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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-3章 梅雨の時期に語られる過去話
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14 ep 平成 過去話終わり2

 茂吉が部屋に閉じこもったあと。啄木は仕方なさそうに笑っていた。


「……恋すると厄介なのは乙女だけじゃなく、恋する男も厄介になるんだよな」

「それは、実体験か? 啄木」


 八一の問に、啄木は苦笑する。


「前に、あいつが言ってたんだよ。その時はもうあいつは自分の性格すらも化かしてたな。その前から明るく振る舞うやつではあるけど……そこから酔狂言な性格を演じるようになった。気難しいやつだよ」

「……人のこと言えるか? たくぼっくん」

「まあ、お前には言われたくないな。やっくん」


 言い返されて八一は楽しそうに微笑み、啄木も白い歯を見せて微笑み返す。二人のやり取りを見て奈央は緊張が抜けて、依乃に声をかけた。


「はなびちゃん。私達はこの先先輩が寺尾さんを思い出させないようにすればいいんだね?」


 友人の言葉に首を縦に振る。


「……そうだね。私達が先輩と寺尾さんにできる事はこの過去を先輩に話さない。問題が根深すぎるもの、私達に出来ることは少ないよ」


 依乃の言葉通り、直文たちも手の出しようのない当人同士の問題だからだ。

 生まれ変わったからといって、浄罪じょうざいしているわけではない。組織の半妖故に、前の罪はノーカウントされるわけではない。人殺しをしていた真実を思い出してしまえば、諸々の罪悪で澄が押しつぶされる可能性がある。

 直文は全員を見て話す。


「ともかく、俺たちができるのは高島澄ちゃんを守ること。そして……悪路王と言う存在について探りを入れる。……穏健派といえど陰陽師の方もキナ臭い。常に警戒をしつつ、俺たちの仕事をこなそう」


 現時点、できることをするしか無い。彼らも組織の業務をこなしていくしかない。依乃に直文は話す。


「依乃。体質的に君が一番狙われる可能性がある。……用心してくれ」

「……はい」


 彼女は頷いたあと、直文は相方の部屋のドアを見て呟く。


「……茂吉。そろそろ腹をくくるべきなのかもしれないぞ」


 彼らは各部屋に戻る。解散したリビングの中を包むBGMは雨の音だけだった。






ぴちょん。雫の落ちる音。反響して聞こえ、彼女はすぐに違和に気づく。

 澄は真っ暗な闇の中にいた。周囲に果てはなく、彼女が闇に飲まれることなく光っている。目の前には人がおり、その人物はジーパンとスニーカーしかわからない。


【君は普通が似合う女の子だよ】


 優しくも突き放す言葉。


【君は人を死ぬのを見たくないだろう。殺した夢なんて見たくないだろ。恋という甘い瞬間に溺れて、罪悪感を抱きたくないだろう。あの時の君は姫という立場であった方が、幸せだったんだよ】


 それはやがて罵倒に変わる。


【ああ、そうさ。君は姫であった方がよかった。君は弱い。とっても弱い。怖いはずなのに無理についてきたり、役立ちたいからという理由で頑張ろうとして。

ああ、愚かしい献身性! 愚直ぐちょくなほどの優しさ! 自分の弱さを正そうとして地獄で裁かれようとする姿勢は見事だよ!

そんなんだから、本当に怖いものと向き合えないんだよ!】

「っ……! 君は私の何がわかると言うんだ!」


 図星を突かれて、彼女が激昂する。人殺しが怖いのは当然だ。出来なくて、しようとしないのが正解だ。


【わかるよ。よく知っているからね】


 澄は呆け、彼女の声の主はふっと笑った気がした。


【知っているから、そのままでいてほしいのさ。もう、俺がいなくてもいい。もうあの日々はない。君は今のまま、どうか平穏に穏やかな日々を送ってくれ。それだけで俺に十分なお釣りが来る。だから、今の弱いままでいてほしい】


 突き放され、罵倒され、優しく思われ、先程の温度差についてはいけないだろう。

 しかし、澄はわかってしまった。全ての言葉が自分を思う為の言葉で、何かから遠ざけようとしているのだと。また彼が夢の憧れの人だと。足は方向を転換し、澄に向くのをやめる。


【君の憧れの夢はこれっきり。思い出さないだろう。もう俺と会う機会なんてこれっきりにしなよ】


 背中を向けて歩いていく彼。何もない闇に自ら進んでいく姿に、彼女は息を呑んで衝動のまま駆け出した。


「──やめて、行かないで!」


 背中を彼女は追いかける。


「やだ! 嫌なんだ! 私は君のお陰で頑張れた。君の憧れで、私は私としてここまで来られたんだ!

……お願い! こっちを向いて……私に笑ってよ……!」


 その声を聞いて、足が止まる。

 今のうちに彼女がありったけの力を込めて、彼の元に向かう。

 足が澄に向いていく。空間も少しずつ明るくなっていき、彼女の憧れの人が澄の方へと体を動かしていた。


【ああ、まったく──澄は仕方ないなぁ】


 優しく仕方なさそうに彼は笑っている。彼女はその顔に唖然とするが、見られたのはほんの僅か。すべてが白く包まれ、澄も白い光に飲まれていった。





 目を開けると、見覚えのある天井が見えた。木造の天井に部屋の匂いは落ち着く。ゆっくりと身を起こすと、家の自室に寝ていたらしい。起き上がって部屋の電気をつけた。

 部屋の中は変わらない。服装は登校した時と変わらない服装だ。いつの間にか家に帰ってきていたらしく、彼女はしばらくその場に固まった。

 部活を早退して学校を出たのは覚えている。その後、何をしていたのかわからない。

 すぐに帰ってきた記憶はなく、家で何をしていたのかも記憶にもない。


「……夢遊病……な、わけないか」


 ありえないと考え、彼女は頭を押さえる。


「何か夢を見たような気がするけど……」


 彼女は覚えていない。てない。

 色々と覚えていない事に違和感がありつつも、彼女はカーテンを開ける。外の雨は止んでいない。ぽつぽつと降り注いで、地面を濡らしていく。何かあったっけと、彼女は真っ暗な外を見続ける。




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