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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-4章 止まない雨はない
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12 隠神刑部と紫陽花2

 澄は震えるが、くすぶっている茂吉は動こうとしない。彼だけは守ろうと真正面に立って両手を広げる。


「……食べるなら私だけにするんだ!」

[あっハっ葉ッは、板だキマァァぁあぁぁあ]


 大きく口を開けて、茂吉ごと飲み込もうとした。言葉を聞かないと理解し、茂吉だけでも助けようと突き放そうと振り向く。

 茂吉はいない。

 鋭い銀色の一閃が魑魅魍魎ちみもうりょうの顔を上下に真っ二つにする。化け物の声なき悲鳴が、周囲に木霊した。紫陽花の少女は視線を戻して言葉を失う。

 茂吉は澄を守るように背を向けて立ち、斧を手にしていた。

 魑魅魍魎ちみもうりょうは後ろに倒れて落ちて、湖の下へと転がり落ちていく。茂吉は海の底ほどのため息を吐いて、斧を強く握った。


「……ああ、そういう……そういうこと。拒絶せず澄を受け入れて腹を括れって意味かっ!」


 怒りを顕にし、首についた勾玉のついた数珠を手にして引っ張る。


「けどな。こっちも自分なりに筋は通させてもらうぞ! クソ上司!」


 ブチッと切れ、数珠の玉と勾玉は落ちていく。

 耳についている勾玉も地面に落ちていく。数珠を投げ捨て全ての玉が落ちた瞬間、玉と勾玉は青々とした木の葉に代わり、茂吉の周囲に漂い彼の姿を隠す。

 背後にあるオルゴールが鳴り始めた。

 木の葉の渦が一瞬覆うが、白い手袋をした手が現れ、勢いよく横に動かすとその姿を表した。

 髪は黒く染まっているが、エクルベージュの色がメッシュとして所々に入っている。帽子をつけておらず、全身を紺色で統一した軍服である。軍服専用のズボンと皮のブーツを履いていた。た。

 首にはアクセサリーとしてヘッドホンをつけている。

 流石に暑いのか、彼は軍服の上着を脱いで腰に巻いた。軍服の下はワイシャツではなく、黒のノースリーブのインナーを着ている。狸の尾は腰に巻かれた軍服で隠れていた。

 彼がつけている勾玉のアクセサリーは、力を抑制する封印であった。

 オルゴールの演奏が鳴り響く中、斧を手に持ち直した。茂吉はさくを越えようとする前に彼女に体を向ける。


「一応だ、俺の名前を言っておくよ。俺は寺尾茂吉。人と妖怪の半分の半妖だよ」

「っ、あっ、私は……」


 茂吉は額に指を当てて、優しく微笑む。


「知っているよ。(とおる)


 ある言葉を口にする。

 

消憶しょうおく


 記憶を消す術を使用したとき、彼女の瞼は閉じていく。倒れようとする澄を受け止めて、屋上の上へと寝かせた。

 彼女の気持ちを受け入れはするが、記憶を消すなとは言われてはないと彼はこじつける。

 茂吉は自分のスマホを出して、電話帳で連絡を入れた。


「──もしもし、やっほー、啄木。今、黄泉比良坂よもつひらさかの浜名湖のオルゴール博物館にいるんだ。澄の回収、急いでしてくれないかな? 拒否権はない。じゃあね」


 スマホを切って、澄の側に置いておく。

 魑魅魍魎ちみもうりょうの再生力は落ちており、肉塊は治ることはない。だが、力だけはまだ強い。裂けている上半身を手足の触手で防ごうとしている。その化け物を淡々と見つめて、茂吉は勢いよく飛び降りた。

 魑魅魍魎ちみもうりょうは茂吉に気付いた。雰囲気と力が違うと、本能で理解し怯えるように震えていた。彼は苛立ちを募らせながら笑う。


「ははっ、俺の全力の八つ当り。受けてくれるね? その代わり、地獄に落としてやるよ」


 斧を顔の部分に投げつけると、魑魅魍魎ちみもうりょうは悲鳴を上げる。茂吉は魑魅魍魎ちみもうりょうの核となる部分の上までいき、手を当てた。


「聞こえる囃子は奈落への足音。さあさ、お迎えはこちら!」


 風が周囲に集まる。四方に竜巻ができ、宵闇色の光が混ざる。周囲の湖の水も巻き込み、近くにある木ごと地面をえぐり、山々の葉を飲みこんでいく。頭の斧が抜き出され、魑魅魍魎ちみもうりょうは触手を伸ばしてくる。彼は押す力を強くして、言霊を吐き出す。


八相獄隠はっそうごくいん!」


 周囲の竜巻が消えた。触手は先を鋭くして茂吉を突き刺そうとする。彼は笑みを浮かべた。触手が来る寸前、核の下から爆発的に風が吹き荒れた。力の発現者である茂吉すらも吹き飛ばす宵闇色の竜巻と化す。


[逞帙>逞帙>逞帙>逞帙>逞帙>逞帙>!!]


 痛みの声を響かせる。魑魅魍魎ちみもうりょうの核は竜巻に斬り裂かれ、宵闇色の光に触手は焼かれて消えゆく。魑魅魍魎ちみもうりょうはボロボロになっていく。

 飛ばされて、茂吉は落ちている。

 文字通り、全力の八つ当りで力を使い果たした。湖の上に立つ術使う力も残ってない。封印していた力を無理やり開放したのあり、体に負担がかかったのだ。

 宵闇色の竜巻は消えると、魑魅魍魎ちみもうりょうの姿はない。居た場所には小さな蛍がおり、それは空へと登っていかず、湖の水の中へと沈んでいく。

 魑魅魍魎ちみもうりょうとなった高久は倒された。

 今回の一件は終わったと息を吐くが、落ちていく状況を何ともしようとしない。


「──……ああ、やっと……息をつけそうだ」


 目をつぶる。誰かに手を掴まれ、体は宙吊りとなった。茂吉は驚いて目を開けて、見上げた。


「何が終わった、だ。勝手に終わろうとするな、茂吉」


 叱られ、茂吉は思わず笑ってしまった。


「──ああ、ごめんよ。直文」


 自分の相方に謝り、変化した直文は仕方なさそうに彼を見ていた。




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