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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-4章 止まない雨はない
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3 再び狙われる紫陽花の少女

 テストも終わり。その月の行事もやった。いつものように授業を終えて、学生の上半期の終わりを告げる終業式も終える。

 ちなみにテストの結果は、澄と依乃は上々。奈央に至ってはガッツポーズを決めて、平均点か平均点以上を取り、追試を逃れたのを喜んだ。これには八一も胸を撫で下ろす。

 夏休みに入るが、三人は夏季講習を受ける。

 依乃もなりたいものの為に、直文に勉強を教えてもらいながら夏休みを過ごす。八月に行われる地元の夏祭りの総踊りには、直文とともに地元の夏祭りに参加する予定だ。

 奈央は踊りには参加しないが、見に来るとのこと。七月下旬のインターハイに向けて練習に入る為、インターハイには八一も応援に来るようだ。ちなみに、神通力を得たとしてもずるはしない。正々堂々と挑むらしい。結果は出なくても、彼女はベストを尽くすつもりだ。

 澄は今年の夏祭りに参加するつもりはない。そろそろ進路を考える身として、自分の勉強に身を入れたいのだ。

 故に、夏休みの序盤からバラバラになる。だが、奈央の事もあり、夏休み後半では三人揃う可能性も高い。

 午前の終業式を終えたあと。運動部は部活があり、奈央はインターハイに向けて仕上げた。依乃も部活があり、澄にも演劇の打ち合わせなどがある。

 学校の廊下で三人は歩きながら談笑していた。


「終わるのはいいけど、夏休みの宿題があるのもやだなぁ……。宿題たくさん……」


 落ち込む奈央に依乃も同意する。


「中学の頃に比べて多いもんね。先輩もこの量をこなしたのですか?」

「まあね、でも、慣れてくるよ」


 にこやかに答える先輩に、二人の後輩は凄さを感じていた。

 別れ道となる階段まで来ると、先に奈央は下りの階段前まで歩く。バッグを持って振り返り、敬礼をした。


「では、私は運動部に行ってまいります!」

「私も部活に行きますね、先輩」


 依乃も階段を上がろうとした時。


「二人共、ちょっといいかい?」


 先輩から声がかかり、二人が向くと彼女は穏やかな表情で要件を話す。


「夏休み、会う機会が少なくなるだろう。なら、夏休みの七月の末に浜松のガーデンパークに行かないかい? 久田さんと稲内さんにも誘ってさ」


 思わぬ誘いに二人は目を丸くし、奈央は驚きの声を上げる。


「えっ、先輩。……良いのですか!?」

「いいって、それに大切な人との時間を作りたいだろう」


 澄は恋人もおらず、異性にも同性にも好きな人はいない。激しく嫉妬はしないし、気にはしない。が、夢に出てくる人にはもう会えなくなった。澄はそれだけが気掛かりであり、何処か不安がある。依乃は恐る恐る話しかけてきた。


「受けますが……ここ最近変な感じはありませんか??

体調が悪いとか……」

「えっ、ないよ。急にどうしたんだい? はなび」

「いえ……前、先輩が部活を早退した話を思い出したので心配になったのです」

「ああ、なるほどね。大丈夫だよ」


 にこやかに微笑む対応をする。澄は心配する理由がそれだけではないと察して、納得する演技をした。深入りしてほしくなさそうな雰囲気を感じて澄は詮索しない。依乃は少し考え、返事を送る。


「直文さんに連絡を取ってから決めます。彼も忙しいので」

「あっ、私も! 八一さんの返事を聞いてからにします!」


 奈央も同じように答え、澄は笑顔で手を振る。


「了解。じゃあ、二人共ここでお別れだ。また明日会おう!」

「「はい! 先輩もまた明日!」」


 二人は背を向けて、別々の階段をゆく。二人を見送ったあと、澄は笑顔を取り繕うのをやめた。

 部室に向かわず階段を降りて、下駄箱に向かう。今日の部活動について、澄も行くはずだが先生に話して休ませてもらった。心配をかけさせる為、後輩には話していない。

 下駄箱で靴を履き替えて、彼女は下校した。

 学校から離れていく。

 見慣れた住宅街と歩いている人々。町並みを見ながら彼女はゆっくりと歩いていく。

が、不穏な予感といくつかの目線を感じた。周囲を見てみるが、店と信号機があるだけ。住人はいつものように日常を過ごしている。

 できるだけ広い場所で様子を探ったほうがいい。駿府公園に向かおうと考えるが、彼女は公園とは真逆の方に走って行く。

 住宅街に入り、澄は後ろを一瞥した。

 後ろから影らしきものと、空の鳥が澄の走る方向に向かってきている。

 普通か否か確認の為だ。不審者ではあるが、普通の人ではない。彼女はジグザグ道を走って公園の方へと向かっていく。背後から感じる気配が乱れていくが、空の鳥はいつまでも彼女についてくる。


「……まず、交番かな。それでだめならば、神社によるしかない」


 駿府公園の堀が見え、横断歩道を渡る。第二の堀を超えていると、目の前に人が降りてくる。澄は目を丸くして後ろに下がる。

 じっとりとした嫌な汗と暑さを感じながら、彼女は相手を睨んだ。男はガタイのいい男で、サングラスとスーツのようなSPの姿をしている。追ってきているなら汗をかいているはずだが、雫一つも見当たらない。

 自分より大きな相手に澄は息を呑む。男はまじまじと見つめて、問いかける。


「お前は、とおると言う女か?」

「どなたでしょうか?」


 気付かれぬよう彼女は足を後ろに一歩下げて苦笑した。とぼけてみるが、澄は無理だろうと判断して逃げる準備をしている。追ってきては目の前に現れ、真っ直ぐと名前を聞かれる。明らかに相手は狙ってきているのだ。

 相手側の目的のターゲットであろうがなかろうが、澄は逃げなくてはならない。彼女の答え方に、相手は眉間に皺を寄せた。


「嘘をつくな。お前だろう。とおると言う女は」

「……だとしたら?」


 男は歪んだ笑みを浮かべながら歩み寄り、手を伸ばしていく。


「お前を手に入れて、我らの力を強くする。その前に、お前を人質にさせてもらう」


 歩み寄る分、澄も後ろに下がる。

 悪寒を感じて背筋を震わせ、彼女は道路側に逃げる。先程の澄の背後には、同じ格好をした男がいたからだ。いつの間にいたようだ。彼女は退しりぞこうとして、足を止める。道路であり、通行量も多い。襲われかけているのに、歩行者と車の運転手は男達に気付かない。

 澄は息を呑んでいると、彼女の後ろから札が二人の男に飛んでくる。

 

「──っ? ぎぃ、ぁぁぁぉ──!」

 

 張り付き、男達は電流を浴びて悲鳴を上げた。背後に振り向くと大きな車から少女が降りてくる。


「こっち!」


 一人の少女が澄の元に来て、手を引っ張る。

 引っ張られ、車の中に入れられた。相手が痺れながらも追ってくる。少女は勢いよく扉を閉じた。運転手は強くアクセルを踏んで男達を置いていく。

 澄は車の勢いで座席に座る。シートベルトをかけて、彼女は澄に声をかけた。


「座り直して、シートベルトをかけてください。このまま高速へと向かいます!」

「えっ、あっ、はい!」


 澄は言われた通りに、座り直してシートベルトをした。

 エンジン音が激しくなる。

 車の走るスピードが上がり、澄は彼女を見た。

 暖色の服を着た夏椿か白椿のような可愛らしい少女だ。肌の手入れを欠かさずしているのか、肌は白かった。髪を結び、大人しそうである。澄より一つ下の少女であるが、先程の札を飛ばしたのはこの少女だ。車の中を見ていると、運転手だけでなく助手席に男性もいる。

 速度制限を越えるほどのスピードを出していた。町中を走っているが、通り過ぎる車やパトカーは澄の乗っている車両に気づかない。

 車は前の車を通り過ぎて先へ進む。車に何かしらの術がかかっているのだと、澄は冷静に分析する。

 背後から追ってくる気配は既にない。町中を抜けて、車は高速に入る。車のスピードは落ち着きを見せ始めた。

 車内にも緊迫した雰囲気は少し和らぐが、緊張は抜けていない。この隙に白椿の少女に話しかけた。


「……あの、君は?」

「……あっ、ああ! ごめんなさい。急に連れ出して失礼しました」


 隣にいる少女は澄に頭を下げた。


「私は三善真弓みよしまゆみと申します。私達は貴女を狙う悪い人から守るために助けました」

「……初めまして。高島澄です。君たちは……もしかして退魔師か何か……?」


 聞いた瞬間、真弓という少女は間抜けた顔をした。助手席にいる男性は顔を向けて呆れて真弓に話す。雰囲気は似ているが、顔つきは凛々しい。


「真弓。おまえ、あからさまに退魔の札を投げるから、わかっちゃうだろう……。

初めまして。俺は三善葛みよしかずら。真弓の兄で、俺達は陰陽師をしているんだ。隣にいる運転手の重光しげみつも同僚だ」

「よろしく」


 運転席の男はサングラスをした短い髪の男であった。

 陰陽師と打ち明けられて澄は納得して頷く。通り過ぎていく人や車から男達が見えないのに、三人が見えたのは彼らが陰陽師だからだ。





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