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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-3章 梅雨の時期に語られる過去話
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12 ねぇお願い生きて 人として幸せになって

 金長の一族から場所を教えてもらう。

 彼女の故郷に近く、金長の一族でも見守れる場所である。今世のとおるは彼らが守る為、後を任せた。泊まって翌朝に朝食をもらって、二人は金長の屋敷を出る。現し世に戻って、変化を解いて人気のない通りを二人は歩いていった。


 空はまだ朝日が登る前なのか、少し暗い。


 教えてもらった場所まで誘導させ、とおるは前に歩かせた。茂吉は後ろを歩いて、彼女の背を見つめている。通りを過ぎてはならないと茂吉が声をかける前に、彼女は振り返った。

 彼はキョトンとすると、とおるは切なげに聞いてくる。


「茂吉くん。本当は私に自裁させないようについてきたんだよね」


 彼女の指摘に茂吉は目を丸くして、微笑みを見せた。


「……なんだ。気付いてたんだ」

「百年近くもいるとわかるよ。……私が自害するのを防ぐためなんでしょう?

もしくは、もう私が苦しまないように、茂吉くんが自分の手で」


 言い切る前に茂吉は斧を出して、彼女の胴体を斜めに斬りつける。傷を深く入れず人の処置を施せる範囲で。

 とおるは何が起きたのか、わからない様子だった。彼女は横に倒れ、茂吉は彼女を見下ろす。斧を刃を地面に置いて、笑ってみせた。


「そうだよ。あの人も知っているし、許してくれたよ」


 肯定をし、血を流して倒れる彼女の目の前に来てしゃがんで顔を見る。


「変化できないし動けないよね? 斧の刃に毒を塗ってあるから動けないんだよ。たかが半妖が斧で斬られてやられるわけない」


 毒を塗られて、動けぬようにした。殺すならもっと人のいない場所で殺すと組織の半妖はわかっている。彼の意図を理解できずに彼女は呆然としていた。

 とおるの額に指を当てる。


「さあ、もうここでお別れだ。とおる。君は君の道を行け」

「……も……きち……くん……なに、を……す」


 彼の顔を見ようとする彼女は言葉を失う。茂吉も自分が情けない顔をしているとわかっていた。苦しさを堪えながら笑っている顔をこれ以上見せるわけにいかない。


「消憶」


 記憶を消される術をかけられる。言葉とともに、彼女は目を閉じていく。


「──大丈夫。後は俺が何とかするから」


 彼はとおると共にいて、何を思っているのか。多く理解できた。しかし、閉じられる瞳の中、とおるが何を思ったのかはわからなかった。





 眠るのを見届けたあと、茂吉は身隠しの仮面を出して顔にはめて大きく離れる。

 まばゆい光が地平から現れた。朝の空は白んでおり少しずつ、青さを少しずつ見せていた。人が通る時間帯となり始める。

 遠くから一人が通る様子を見た。

 人の良い商家の人間の人相と特徴を教わっており、間違いなく一致する。とおるが倒れているのを見て、相手は慌てて駆け寄った。

 息はあると確認したのだろう。苦しそうな顔をしている彼女に簡単な応急処置をして傷口を布で塞き、商人はとおるを背負って町へと歩いていく。茂吉は無事が確認できるまで、彼女を見守っていた。





 ある日の四国の寺にて。


説法せっぽうではなく、昔話を聞かせてくれとは珍しい旅人さんですね。


ええ、構いませんよ。そうですね……何を話せばいいのか。


……私の話でもよろしいのですか?


そうですね……お恥ずかしながら掻い摘んで、お話しいたしましょう。


私、どうやら道端でけがをして倒れていたようなんです。

親切な商家さんに助けられて、私はそこで奉公させてもらっていました。でも、元より身寄りのない私が置いていくのに、迷惑をかけるわけにはいかなくて仏門の身に投じました。

……自分の名前はわかるのになんで倒れていたのかも、怪我をしていたのかもわからなくて……。

私には昔の記憶がないようなのです。


でも、何とかなると思います。仏様は私達を見守ってくださる。


……えっ? 今の生活は充実しているか……ですか? ……そうですね。


尼として生きて、日々は目まぐるしいです。でも、日々が違って見えて面白いですよ。


────…………ああ、けれど、何故か、胸に空いた気持ちだけは……いつもあるのです。


変なお話をしてすみません。

ですけど、お兄さん。あと巡礼場所が四十四カ所なんて凄いですね。あと、半分じゃないですか。この先、大変になるでしょうけど、頑張ってくださいね」






 門前で見送る美しい尼に青年は笠を深く被って頭を下げた。

 四国八十八ヶ所のお遍路さんだ。

 お遍路さんと聞くと、平成の人々は菅笠すげがさに白衣と輪袈裟わげさ手甲てっこう金剛杖こんごうづえ数珠じゅずなど白衣の姿を思い浮かべる人が多い。お遍路さんの白衣の姿のイメージは昭和初期に定着したらしい。何故、白なのかというと白は死装束。四国八十八ヶ所を回る際に行き倒れで死ぬ人物も少なくない故に、白衣を着るのだと言われている。

 江戸後期に四国八十八ヶ所には、平成のような楽ができる公共機関はなかった。己の足で行くしかないのだ。寺から離れていく最中、彼は道のかたわらにいる遍路の姿に気付いて立ち止まる。る。その遍路は誰かを待っているようだ。

 その相手は青年に気付いて笠を上げて、心配そうに声をかけた。


「もういいのか? ()()


 呼んだのは直文だ。青年──いや、茂吉は遍路の格好を変えずに、化けた姿から本性へと戻る。

 先程の尼はとおるだ。茂吉は彼女の無事を見届けた後に、見守りを金長の一族に任せてある。とおるの記憶を消した後は金長の一族とも親交しておらず、顔を合わせていない。数年後、相方の直文からとおるが仏門に入る身を投じたと聞いて、確認の為に変化をして顔を見てきた。

 元気そうな姿に安心しつつ、直文に顔を見せて彼は笑ってみせる。


「うん、もう満足だよ。ありがとう、直文」 

「……本当に、大丈夫?」


 優しい相方の声かけに茂吉は軽快に声を上げた。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ! 俺は笑顔が取り柄だからね☆」


 いつもと違う相方の表情に直文は戸惑い、不安げな顔をする。ここから、寺尾茂吉は己の性格すらも化かし始めた。


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