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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-4章 止まない雨はない
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5 狸は八変化2

 澄は見慣れぬ町並みを見ながら、言い難い不安を抱く。狙われているから不安なのか。ありえない目にあっているからストレスを感じているのか。


「……何が、不安なんだ……私は」


 呟いていると、重光が近くにあるコンビニの駐車場で止めてくれていた。葛と真弓。澄が車から降りた。扉が閉じられると、車窓を下げて重光は顔を出す。


「天竜川の駅までの地図を渡してある。いいか? 俺がひきつけている間、早くその子を家に帰せよ」

「念を押されなくてもわかっている」


 真剣な葛に、重光は手を挙げた。


「サンキュ。じゃあ、二人共頼んだ」

「待って!」


 車窓を閉じる前に、澄が声をかけた。

 重光は驚き、目線を向けた。何故止めたのか、澄はわからなかった。重光は何を言うのか、待っている。彼女は何を言いたいのかわからず口を閉じて申し訳なく謝った。


「……ごめんなさい。なんでもありません」

「……そうか。じゃあ、俺は行くぜ」


 車窓は閉じられ、車は動き出す。澄は遠くに走っていく車を見つめ続けていた。


「高島さん。彼が敵をひきつけている間、俺達は駅へ向かいましょう」


 葛から声がかかり、振り返る。


「……彼は、大丈夫なの……ですか?」

「大丈夫ですよ。後から、仲間もついていきます。敵に気付かれると厄介だ。今は早く動きましょう」


 彼の言う通りである。三人は急いで駅へと向かっていった。

 葛は地図を見ながら県道を速歩きで歩いていく。細道で行くよりも、大きな道の方が見通しがいい。物陰から追いかけられても、異変が起きてもすぐに気付く。三人は周囲を警戒しながら線路近くに着いた。地図通りに道なりにそって彼らは歩いていく。

 歩いていくうちに、遠くにタクシー広場やバス停が見えて真弓は声を上げた。


「あっ、お兄ちゃん。あそこかな!?」

「多分、そうだな」


 少し古い駅舎であり、少し古い平成初期頃の雰囲気がある。

 天竜川の駅。新たな駅舎はまだ先の未来に立つ。その駅舎の前に一人の男が立っていた。近づいて行くと、その相手は三人に気付いて手を振る。


「おーい、葛、真弓ちゃん」


 サングラスをかけた男性の重光。三人はぼうぜんとして立ち止まり、重光は手を振り続ける。一向に動かない三人をおかしく思った重光は、駆け寄って話しかけた。


「おいおーい、真弓ちゃんと坊や。どうしたんだよ」

「っ! 坊やじゃないって! いや、そんなのどうでもいい」


 彼は首を横に振り、重光に尋ねる。


「重光。おまえ、なんで駅前にいるんだよ!? 車で引きつけてくれて囮役を買って出てるんじゃないのか!?」

「はっ? 車で囮……ってなんのことだ? 俺は保護の手伝いしか聞いてないけど……?

狙っているその子をお前が妹と一緒に守って保護して家に返す。その手伝いをしてほしいって、お前がそう話したんじゃないか、葛」

「はっ?」

「はぁ?」


 二人は意味がわからないという顔をした。葛は重光が囮役を買って引きつけるという作戦を聞いて手伝った。重光は葛からの保護の協力だけを要請していた。

 互いの話を聞いて、真弓は混乱している。


「えっ、えっ? どういうこと? さっきの重光さんは……」

「……えっ? さっき、俺に会ったの? だったら、それ俺じゃないっ!」


 驚く彼に、葛も指摘した。


「だったら、お前が会った俺も俺じゃない! これはっ……」


 静観していた澄はある答えを導き出していた。


「……恐らく、化かされたんですよ。私達は……」


 紫陽花の少女の発言に全員が向く。

 先程の重光は、澄の視界にいる重光とは大分異なる。魂の写身とも言われるドッペルゲンガーでもない。そのままの通り、誰かの姿に成りすました誰かに化かされていたのだ。化かされたと答えが出た理由が、澄にはわからない。彼女の中では不安が渦巻くと共に目が次第に潤んでいく。


「誰かが、私達を逃がそうとした手助けをしたとしか思えない。そうでないと、私達を安全にここまで連れて行こうとはしない」

「……えっ、それって狸関係じゃ──……っ!」


 真弓ははっとして口を押さえ、澄は目を丸くした。


「──たぬき?」


 動物の狸。昔から物語やアニメなどで澄は目にしてきたが、普通に可愛いとしか思えない。しかし、今聞いて言葉に表せない苦しい思いが溢れ出てくる。

 それを表すかのように、澄は胸を掴んだ。





 車を走らせる。重光ではない男はサングラスをかけ直してハンドルを動かす。


「有料道路を避ける為に、ここを通る人も増えたんだねぇ。いいことなのかな?」


 浜名湖を渡る橋をエンジンで走らせていく。浜名湖大橋と呼ばれる場所まで車を走らせており、周囲には湖しかなく逃げ場はない。ここで襲われれば格好の餌食だ。しかし、彼は一人で襲われることが目的であった。目の前の空には多くの鳥が飛ぶ。道路の近くにも車と並走するように飛ぶ。

 ハンドルを片手でつかみ、刀印を切った。


「開門」


 反対車線に走っていた車が一瞬にして消える。しかし、空の鳥と並走して飛ぶ鳥は消えてはいない。

 普通の生き物は、黄泉比良坂よもつひらさかの入り口は通れない。サングラスを取ると一瞬にして青々しい葉となって、宙の中へと消えていく。姿は桜の付きのシンプルなTシャツに変わり、髪形も変わる。ヘアバンドをつけた男性に切り替わった。

 ポケットから栄養調整食品群を出し器用に口で開けて、一口食べる。


「……さぁて、俺のお仕事でも始めますか」


 不敵に笑い、寺尾茂吉は手にしているものを食べていった。




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