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平成之半妖物語  作者: アワイン
3 終章
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ex 任務お疲れ様 第三回桜花反省会

 茂吉の体調が全快し、直文、啄木、八一が茂吉に呼ばれた。いつもの居酒屋で食事を奢りたいと。仲間の誘いもあり、三人は居酒屋の戸を開けて入った瞬間。


「任務お疲れ様〜第三回おーかはんせーかぁい〜☆ あっはっはっ☆」


 真っ赤な顔で笑い、ガラスのコップを手にして振る茂吉がいた。彼の座るカウンター席のテーブルの上にはボトルがあり、『桜花産神殺し』とラベルが貼られたものがある。

 気持ち悪いほど、明るくにこやかに笑いながら明らかに酔いどれ。

 直文は顔を押さえ、啄木は深いため息をつき、八一は厄介な気配しかしなかった。茂吉は不思議そうに三人に声をかけた。


「はっはっはっ☆ なんで入口から動かんのー☆

わしもうお酒飲んどらい。早う三人共、えがけんな席に付きなよ☆」

「おい、笑い上戸……方言ででんぞ……」


 八一の指摘に茂吉は笑う。


「もーええじゃん☆ 喋ったら勝手に出てくるんじゃけんさぁ♪

あっはっはっ、居酒屋で酒が飲めるでの~☆ 酒が飲めるでの〜☆

あっそーれ♪ 大☆ 吟☆ 醸☆ ……あっはっはっはっ!」


 酒飲み歌の一部を歌ったあと、自分の言葉で茂吉はテーブルを叩いて笑う。テーブルに乗っている酒の肴も揺れ動いている。『桜花産神殺し』という酒は、組織の誰が飲んでも間違いなく一口で酔う。酔っている彼の相方である直文は呆れていた。わざと強い酒を飲んで酔っているのだ。茂吉は笑い上戸で酔うと普段から出ない方言が出るようだ。

 澄が組織の半妖と戻ってから、彼は罰が悪そうではあったが文句は言わなかった。しかし、やはり文句はあり、それを酒の力を借りて吐き出そうとしているのだろう。

 三人は仕方なさそうに近くに座り、隣に座る啄木は嫌そうな顔をして鼻を押さえた。



「くっさっ! 酒臭っ!! お前無理して『神殺し』を飲むなよ!?

美代先輩、和らぎ水をピッチャーでください! こいつに飲ませます!」


 カウンターの向こうにいる女性に声をかけた。女の人は仕方なさそうに微笑み、台所の方に行く。茂吉は笑いながら、啄木に感謝をする。


「たくぼっくん、だんだん☆」

「あー、はいはい。自棄から早く脱してくれ」


 呆れる啄木。ピッチャーの水が早くやって来る。直文は仕方なさそうにコップに水を入れ、茂吉の目の前に置く。無邪気な笑顔を浮かべて、茂吉はコップを受け取り直文にも感謝をする。


「なおくん。だぁんだん☆」

「……茂吉。お前さ、自分の思う通りにいかなかったからって、酒飲んでやけになって、発散しようとするな」


 茂吉は水を一口飲み、笑いを止めない。


「あっはっはっはっ! だって、おもっしょろいじゃろう?

わしゃあの子の為思うちゃのに、それが全部おじゃんにされてさ!」

「でも、お前も何処かでわかってたんだろう。お前の澄ちゃんを思う行動の全てが、あの子のためにならないって」


 また一口水を飲み、茂吉は笑みを切ないものに変える。


「……ああ、その通りさ。あの子の為にならんのはわかっとった。ほいでも、わしが彼女のためにならんとしても行動したんは……わしの意地が……俺の意地が許さなかったんだよ」


 酔い少し抗い、水を飲みながら茂吉は話を戻そうとする。


「……澄は優しい子じゃけん。……普通に生きとってほしいけん、俺が無理してでも……幸せになってほしい。……俺にとって…………あの子はそう思わせる子なんだ。…………前の件…………問題の元凶は、俺のいなげな意地通し、なんだ。……だから、わしが責任取らなならん……」


 方言の喋りと普通の口調を交えて喋るが目が線になっていくほど、瞼が閉じられそうである。強い酒を飲んだ故に、心地よくなったのだろう。一杯の水を飲み終え、コップを置く。茂吉はうとうととしながら相方に話す。


「ごめん、眠い。直文……少しの間寝てええ? 起きたらちゃんと水飲むけん……」

「わかった。いいよ。もっくん」

「……だぁん……だん」


 腕に顔を埋めて、茂吉は静かになる。神殺しの酒のボトルを下げてもらい、三人は顔を見合わせて苦笑する。直文はビールを頼み、ジョッキを受け取って笑う。


「久しぶりに茂吉が酔う所を見たよな。八一」

「だな。こいつは酒は強いけど基本的に酔うまで飲むタイプじゃないし、酔っても覚まそうとするもんな」

「うん、けど、良かったよ。茂吉がもう自分で首を絞めることがなくなって」

「……そうだな」


 ほっとしている直文に、八一も同意して頷く。ビールを頼んでいる。啄木はジョッキを受け取ったあと、不安そうに八一に声をかける。


「八一、お前大丈夫か? バイクとかで来てないだろうな」

「ないない。お酒諸々奢られる気満々できたから、ICカード以外持ってきてないんだな。たくぼっくん」

「……お前の中で、割り勘っていう言葉はないのか?」

「そんなもん茂吉が奢るって聞いてから、部屋の中においてきた。このお狸様が奢ってくれるんじゃあ、少しはいいの頼んでも文句ないよな?」


 不敵に笑う狐の容赦のない言葉。本当に奢られる気で来たらしく、遠慮のなさに二人は呆れる。八一はジョッキを手に立ち上がって二人に声をかけた。


「じゃあ、早速だけど私が乾杯の音頭を取らせてもらうぞ」

「まあ、別に構わ……あれ?」


 直文が適当に返事をしようとして、隣を見ると茂吉の姿はない。席に座って腕で蹲って寝ていたはずの姿がないのだ。直文は周囲を見回すと、立っている八一の背後に茂吉はいた。

 彼はひざまずいてしゃがんでいる。顔を俯かせて、両手を組む。両方の人差し指だけを突立てる。茂吉は目つきを鋭くして、目を光らせた。八一のある部分へと狙いを定め。


「──こんのぉクソぎつね! ちいとはわしに遠慮する気持ち持てぇぇぇ──!」


 刺激的絶命拳、発射。的中。

 居酒屋の中では、絹を裂いたような八一の悲鳴が轟いたという。



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