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平成之半妖物語  作者: アワイン
3 終章
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快晴2

 広場を抜けて、彼はコンクリートを勢いよく蹴る。走るフォームは綺麗であり、周囲の人も一目見るほどに。それに反し走っている本人の顔は焦っており、パークの出口に向かって走っていく。


「あのクソ上司……っ!」


 上司への恨み節を吐き出しながら、普段よりスピードが出ないことを呪う。背後からは足音が聞こえてくる。澄が追ってきているのだろうと茂吉は考え、横を向くと。


「Hi 元気かな。もっきー」

「……やっほ、やっちー」


 八一が並走してきた。茂吉は厄介そうな顔をして、無理に笑みを浮かべる。何故ここに八一がいるのかは聞くまでもないが、取る行動の予測ができる。狸は足を止め、八一は出入り口の先で止まる。茂吉はペットボトルを何処からともなく消した。狐は意地悪く微笑んでみせた。


「どうよ? お体の調子は」

「……病み上がりですがっ?」

 

 息を切らして、狸は答える。この程度で疲れることはないが、体に負担をかけたせいで体力はだいぶ持っていかれた。

 肩を上下させている彼に、八一はニヤリと笑ってみせた。


「滑稽だなぁ。茂吉。翻弄する側が翻弄される側に回るのは本当に面白い!」

「……わかるよ。けど、なんでお前が邪魔をするんだよ」


 相手に邪魔をする理由がないが、八一は楽しげに笑い。


「上司の命令で任務。茂吉を追い詰めよってね」

「あんのぉクソ上司……っ!」


 ぎりっと奥歯を噛み締め、苛立つ。

 八一が任務で逃げるのを邪魔をしている。ならば、茂吉が思い浮べるの顔の人物が後二人ほど邪魔をしている。茂吉は振り返って逃げようとするが、八一は楽しげに声をかけた。


「私が逃すとでも思っているのか?」


 八一は地をかけて、茂吉の手を掴もうとする。

 互いにただ逃げて捕まえるだけの相手ではない。茂吉は掴ませ、勢いよく振り解く。

 八一はバランスを崩して転けそうになる。その前に両手を地面につけて下半身を器用に動かし、茂吉に蹴りを入れようとした。

 茂吉もすぐに反応し、膝を曲げて避ける。バク転の要領で、茂吉は八一から距離を置く。息を荒くして立ち上がると、八一も立ち上がって拍手した。


「ひゅー、体力削られているとはいえ、よく動くな。もっきー」

「お前、こんな公共の場で蹴り入れるかっ!? 周囲の人、見てるんだぞ!?」


 ツッコミをいれる。二人のやり取りをハラハラとしてみている人間もいる。

 狐は楽しそうに微笑む。


「避けるとわかって入れたんだよ。それにこれはパフォーマンスだよ。パフォーマンス。パフォーマンスに見せないと、騒がれるぞ?」


 八一は平然と言って笑い、茂吉は舌打ちをして尋ねる。


「……本当に任務だけで邪魔するのかい?」


 聞かれた八一は、にっこりとするが目を笑ってない。


「面白半分ではあるが、残りの半分は奈央に疑心の監視を差し向けた怒りだ」


 口を滑らせると思っていた奈央に、監視の式神をつけていたのが八一にバレている。話には出るだろうと茂吉は考えていた。ここで出されるとは予想できなかった。

 狐は目を吊り上げ。

 

「お前、私でも見たことない奈央のスクール水着みただろ」

「お前の怒りの動機がすっごく不純ですっごくくだらないなっ!? というか、見てないわっ!」


 ツッコミを入れる。思った以上にくだらないが、流石の茂吉でも常識と良識はある。彼は見ていない。背後から走る足音が聞こえ、茂吉は地面にある石を拾う。


「悪いけど、俺は逃げなきゃならないから邪魔するな! 八一!」


 石を八一に向けて投げた。彼は簡単に避けるものの、隙ができる。その隙に茂吉は逃げ出した。

 日差しが熱く、肌で感じる温度も熱く。茂吉を苛立たせるには十分だ茂吉は紫陽花の咲くエリアに入る。背後からは澄の声が聞こえた。


「っ待って!」

「待たないよっ!」


 一後ろに向いて答え、茂吉はガーデンパークのマップを思い浮かべていた。入口はいくつかあるが、隅にも入り口がある。

 遠回りを覚悟して、近くの木々が生い茂る道に入っていく。澄も後を追って追いかけていく。しかし、脚力は男女と違っているため、茂吉の姿を見失う。睡蓮や池の近くに咲く花のエリアに来たが、茂みや木が多く人が隠れられるほど。


「……何処に行った?」


 組織の半妖は遁術とんじゅつにも優れて入るが、水の中で水遁すいとんを使う余裕も力も茂吉にはない。

 ならば、茂みの方に隠れている。茂吉は手にしている小石を手に遠くの方へと投げる。ガサッとした方に澄だけでなく、通行人も顔を向ける。


「……っそこ!?」


 澄は追いかけるものの、茂吉は音もなく木の物陰からでて道へも入る。池のあるエリアから離れ、彼は細い道から大きな道に通っていく。

 ガーデンパークの隅にも出入り口はある。目の先にある道を選び、曲道を行く。花の美術館と言われる建物が見え、茂吉は曲がった。


「……っ!」


 足を止める。花の美術館に向かう道の入口に、よく知る仲間がいた。その人物は眼鏡をかけ直し、半袖の上着のポケットに手を突っ込む。


「医者の言うこと聞かない悪い大人はだーれだ。お前だよ。茂吉」

「今の俺、お医者様的に悪いことしてないよ!? 啄木!

不可抗力、不可抗力だからね!?」


 息を切らしながら、啄木に告げた。先回りしていたとは予測できず、茂吉は厄介そうに拳を握る。ポケットから手を出し、頭を押さえて白沢はくたくは狸に呆れた。


「仕方ないだろ。これ、一応命令なんだ。あと、俺の私情で九割ぐらいお前への怒り気持ちはある」

「それ、ほぼ俺への怒りだよねっ!? ……っくそ!」


 茂吉は背を向けて逃げるが、啄木が駆け出してくる。





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