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平成之半妖物語  作者: アワイン
3 番外
184/196

2 任意の任務

 料理を人数分運び、テーブルに置く。

 野菜のスープに半熟に近い柔らかな目玉焼きの近くにボイルしたウインナーがある。刻まれたキャベツに明るい赤色を放つ瑞々しいトマト。近くにはお茶碗のご飯などがある。

 少女達は普通量。直文と八一は成人男性が食べる普通量。茂吉はどんぶりごはんがヒマラヤ山脈並の大きさであり、スープも小鍋に入っている。

 目玉焼きも何個割ったのか、もりもりと持ったボウル皿のサラダの上に乗っている。ボイルしたウインナーも何個かある。奈央と依乃はスペースキャットのような状態になっている。茂吉は三人の少女に向かって顔を赤くしてヤケになって話す。


「……知ってると思うし、申し訳ないけど……俺結構燃費が悪いから適した皿がないんだ。はい、澄。そこで笑わない!」


 叱る茂吉に、澄は涙を流しながら笑いを堪えていた。我慢ができないのか、口を開けて笑い声を上げた。


「ふっはっはっ……だって……! 相変わらず食べるだなぁっていうよりも、料理を彩るお皿が小鍋とボウル皿なのが……ぷっ」

「本職が忙しくて見合う皿がなかったんだよ! 悪いかっ!?」

「はっはっ……ごめんごめん! けど、変わらずの君で嬉しいよ」


 頬を赤くしたまま拗ねた茂吉は食事の挨拶をした。箸を手にしてご飯を食べていく。食べる彼を澄は嬉しそうに見つめて、同じように挨拶をしてから食べ始める。

 後輩の二人はやり取りを呆然と見つめ、四人で食事の挨拶をした。澄が茂吉をちらっと見つめるが、見られた本人は赤い顔のまま無視している。

 奈央は感嘆した。


「……澄先輩。あの寺尾さんを翻弄してる」


 八一は話を聞いて、奈央に話す。


「基本、こいつらは翻弄したりされたりだったし。それに、茂吉自身、面倒見てきたのもあって澄ちゃんには滅法弱いんだよ」

「八一さん。それって、惚れた弱みなの?」

「そう」


 八一は頷く。八一とのやり取りを見て、茂吉は不機嫌な顔をしてヒマラヤ山脈級のどんぶりご飯の高さを減らしていく。

 澄の記憶が戻り、茂吉も猫を被る必要がなくなった。い。

 何故、茂吉が不機嫌で捻くれた反応をするのか。その理由は、自分を偽っていた時期が長く、澄には自分を偽っていた時期で接していたからだ。た。自分の目的を潰されたこともある。言わば、キャラではない姿を恋人に黒歴史を記録されたようなもの。本当の寺尾茂吉は、茶目っ気のあるネガティブ寄りの冷静で面倒見のいいお兄ちゃんだ。

 茂吉は富士山ほどのご飯の量になると溜息をついて、澄に話しかける。


「……それで、数学と科学はわかったのかい?」

「うん、結構理解できた。けど、今思い返してみると文明がかなり進んだね」

「君がいない間の文明の進みは目まぐるしかったよ。どう? 日本が平和な時代に生まれて」


 茂吉に問われ、澄は切なげに話す。


「……平和でいいけど文明の進みが早い分、人の悪意も目立ってきた」た」

「うんざりしたかい?」

「まさか」


 茂吉に聞かれ、澄は笑う。澄はよ乃と奈央を見て、楽しげに語る。


「優しくて自慢の後輩もいるんだ。うんざりはしていないよ」


 先輩の答えに奈央は嬉しそうに微笑み、依乃は照れてご飯を食べている。恋人の答えを聞いて、茂吉は満足そうに笑った。


「はぁい、穏やかな雰囲気のところ悪いけど、組織のお仕事のお話をしてもいいか?」


 八一が声をかけ、全員が顔を向ける。彼は茶封筒を何処からともなく出して、テーブルの上に置いて見せる。


「朝、ポストの中に入ってたこれ。切手とか貼られてなかったから、入れられたんだ」

「誰かの悪戯じゃないの?」


 奈央は聞く。普通の人からすればただの茶封筒に見えるが、八一は手紙をつついて微笑む。


「ああ、奈央は見ようとすればわかるよ」

「見る? ……ああ!」


 彼女は息を吸って、スイッチを入れて神通力の天眼通てんげんつうを使用する。依乃は体質のおかげで見えるため手紙を見る。茶封筒には僅かだが青い色のオーラがまとっている。手紙から放たれるオーラで判別しているらしい。

 悪い気を感じず、依乃は不思議そうに手紙を見る。


「不思議……澄んだ気配で気持ちいい感じがする……」


 依乃の話に直文はお茶を飲みながら答える。


「組織の場所は現実にはないからね。入口は空を飛んでいくか、海を潜っていくか。何処かにある黄泉比良坂よもつひらさかの入口を通る。もしくは、きさらぎ駅を利用して辿り着くかね」


 依乃と奈央は四人が半妖であると知っている為、受け入れられた。

 茂吉は封筒を手にして、口を開けて手紙を取り出す。折り畳まれた紙を広げて、茂吉は書かれている任務内容を読み上げる。


「【任務 清水の桜ヶ丘にある県立の高校を調査せよ。参加は任意とする】」

「……任意? ですか? 任命ではなく?」


 依乃はきょとんとしていると、直文は教える。


「然程重要じゃないけど調べる必要がある任務ということだね。本当に重要なら、先生か上司の方で適材適所の相手を記すはずだ」

「つまり、今回は参加するかどうかは個人の自由なのですね、直文さん」


 依乃に対し直文は頷き、八一は奈央に目配せをする。見られた向日葵少女はビクッとして震え、八一は意地悪く微笑む。


「じゃ、今回、私と奈央で出るね」

「ちょっと、八一さん!」


 当然、奈央は慌てて抗議の声を上げた。

 八一による神通力の使い方の指導の目的での参加だ。しかし、その度怖い目にあっている奈央は拒否をしたい。が、何かと物につられて参加をさせられている。今度こそ、奈央は抗議をした。


「神通力はそれなりに使えてるよ! それに、出るって一言も言ってないし」

「近くに、実は美味しい手づくりケーキ屋さんがあるんだ。県内では有名店。お値段も張るけど、頑張ったら私が奢ってあげるよ」

「一番! 田中奈央、いきます!」


 ケーキで釣られた奈央は目を輝かせて挙手し、一本釣りで奈央が参加を決めた。いつものちょろさに依乃は苦笑していると、澄も頷いて話す。


「じゃあ、二番手、高島澄、行こうかな」

「……君も行くのかい?」


 拍子抜けで茂吉は答え、澄はにこやかに話す。


「当然。動いていない分、組織の半妖として早めに復帰できるようにしたい。駄目?」

「……駄目じゃないけど……………………………………………………………………………………………………俺も行くよ」


 長く間を置いて、仕方なさそうに答えを出す。澄は嬉しそうな笑顔を浮かべ、茂吉は気まずそうに視線をそらして頬を赤くしていた。


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