼女は肝心な疑問を思い出した。

 五年間、名無しの状態でなぜ失踪しなかったのか。彼女は聞こうとして、直文は急にドアの方を見た。ドアが開き、■■は首を向ける。奈央がタオルを肩にかけてパジャマ姿で現れる。髪の濡れ具合からして出たばかりのようだ。


「やっほー、はなびちゃん。あいたよ。桃の香りのバスボム、楽しめたし気持ちよかったよ。本当にいい湯加減でした!」

「う、うん。よかった」


 桃の香りのバスボムは直文が組織から取り寄せたもの。邪気が来ないように調合したものだ。実際に彼女も浸かったが、体が軽くなっていく。直文は思い出したかのように声を上げた。


「ああ、そうだ。田中ちゃんにこれを渡そうと思っていたんだ」


 立ち上がって、奈央にお守りを渡す。奈央は黄色のお守りで紐は青かった。手の込んだお守り袋に向日葵の少女は感謝する。


「私にもいいんですか? ありがとうございます!」

「はなびちゃんも同じようなものを持っているしね。一緒の部屋で寝るなら持っておいた方がいいよ。二人とも離さず持っていてね」


 直文の言葉に二人は頷いた。





 彼女もお風呂に入り、最後に直文が入浴後片付けをしてくれることになった。客用の布団を引いて、奈央は入り込んでいる。髪を乾かし終え、彼女は片付けを終えて、電気を消す。■■はベッドに入り込むと。


「はなびちゃん。久田さん、いい人だったね」

「奈央ちゃん。いきなりどうしたの?」


 聞かれて彼女は奈央に顔を向けると、不安げに見ていた。


「ちょっと不安だったの。会って日の浅い男の人と急に一緒に住むなんて心配するよ。私のお父さんとお母さんも心配してたもん」


 親が海外で仕事しに行き、一人で家に居ると時折奈央や彼女の親族が遊びに来て泊まってくれる。今回の直文が急に滞在したと聞いて、奈央達は当然驚くだろう。今回の泊まりはいつも通りではあるが、様子を見る目的もあったのだ。


「けど、いい人でよかった」


 笑う友達に、■■は申し訳なさを感じた。


「……心配してくれて、ありがとう。奈央ちゃん」


 訳があって直文は滞在しているのだが、その理由を話すわけにはいかない。奈央の居ない時に、事情を話してもいいかと彼に相談したが、首を横に振られた。利用されただけであり、完全にこちら側に巻き込まれてないと理由を述べられた。呪いをかけただけでも十分巻き込まれていると彼女は反論した。まだ彼は首を横に振る。情報を容易に与えるのは危険と言われた。彼の真剣な口ぶりからして本当に危険だとわかり、■■は黙っていると決めた。

 奈央は不思議そうに友を呼ぶ。 


「はなびちゃん。どうしたの?」

「……えっ、あっ、いやなんでもないよ」


 彼女は慌てて返すと、奈央は楽しげに質問する。


「あっ、ねぇ、はなびちゃん。今年も港祭りでかっぽれを踊るの?」


 友達の問いに彼女は楽しそうに頷いた。


「踊るよー。だって、花火もうち上がるし、かっぽれを踊らないとこの町に夏が来たって感じないもん」


 かっぽれ、漢字では活惚れと書くと言う。伝統ある踊りであり、各地方によって踊りが異なる。また、彼女たちの地元で踊られているかっぽれも特有のものだ。■■は欠かさず連の一人として参加しており、踊りも踊れる。

 ■■は思い出したように声をあげる。


「ああ、そうそう、今年、先輩も参加するって」

「澄先輩! 懐かしいなぁ。あの人、高校頑張ってるかなぁ」


 二人には一つ上の先輩がいる。県外から来た先輩であるが、彼女たちはお世話になっており、代わりに地元をよく案内していた。現在は地元の高校に通っている。久々に会う先輩に■■は楽しみだった。


「で、久田さんは祭りに誘うの?」


 ■■は踊る側であり、彼は見る側になる。変に意識してしまう■■は動揺しながら答える。


「さ、誘うも何も、直文さんは今、保護者のようなものだから来ると思うよ」

「そっかぁ」


 残念そうに呟く友達。■■はわかっていた。彼は自身の名前を取り戻したら隣にいないと。僅かに生まれそうな気持ちに、彼女は蓋をして塞いでいる。


「そうそう、はなびちゃんに言う事があるんだけど、実は私も港祭り、総踊りにお父さんと一緒に参加します!」

「ええっ!?」


 声を上げて目を丸くする。奈央は踊りの参加は幼稚園以来であろう。踊りも幼稚園から踊っていない。向日葵の少女は苦笑をした。


「お父さんがはなびちゃんと同じ(チーム)にしてくれたの。中学最後の夏だから記念を残しておこうかなと思って、先生に無理を言って夏休みの部活動はやめたの。踊りを忘れちゃったから、お父さんと一緒に頑張って練習したけど……」


 思い出作りの為の参加らしい。■■は嬉しそうな顔をしながら目の前に座る。奈央はきょとんとする。肩に手を置いて■■は不敵な微笑みを作る。


「なら、徹底的にしごかないとほら。明日から振り付けの完成度を上げていこう? 日にちも迫っているからさ」


 含みがある怖い声色に、奈央は顔が引きつる。


「は、はなびちゃん? まさか、くすぐりの刑と久田さんのことしつこく聞いたので怒ってるの!?」

「さあ? 明日から楽しみにしててね。奈央ちゃん♪」

「そんなぁぁぁ!」


 少女たちに直文から「近所迷惑になるよ」と注意されるまで、はしゃいでいた。

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