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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-2章 彼女に幸 敵には凶
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2 向日葵少女のお泊り

 帰宅して昼飯を食べ終えたあと。

 奈央が来る間、お茶請けとお茶の準備をする。直文も手伝ってくれて早く済む。友達が来るまでの間、奈央の人物像や今日の話をする。夢について話すと、直文は目を丸くして反応する。


「遊園地?」

「はい、オカルトの掲示板で見た話らしいです。直文さんは遊園地の怪談とか知っていますか?」


 聞かれて彼は頷く。


「知っているけど、夢の遊園地による怪談の数は少ないな」


 都市伝説の怪異をものとしない直文。彼は半分人でない半妖という存在だ。半妖で構成されている組織にいるらしく、彼なら詳しいのかと彼女は思った。彼は考えるように腕を組む。


「人間は印象に残るものは夢に出やすいと聞く。夢ならいいけど、怪異ならアウトだ。でも、都市伝説の怪異、もしくは妖怪に遭遇する確率は低い。条件がないと遭遇しない。その女の子に会って詳しく話を聞かないとわからないな」


 夢の怪異を判別するのは難しいようだ。直文の難しそうな顔を見て、彼女は恐る恐る聞く。


「……怪異が関わっている夢を判別できる方法はあるのですか?」

「……うーん、何と言えばいいのかな。夢は曖昧なんだ。怪異が関わっているのか、自分の見ている夢なのかは普通の人には判別がつかない。例え、夢だと自覚できてもね。分かりやすい判別方法として、怪異が関わっている夢は怪談の一部が出てきたら前兆だと考えてほしい。対処できる方法を知っているならば、それで対処をすればいい。けれど、普通の人が怪異を退ける方法なんて少ない。それこそ、悪夢を食べる幻獣がいないと」


 彼は悩ましく話す。

 貘という妖怪。いや、彼女は動物を知っている。だが、マレーバクという動物がいる。貘という悪夢を食べる伝説上の生き物だ。彼女は貘の半妖がいるかどうか気になって聞く。


「直文さん。貘の半妖はいますか?」

「貘だけじゃなくて悪夢を払う半妖なら多くいるし、俺もできる。心配なら、専門家を呼ぼうか?」

「いえ、まだわからないのでいいです」


 携帯を出そうとする直文を押さえて、彼女は息を吐く。何でも出来すぎる彼の組織がどんな風なのかと思う。

 インターホンが鳴る。「はなびちゃん」と声が聞こえ、彼女は慌てて玄関の方へと走っていった。玄関を開けると、互いに私服の奈央と彼女が対面する。


「奈央ちゃん。いらっしゃい!」

「はぁい、はなびちゃん。お邪魔します♪」


 互いに嬉しそうにハイタッチ。奈央は大きなバッグを持っていた。彼女は家に上がってリビングに行く。奈央が姿を見せると、直文はソファーから立ち上がって笑った。


「やあ、初めまして。俺は久田直文です。彼女から聞いていると思うけど、諸事情あってここに滞在しています。よろしくね」


 自己紹介を終えると、奈央は顔を赤くして彼に見惚れる。黙る奈央に直文は戸惑う。■■はぼうっとしている友人の顔を覗き込む。がしっと■■の両肩をつかまれた。奈央は向日葵の花のように、顔を赤くして興味津々な笑顔をしていた。

「ぬぁにが、何もないだって!? はなびちゃん。こんなイケメンさんと住んでいて何もないってどういうこと!? ときめきないの!? ときめかないの!?」

「奈央ちゃん。落ち着いてぇぇ! 本当にないよっ! ほんとーにないっ!」

「うそおっしゃい。こんなイケメンに微笑まれたら、普通にときめくでしょう。この嘘つきにはくすぐりの刑だ!」

「ちょ、奈央ちゃんくすぐっひゃあははっははっ!」


 早速くすぐられて、彼女は笑い苦しむ。リビングに響く笑い声は直文を笑顔にさせた。

 ──彼女のくすぐりの刑を終えた後、直文が二人に冷茶を出してくれる。

 ソファーに座って、奈央の自己紹介をする。早速直文は奈央の夢の話が気になったらしく、詳しく話すように頼んだ。彼女から直文が陰陽師のような霊能力者として話してある。

 奈央は最初は怪しんだ。しかし、オカルトが好きな彼女には面白いネタになると考えたのだろう。奈央は半信半疑で、直文に夢の内容を詳しく話してくれた。

 手にしたチケット。狂ったアナウンス。悪夢の遊園地。人を殺していくのは血濡れた着ぐるみ。死んでいく男の人達。聞いているうちに彼女は怖くなり自分の体を抱き締めた。直文は頭を抱えて溜め息を吐く。暫し奈央を見て彼は口を動かす。


「……アウト。これは、アウト。田中奈央ちゃんだよね?

率直に言わせてもらう。君、呪われているよ」

「はっ!?」


 呪われていると聞いて、奈央は素っ頓狂な声を出す。

 呪いとは、人には強い負の感情を込めて相手に送るもの。または呪詛とも言う。その呪いを奈央は受けているようだ。聞いていた■■は驚きながら聞く。

「な、直文さん。私なら兎も角です。奈央ちゃんが呪われているとはどういうことですか!?」

 ネットのオカルト板に呪いがあるのは感じていたが、見ただけで呪われるとは思えない。硬直している奈央に、直文は言いにくそうに■■を見る。

「考えられるのは君かな。はなびちゃん。君の名前をもっている奴が君の名前を利用して呪詛を送ろうとした。けど、君は俺のお守りをもっているから呪詛を返される」

 ■■は驚き、ポケットにいれているお守りを出した。群青色と金色のお守りと刺繍を施されたもの。今まで呪いを弾き飛ばしてくれていたらしい。

 話を聞いて、奈央は硬直を抜け出して聞く。


「もしかして、呪詛返しですか?」

「そうだ。だから、相手はあぐねただろう。苦肉の方法として、君の縁を辿って友人に呪詛を送った。君に近付こうとする為にね。けど」


 彼は不思議そうに奈央の頭から足を眺めて見た。


「都市伝説の怪異を使用して、俺がよく見ないとわからないほどの微量の呪力。……おかしいな。君、今日神社かお寺でお祓いをしていないよね?」

「い、行ってません。行ってません。真っ直ぐとここに来ました」


 奈央は否定し、直文は■■を見る。彼女も「今日学校でしたから」と証言した。彼は珍しく驚いた表情で奈央を見る。ぶつぶつと何かを呟き始めて、再度奈央を見てまた目を見張った。

 少しだけ黙って、直文は納得したように息を吐いた。


「……変な対応をしてしまってごめん。本当にごく僅かだけど俺の仲間の力を感じた。仲間が君の呪いを取り除いてくれたようだ」

「な、仲間……?」


 きょとんとする奈央の横で、■■は直文に尋ねる。


「寺尾茂吉さんではないのですか?」


 直文は首を横に振る。彼ではないようだ。彼女は直文が組織に属していることを思い出す。恐らく、組織の仲間の誰かがやってくれたのだろうと考えるが、都合がよすぎる。彼らは怪異の遭遇の被害者は出さない。だが、出たら仕方がないと済ませて合理的に事を進める。彼らが関わりのない奈央を救うとは思えない。


「あの、久田さん。完全に私の呪いは解けていないのですよね? かけられた呪いはどうすれば……」


 奈央は自分自身を指すと、彼は立ち上がる。


「これから解くよ」


 直文は奈央の額に人差し指を当てて、一言。


「光明」


 奈央は一瞬だけ光る。二人の少女は目を丸くした。光が消えると奈央は瞬きをし、両肩を回して腕を回す。軽やかに回した後に、驚いて立ち上がった。


「っすごい、軽い。今まで重かったものがない感じ、すっごい! 本物だよ。はなびちゃん!」


 有頂天な友人に■■は戸惑う。「むしろ本職のようなだよ」と突っ込みたいが、ばれるのであえて言わない。直文はソファーに座って、人差し指を立てて秘密のジェスチャーを作る。


「田中ちゃん。俺のことは誰にも話さないでね。俺も仕事が忙しい社会人だし、陰陽師のような仕事をいくつか抱えてるしね」

「はい、わかりました!」


 にこやかに笑って、奈央は返した。話したい盛りの中学生であるが、奈央は迷惑をかけるほど口は軽くない。■■は友人が呪いをかけられた理由を詳しく知りたい。奈央がいない間に直文から話を聞こうと考えた。

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