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平成之半妖物語  作者: アワイン
3 番外
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1 日々穏やかに

 真夜中、使われてない教室。

 学生服を着た男子が机の前にいた。教室の真ん中にある机には、火のついた二つの蝋燭ろうそくがついている。真ん中に買いたての犬の人形と市販のクッキーが置かれた。男子生徒は両手を握り、願うように口を動かす。


「三年二組の井口くん。三年二組の井口くん。どうか、お助けください。僕を傷付ける    、    、    。先生の    を滅茶苦茶にしてください……! お願いです……もう嫌だ……! 嫌なんだっ……!」


 必死に願うとロウソクが勝手に消え、机ががたっと音を立てて揺れた。

 彼ははっとして、目の前にあるぬいぐるみを見る。わからないが先程の現象を見て、彼は微笑みを浮かべた。


「やった……やった……! これで……これでも……っ」


 嬉しそうに涙を浮かべ、人形を手にして嬉しそうに抱きしめるが。外から歩いてくる足音が聞こえ、彼は慌てて机にあるものを片付けて学校を出ていった。



 8月中旬。

 組織の桜花のシェアハウスにある部屋。カーテンの隙間から漏れる朝日に、紫陽花の少女はベッドの中で身じろぐ。横に寝転んだとき、彼女は気付いて目を開けた。隣に寝ていたはずの恋人がおらず、少女はすぐに身を起こす。

 ドアが開き、人が入ってくる。

 オールバッグにし、髪を一つにまとめている。男性用のパジャマを着ている彼は彼女の恋人だ。小さなお盆には白湯入りのコップがあり、彼は起きた少女に声をかける。


「起きたかい? 澄。おはよう」

「……茂吉くん。おはよう」


 ゆっくりと起き上がり、パジャマ姿の高島澄は彼を見るが眠そうだ。上のボタンが全部開いており肌着が見える。胸の谷間や肌が見えるため、寺尾茂吉はテーブルにお盆を置いて彼女の目の前に立つ。パジャマのボタンを付け直し、茂吉は叱る。


「こらこら、不用心だぞ。女の子なんだから、だらしない格好しない。はい、直したよ」


 すぐに離れ、茂吉は窓のカーテンを開ける。

 眩しい光が部屋に入り、中を照らす。澄は眩しそうに目をつぶる。しかし、まだ眠そうだ。茂吉は彼女の両方の頬を指でつまみ伸ばす。ぐいぐいと戻したり、伸ばしたりしていると澄は不機嫌そうに目を開けた。

 顔を見て、茂吉は笑った。


「目覚めましたか? お姫様」

「……お姫様じゃないよ。茂吉くん」


 彼女の言葉に茂吉は頷く。


「そうだね。わかってる」


 テーブルにあるコップを渡す。澄は受け取って彼を見ると、笑みを消して眉を下げていた。


「お泊りで部屋は用意してあるのに夜遅くに来て一緒に寝たいって言った子は、お姫様じゃなくて悪い子だもんねぇ? 見た目と実年齢踏まえてくないかな。澄」


 トゲトゲした声に、澄は落ち込んでコップを両手で持つ。


「ご、ごめん」


 大人として叱るも、落ち込む姿の澄を見て茂吉は何も言えなくなる。

 夜一緒に寝たいといい、一緒に寝た理由は彼女が泣きそうな顔をしていたからだ。原因は自分にあると自覚しており、茂吉は頭を掻く。

 彼女を何度か泣かせて、不安にさせ、目の前で自害しようとした。消された記憶も思い出してしまえば、夢にも出るうえに不安にもなる。

 茂吉は頭を撫でて、彼女の額にキスをした。


「一緒に寝るだけならいいよ。けど、それ以上は期待しないでよ? 次そういう誘いしたら、ところ構わず襲うからな。気をつけなよ」


 目を丸くして澄は苦笑をしている彼を見ていた。


「でも、昔はこの歳でしてない方がおかいてっ!」


 澄の額にデコピンが入り、茂吉は頬を赤くしながら叱る。

 

「時代が変われば、世俗も大きく変わんの! 今の君は現代人で今の世俗も知ってるんだから、学生は学生らしくなさい!」


 茂吉は叱りつけ、立ち上がって手にしているコップを飲む。照れている彼の背中を見て、澄は微笑みを浮かべてコップの白湯を飲んだ。

 コップの白湯を飲んだあとは、澄は泊まっていた部屋に戻って着替えをする。




 今日はシェアハウスに後輩の依乃と奈央も泊まっている。

 今、彼女達が泊まっているのは、学校はまだ夏休み最中だからである。即ち、夏休みの宿題。三人は夏季講習を受けて学んできたものの、宿題の多さと奈央の精神的に、三人は親の許可を得て其々の彼氏に頼った(ただし、依乃と奈央は付き合っていない)。

 澄はリビングに行くと、台所ではエプロン姿の直文が片手で器用に卵を割って油を引いたフライパンの上に落とす。茂吉が前掛けタイプのエプロンをして、大きな寸胴鍋の相手をしている。

 調理室で見かけるような鉄のお玉を使い、中にあるスープをかき混ぜていた。スープのいい匂いに嗅ぎ付けて、澄はやってきて挨拶をする。


「おはよう。なおくん、茂吉くん」

「あっ、おはよう、澄ちゃん」


 直文は普通に挨拶をし、茂吉は鍋を見ながら「おはよう」と挨拶をする。

 コンロには大きな寸胴鍋だけでなく、昔ながらの大きな釜がある。釜でご飯を炊いているようだ。よく見ると、カウンターにある大きな炊飯器と廊下のコンセントには種類が違う炊飯器がご飯を炊いている。


 澄はぷっと吹き出して、笑いをこらえる。


「っ……茂吉くん。相変わらず、たくさん食べるんだね」

「……燃費が悪いんですよ。俺は」


 顔を赤くする彼に、澄は感心していた。


「でも、よくセーブしているね。本当は山形の日本一とされる芋煮会の鍋を三杯ぐらいはほしいんじゃないかい?」

「惜しい。実際は後二杯ぐらいじゃないとお腹いっぱいにならないよ。俺は。……まあ、あの鍋の量を何百杯食べる先生よりかはいいと思うけど」


 茂吉は思い出して、げんなりとした表情をしていた。隣にいる直文は何度も頷いており、澄は苦笑していた。


「……漱石そうせき先生も相変わらずなんだ。ああ、そろそろ時間だから後輩の二人を起こしてこようか?」

「いいのかい? じゃあ、依乃を起こしてほしい。お願いするよ」


 直文に頼まれて起こさなくてはならない。澄は頷いて二人の少女の寝ている部屋に向かう。



 澄の後輩達は気持ちよさそうに寝ていたが、掛け布団を引っぺがして彼女たちを無理矢理起こした。




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